倉敷市 環境リサイクル局 リサイクル推進部 一般廃棄物対策課 大瀧慎也
2022年9月
目次
1.はじめに
2.災害廃棄物処理ネットワークの必要性への気づき
3.倉敷市での取組み事例
・「つながり」づくり
・「やくわり」のへの意識
・「むすびつき」へのしかけ
4.さいごに
1. はじめに
今、地震や異常気象などによる水害は「めったに起きないもの」ではなく、「毎年どこかで発生するもの」という認識が広がっており、災害に対する不安感が社会全体を覆っている。毎年6月後半くらいになると、大規模災害による悲惨な状況をテレビで見かけるようになったが、多くの住民の間では未だに自分の周りでは起こらないといったバイアスが働いている。しかし、いざ災害が起こると人々はパニック状態になり、何から手を付けていいか困惑してしまう。
人は膨大な量の災害廃棄物を前にすると、周りの人とつながらざるを得ない。この「つながり」とは、災害前から変わらない「地域のつながり」に加え、「災害により新しくできたつながり」、つまり、被災者支援(片付け・運び出し等)及び行政支援(処理・処分等)における出会いによる新しいつながりであって、災害廃棄物処理に関するネットワークとなって被災者の拠りどころとなる。
我々が行う災害等廃棄物処理事業は、ただ単に目の前の災害廃棄物を撤去するのみならず、多くの人が結びつき、力を合わせて元の社会機能を回復し、新しい社会をつくりあげるための速やかな第一歩を踏み出すための「しくみ」をつくることにこそ、その目的があると感じている。
2. 災害廃棄物処理ネットワークの必要性への気づき
2018年の夏、倉敷市は西日本の広範囲で発生した「平成30年7月豪雨」や記録的な猛暑に見舞われた。これらは多くの犠牲者をもたらすとともに、住民の生活、社会、経済に甚大な被害を与えた。当時の私たちは、文字通り目の前にそびえ立つ災害廃棄物の撤去を無我夢中で行ってきた。その時に経験した困難な状況の中には、同時に大規模災害に対する強固な体制をつくる可能性が秘められているといった感覚も存在していた。つまり、災害廃棄物処理のネットワークは起こってしまった災害に対応するためのみならず、今後起こるかもしれないあらゆる災害をみんなで乗り越えていくために必要なものなのである。
大規模災害となると、被災自治体の職員だけでは災害廃棄物処理はできない。外に向かって支援を求め、地域住民をはじめ、民間企業、ボランティア、NPO団体等が結びつく中で、はじめて処理体制構築の展望が見えてくる。こうして自然発生的に支援の輪が広がっていくのだが、その個々の行動は被災者を助けたいといった漠然とした共通目的がありながらも、ひとつにまとめる力が働かず、不統一な形での行動となってしまうことがある。この状態で相互に影響し合えば、批判といった混乱へと導くことになる。
平成30年7月豪雨での対応後に、当時協力いただいた民間企業やボランティア団体の方々と意見交換し、当時の経験を基にこの不統一な形での行動をどうすれば体系化できるのか考えてみると、市が取り組むべきことのイメージが徐々に浮かんできた。
前述のとおり、大規模災害への対応となると、人と人との「つながり」が必要になる。「つながり」ができることによって、それぞれが「やくわり」を担う。そこに、もっとも大切な人と人との「むすびつき」が生まれる。この「つながり」と「やくわり」と「むすびつき」を生み出す過程のなかで、「被災地域からの災害廃棄物の早期撤去」を共通の目的として掲げ、それぞれのステークホルダーの行動を体系化することが倉敷市における災害廃棄物処理ネットワークの核心である。
片付け作業の様子
3.倉敷市での取組み事例
平成30年7月豪雨災害を機に、国は、住民が「自らの命は自らが守る」意識を持って自らの判断で避難行動をとり、行政はそれを全力で支援する、住民主体の取組強化による防災意識の高い社会を構築するということを示した。
倉敷市では、平成30年7月豪雨災害の経験を基に、令和元年度に倉敷市災害に強い地域をつくる検討会を立ち上げ、令和2年度に「平成30年7月豪雨災害を踏まえた倉敷市の災害に強い地域づくりの在り方について(報告書)」をまとめた。また、同年、倉敷市が、豪雨災害の原因ともなった高梁川の流域自治体等とともに昭和29年に設立した高梁川流域連盟から受け継いでいる官民連携による持続可能なまちづくり、そして、平成30年7月豪雨災害の経験を住民と共有して進めている災害に強いまちづくりの取組みが、内閣府の「SDGs未来都市」に選定された。併せて、SDGs未来都市の中でも先導的な取組であって、多様なステークホルダーとの連携を通じて地域における自律的好循環が見込めるものとして、「自治体SDGsモデル事業」に選定された。
当時、防災に対する意識が高まる一方、発災直後には大きな話題となっていた災害廃棄物が目の前から無くなり、処理が完了してしまうと、次第に人々の記憶から薄れていくことに危機感を感じていた。防災対策と災害廃棄物処理対策との間には、依然として意識の差が存在しており、体制構築の大きな壁の存在を実感させられた。そこで倉敷市では、自治体SDGsモデル事業において「災害廃棄物処理官民連携事業」を実施することとし、被災後の対応力を高めることを目指し(1)通常収集をできるだけ速やかに再開すること、(2)災害廃棄物をできるだけ早く被災地から撤去すること、この2点を共通の目的とした、住民、民間企業、ボランティア団体、NPO等とのネットワーク化を図っていくこととした。
「つながり」づくり
ネットワーク化を図っていくためには「目的」の共有が欠かせないものであるとともに、初動時に一斉に行動に移すための「役割」の共有が鍵となると考え、共通のマニュアルが必要であると実感した。そこで、倉敷市の考えに賛同していただいた関係団体の方や、市の廃棄物以外の担当者らと共に、つながりをつくる場として、SDGs災害廃棄物処理官民連携会議を開催することとした。
官民連携会議の様子
「やくわり」のへの意識
官民連携会議では、様々な立場の方に参加していただいたため、その立場によって問題は大きく異なるものであり、解決策の方向性は180度違ってくることも想定された。しかし、それを意見の相違として諦めず、問題発見力として「強み」であると前向きにとらえ、共通の目的を達成するために、各ステークホルダーがどの場面で自身の強みを活かすことができるか、また、その強みを活かすためにそれぞれがどの役割を担うか等について意見交換を行い、「倉敷市災害廃棄物処理初動マニュアル」としてまとめた。本マニュアルでは、「わがこと意識」をより感じやすいものとするため、後半をアクションカード形式とし、関わりのある業務から関心を持って読んでいただけるものとなるよう工夫した。
倉敷市災害廃棄物処理初動マニュアル
「むすびつき」へのしかけ
こうして作成したマニュアルはあくまで発展途上の形と割り切ったものであり、その後の訓練等を通じて更新をかけることを前提としていた。そこで、令和4年度には、作成したマニュアルの目的及び各団体の役割を再確認し、更なる課題を掘り起こすため、マニュアルを活用した図上訓練を実施することとした。訓練は、「災害廃棄物処理」及び「被災家屋の片付け/ごみの排出」のテーマで、2回に分けて行った。
本訓練によって、いつ、誰が、どのタイミングで行動を開始するか共通認識を持つことができた。また、本訓練を一緒に行った他団体のメンバーが、いざというときに一緒に活動するメンバーになるという意識が芽生え、団体間における顔が見える関係づくり、すなわち「むすびつき」に近づいていると実感することができた。また、アクションカード同士の関係が時系列で分かりにくいといった課題や、「確認する」「共有する」といったアクションは具体的に何を確認、共有するのかを事前に明確にしておいたほうが良いといった改善点も見えてきた。
災害のような発生頻度の低いリスクは、どうしても「わがこと意識」を持ちにくいものではあるが、「事前に訓練をしたからこそ、なんとかそれなりに行動することができた」というのが私たちの学びの基本であり、未成熟なマニュアルの存在こそが、継続的・発展的なむすびつきのための「しかけ」となるのではないかと感じている。
民間企業との図上訓練の様子
ボランティア団体等との図上訓練の様子
4.さいごに
災害廃棄物処理を経験する中で貴重な経験をしたことを強みにしていくためには、その経験を自治体としての対応能力に結びつけるとともに、他のステークホルダーとの関係の中で発揮しあうというネットワークのイメージをしっかりと持っておくことで、災害に強いまちづくりを行っていくことが重要であると感じている。
災害廃棄物処理のネットワークは日常生活における関係づくりが基礎となるが、それは既にできあがって存在しているものではなく、常に動いていて、自分の力で組み立てていく必要があるものである。まずは自治体から出発して、地域社会におけるネットワークを丁寧につくりあげる努力を忘れてはならない。しかし、普段から通常業務に追われている現状において、災害廃棄物対策に専念する職員を確保する余裕がないのが市町村の実情である。
公的なネットワークを行政が充実させていくことは理想的だが、まずは完璧な状態からのスタートにこだわらず、「しくみ」と「しかけ」をつくることで、民間企業やボランティア団体、地域等が協働して自ら発展していく身近なコミュニティネットワークの形成につながればと期待している。
本市における事例が、他の自治体における検討のきっかけとなることで、災害廃棄物処理における重層的支援の発展につながれば幸いである。