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倉敷市における災害廃棄物処理ネットワーク構築への取り組みについて(続編) ~「しかけ」としての訓練の実施について~

倉敷市 環境リサイクル局 リサイクル推進部 大瀧慎也

前回の記事はこちらから

災害廃棄物処理における新型コロナウイルス感染症対策について

2023年11月

目次

1.はじめに

2.「しかけ」づくりとは

3.図上訓練の実施

4.総合防災訓練の実施

5.訓練を振り返って

6.さいごに

1.はじめに

 前回、「倉敷市における災害廃棄物処理ネットワーク構築の取組みについて~民間企業やボランティア団体との連携を目指して~」では、倉敷市域において市を中心として、民間企業やボランティア団体、地域住民等が協働して自ら発展していく身近なコミュニティネットワークとなるための「しくみ」と「しかけ」をつくる取組について紹介した。  
 この取組において「しくみ」とは、過去の対応事例やノウハウを標準化したもの(誰がいつやっても同じ手順で業務を進めることができるシステムのこと)であり、マニュアル等で整備された体系と言えるが、本市における「しくみ」の特色は、災害廃棄物処理計画、業務継続計画(BCP)、災害廃棄物処理初動マニュアルといった垂直的な体系のみならず、初動マニュアルにおいて地域における水平的な、いわば面的な連携の構築を図ったことにあると感じている。
 今回は、前回の記事の続編として、この垂直、水平両方向に広がる「しくみ」において、業務の流れを切れ目のないものにしていくための「しかけ」づくりについて紹介する。

2.「しかけ」づくりとは

 私は、この取組における「しかけ」を、前述の「しくみ」を起動するためのスイッチの役割となるものであると考えている。計画やマニュアル等の「しかけ」は、ただそれを作るだけではいざというときに役に立たない。いつ、誰が、どのように行動するのかを確認し、いざ災害が発生した時に速やかに実務につなげるためには、平時における訓練が欠かせない。
 面的な連携において、自ら動くことはもとより、他の組織を動かすためには、一方的に行動を強いるのではなく、自発的な行動を促すための「目的」と「やくわり」を共有することが鍵となる。
 これを基に考えてみると、「しくみ」を機能させるためには、連携する理由やメリットを話し合い、動機を与え、支援活動そのものに意味を持たせることが必要となる。

3.図上訓練の実施

 策定した初動マニュアルの「考え方」や「やくわり」を、市職員を含めたステークホルダーに周知し、浸透させるためには、我が事意識を持って読んでいただくことで、個の成熟度を高めるとともに、そこで得た「考え方」や「やくわり」を何らかの判断や行動につなげられるよう、組織としての成熟度を高めることが必要となる。そこで本市では、令和4年度に民間企業やボランティア団体と連携し、初動マニュアルのアクションカードを活用し、「片付け」と「処理」の内容に分け、2度の図上訓練を実施した。これらの訓練で私が重視したことは、「知識ではなく、初動時の動きを学ぶこと」であったが、その裏にあるのは、漠然と知識を詰め込むのではなく、「やくわり」に基づき自らとるべき動きを基に、平時の備えを意識していただきたいとの思いであった。

〇民間事業者等との図上訓練

「倉敷市災害廃棄物処理初動マニュアル」のアクションカード(2)「一次仮置場の選定」、(3)「一次仮置場の設置」、(5)「災害廃棄物の収集(通常収集)」、(6)「災害廃棄物の収集(特別収集)」を活用し、発災直後に市が業務ごとに開催する対策会議への参集、役割分担、処理方針の検討等の実施フローについてシミュレーションを行った。その後、業務ごとにグループディスカッションを行い、マニュアルに関する課題検証や、役割を遂行するための平時からの準備等についての意見交換・集約を行った。

サンプル画像1

写真1 実施フローの確認

サンプル画像2

写真2 意見交換

〇ボランティア団体等との図上訓練

「倉敷市災害廃棄物処理初動マニュアル」のアクションカード(10)「広報・住民窓口」、(11)「ボランティアとの連携」、(8)「被災現場管理」を活用し、「住民やボランティアによる片付け・ごみ出し」について、連携や情報共有の方法、広報・伝達ツールの活用、片付け時における分別、仮置場への搬送支援、仮置場での積み下ろし等について課題の掘り起こし、課題解決に向けた意見交換を行った。

サンプル画像1

写真3 事例紹介 

サンプル画像2

写真4 意見交換  

4.総合防災訓練の実施

 このように、民間企業やボランティア団体等、それぞれのステークホルダーの行動を体系化することで、地域内における災害廃棄物処理ネットワークの構築を図っているところだが、あくまでもその中心的「やくわり」を担うのは倉敷市であると認識している。
 ここで言う「やくわり」の肝となるものは、大規模災害発生後、速やかに災害廃棄物処理体制を構築し、途切れることなく民間事業者やボランティア団体等の参集につなげ、連携業務を開始することにあると感じている。
 本市では、市災害対策本部の動きと連動しつつ、この官民連携による災害廃棄物処理初動体制に切れ目なくつなげていくため、令和4年度倉敷市総合防災訓練において、参集、被害状況の確認・報告、災害対策本部会議(WEB)の開催等、全庁的な行動が求められる状況下で、「倉敷市災害廃棄物処理初動マニュアル」のアクションカード(1)「災害対策部の立ち上げ」の実施フローについてシミュレーションを行った。

サンプル画像1

写真5 災害本部会議(WEB)対応

サンプル画像2

 写真6 掲示板による情報共有

5.訓練を振り返って

 民間事業者等との訓練では、参加者それぞれの動きを確認し、イメージに落とし込めた。そして、イメージが湧くと、一つひとつの行動に対して問題意識が生じ、次々と疑問が出るようになってきた。次なる備えは、アクションカードのアクションごとに5W1Hを深掘りして肉付けを行っていくこと、及びそれを定期的に共有し合うことであることを確認した。
 ボランティア団体等との訓練では、市と団体等との間でいかに連携が取れていなかったかを実感した。また、市がやりたいと思っていたSNSでの情報共有や、片付けごみの仮置場への運搬支援等が既に行われていたこと等を改めて確認した。
 総合防災訓練では、初動時には災害対策本部への対応に手を取られ、災害状況に関する情報が目まぐるしく変化していく中、その集約、共有及び本部への報告等に想像以上に時間がかかり、災害廃棄物処理の業務に集中できないことを痛感した。

6.さいごに

 災害廃棄物処理に明確な正解はないが、だからと言って何も考えないわけにはいかない。ましてや、いざ災害が起こると、市は何かしらの結論を出さなければならない。
 しかし、現時点ではまだまだ「こうしたほうが良い」「こうすべきだ」といった課題を具体化するに至っていないことのほうが多いと痛感している。
 冷静な状況でできることであっても、混乱した状況下ではできなくなってしまうことがあるが、普段から備えていないことはなおさらできない。そのような中、平時から議論によって意識的に違う視点を持ち込み、備えておくことで、今とることができる「最善解」を導き出すことができるようになり、それを継続していくことではじめて、行動に移すことができるレベルまで引き上げられるようになると感じている。
 だとしたら、普段業務に追われているとしても、訓練を行うことが欠かせないのではないか、それを実行するために必要なのが「しかけ」であると信じ、今後も取組みを進めていきたい。

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