災害廃棄物情報プラットフォーム編集部
2023年3月
目次
1.災害廃棄物情報交換会について
災害廃棄物対策についての取組みやアイディアを共有しつつ、関係団体同士の緩やかなつながりを作っていくために、国立環境研究所では「災害廃棄物情報交換会」を開催しています。令和4年度は、「いかに住民の理解を得て災害廃棄物処理を進めるか」をテーマとして以下の要領で実施しました。情報提供いただいた取組みや議論の内容について紹介いたします。
災害廃棄物情報交換会(令和4年度第1回) | |
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日時 | 令和4年8月4日(木曜日)13:00~16:00 |
場所 | TKPガーデンシティ渋谷ホールA |
出席者 (敬称略) |
(座長)鈴木 慎也 福岡大学工学部社会デザイン工学科水理衛生工学実験室 准教授 井平 達也 和歌山県 環境生活部循環型社会推進課 副主査 大瀧 慎也 岡山県倉敷市環境リサイクル局リサイクル推進部一般廃棄物対策課課長 兒玉 洋仁 宮崎県延岡市 市民環境部資源対策課 副総括主任 瀬古 智秀 三重県南伊勢町 環境生活課 課長 堂坂 高弘 熊本県人吉市 市民部環境課 主幹 (オブザーバー) 荒井 昌典 神奈川県横浜市 資源循環局 適正処理計画部施設課長 河原 隆 総社市 選挙管理委員会 事務局長 鈴木 雄一 宮城県東松島市 建設部下水道課経営班 経営係長 国士舘大学 政経学部政治行政学科(3年生)2名 国立環境研究所 廃棄物・3R研究財団 |
2.災害廃棄物の啓発用グッズ開発の取組み
和歌山県 環境生活部 循環型社会推進課 井平 達也 氏
(1)啓発グッズ開発のきっかけ
和歌山県かつらぎ町が環境省のモデル事業として実施した災害廃棄物搬出模擬訓練で、災害廃棄物処理に関する知識は自治体職員だけでなく、住民も平時から身に着けておく必要があると考えたことから、啓発グッズの作成に至りました。これまでに、ごみや環境問題関連の啓発グッズは様々な形で提供されていることも、災害廃棄物に関する啓発グッズの開発を後押しするものとなりました。
■災害ごみ搬出模擬訓練の紹介動画
かつらぎ町災害廃棄物搬出模擬訓練の取組みについて、落語家による災害ごみの話しとかつらぎ町担当職員の話しを含めた紹介動画を作成しました。
災害ごみの基礎知識を高齢者でも読みやすい大きさの文字とイラストでわかりやすく解説しました。
災害時には被災者自ら災害ごみを運搬して荷下ろしする必要がありますが、模擬訓練の振り返りの際、一人で家具などの災害ごみを出したり運搬はできないという住民の意見があり、行政と住民とに意見の食い違いがあることがわかりました。
また、住民からは平時と同じような分別がよいという意見が多く出ましたが、畳や不燃物など平時とまったく異なる廃棄物が、大量に出てくるため、平時からの周知が重要です。
(2)啓発グッズ開発のプロセス
啓発グッズは、業務の合間に作成しはじめ、課内で供覧して修正していきました。外部委託できるといいですが、市民に使っていただいた後に意見をもらって修正・更新も頻繁になるため、外部委託がしにくい事情もありました。
『カルタ』は、県が年2回開催する災害廃棄物処理の市町村担当者の勉強会などで、内容を練って作成していきました。
(3)工夫したこと
様々なツールを、各自治体でも編集・作成できるように提供しています。
文章を簡単にしすぎて誤解が生じないようにすることに難しさがありますが、一方で、よりマニアックなタイトルを付けて、例えば、石膏ボードは、「水濡れや土砂まみれの石膏ボード」と「水濡れや土砂まみれではない石膏ボード」では処理方法が大きく異なることが分かりやすくなります。
■カードゲーム
〇『カルタ』は、自治体職員向けや住民向けなど、好きな札を選んで遊ぶことができます。
〇『すごろく 片付けごみの冒険』は、片付けごみを出すときのトラブルや気を付けることをまとめて作成したもので、ステージが[被災家屋]→[集積所]→[仮置場]→[各種処理施設]と変わることがロールプレイングゲーム(RPG)と馴染むため、すごろくの背景はRPGのように作成しました。
〇『トレーディングカード』は、ポケモンカードを参考としつつ、仮置場をバトルフィールドに見立てて、モンスターカードとエフェクトカードを作成しました。小学生が災害廃棄物の特徴や処理に関する知識を習得することを目的として作成したものですが、行政職員にとっても、カード形式にしておくというのは、短い文章で端的な表記であるため、 知識を思い出すのに 合理的な方法だと考えられます。
■動画、クイズ
〇『災害ごみのお話スライドショー』は学校の出前講座で使うことを想定して作成し始め、また、家庭で見ていただけると災害時に住民が臨機応変に対応できると考えました。災害時に分別してもって行こうという基礎的な内容や、悪い例と良い例について、ナレーションの内容をスライドにも記載しました。
〇『災害廃棄物3択クイズゲーム』は、テスト形式で集中して災害廃棄物の問題を解いて学ぶことができます。問題の数は今後も増やす予定です。
■紙媒体
〇『カレンダー』は、トイレや冷蔵庫など目につきやすい場所に貼っていただき、イラストを見ながら災害廃棄物の基礎がわかるようにしました。
〇『ポケット仮置場』は、仮置場に関する基本的な事項を1枚に凝縮し、『ミウラ折り』にしてポケットに入れられることがポイントで、現場で広げて見られるようにしてあります。
〇『ハンドブック』は、県民の皆様へ向けて、大規模災害時のごみの出し方について解説したリーフレットとして作成しました。
■仮置場シミュレーション
〇一次仮置場シミュレーション用の『ブースターパック』は、災害廃棄物処理に係る環境省などから提供されている情報媒体が多岐にわたっているため 、それらを一括して、試算していくことができるものとして開発しました。条件等を入力することで仮置場レイアウトを行うことができ、チラシのサンプルも作成できます。
<質疑応答>
Q: | 高度に作り込まれていますが、行政職員は異動がある中で、維持・更新していくことはできますか。 |
A: | ご指摘のとおり、仮置場シミュレーションはマクロが組まれているため引継ぎが容易ではありませんが、カルタ等は編集でき、将来的に外部発注することも考えられます。 |
コメント: | 今後、住民を含めた仮置場の訓練が増えていくと思いますので、訓練動画で住民にイメージづくりをしていただくのは良いアイディアと思います。 |
コメント: |
住民向け啓発グッズを試していく中で、どのツールをどのような機会で使うと効果があるかといった真価がわかってくると思います。トレーディングカードは中学生になると見向きもしなくなりがちですが、内容がマニアックなため例えば、大学生がボランティアにいく前に小学生の頃に親しんだゲームで勉強することも効果的だと思います。想定した以外の使われ方で展開されていく過程も興味深いです。
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3.総合討論
(1)啓発グッズの開発について
コメント: | 和歌山県の啓発グッズ開発は、課内・庁内でコメントをもらったり、カルタのネタを市町村等からもらって作成したという協働のプロセスが良い。啓発グッズのユーザーとなる市町村にも関わってもらったこと、住民と一緒にチラシを作ったことがポイントだったと思います。 |
Q: | 啓発グッズを子どもに使ってもらったり、住民が使ったことがありますか。 |
和歌山県: | 海洋ごみのすごろくを昨年イベントで実施したため、今年は、災害ごみについても効果検証を予定しています。 |
コメント: | 災害時に子どもは家の片付けに関わらないと思うため、子どもに啓発することの意義は何かというと、啓発グッズの対象は子どもだが、ターゲットは大人ということはあると思いました。トレーディングカードは子どもに誘われて親も一緒にやり、親の方がカードの内容を覚えたりします。子どもが内容を理解できなくても、一緒に遊ぶ大人が学ぶ効果はあると思います。 |
コメント: | 子どもが清掃工場の見学をして、家庭で話しあうことも期待していますし、子ども向けの学習は10年後にも役立つと思います。 |
コメント: | 川崎市では市民団体との協働企画で、小学校を経由して防災イベントのチラシを配布し、親子が参加しています。子ども向けの工作と大人向けの災害ごみに関するワークショップを別々に行うプログラムがうまくいっていて、若い親から災害時の困りごとや課題が出てきています。今度、子ども向けの災害ごみトレーディングカードゲームに親も参加してやるなど、うまい使い方ができるのではないかと思いました。 |
Q: | ポケット仮置場と一次仮置場のブースターパックは、現場の行政担当者にとって使い勝手はどうか、提供していただけるとありがたい。 |
和歌山県: |
公表していますし、メール等でも提供します。
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(2)仮置場訓練について
コメント: | 訓練動画で上空からの映像は車両や人の動きが把握でき、得られる情報が多いと感じました。 |
コメント: |
ある小規模自治体では、年2回、住民が粗大ごみを持ち込む機会を設けており、住民が多数来るため、混雑しないように動線や分別配置を決めて荷下ろしの補助を行っています。それはまさに仮置場のようで、災害時に向けた訓練になっています。この例では、災害時のために改めて企画するのではなく、平時の施策の一環として災害時のイメージづくりにつながっていると思います。
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(3)各自治体の訓練について
南伊勢町: | 南伊勢町では住民と一緒に図上訓練を行っており、実際に使用する仮置場への搬入を想定し、周辺道路も含めた地図を使っています。片付けごみのカードを用意して、一次仮置場に片付けごみをどこに置くか、受付の配置などを班ごとに決める訓練を実施しました。また、地域のごみを撤去する行政や企業、警察も加わった訓練を予定しています。小さい町では、図上訓練のシナリオや資料作りから大変です。訓練シナリオや写真などフリーで使える素材を提供してもらえるとありがたいです。 |
東松島市: | 市の職員を対象とした図上訓練を2017年から実施し、2019年後から仮置場実地訓練を初めました。図上訓練と実地訓練をやることで、一次仮置場での分別や動線について何が有効で何が無駄かということを体感することができました。しかし本市は、令和4年3月中旬に震度5強の地震に見舞われた際、仮置場の設置・運営がうまくいっておらず、環境部門の職員が研修を受けていなかったことがわかりました。訓練をしておくことが重要でした。 |
倉敷市: | 本市は2020年度に官民連携による災害廃棄物処理初動マニュアルを作成し、それを使った図上訓練を2022年度に2回実施しました。人材育成につなげるものではありますが、まずは災害廃棄物を処理する仕組みのなかで与えられた役割を共有することを狙って実施したものです。役割として共有したいことは3つあり、1つは災害が発生したらすぐに集まるということ、2つ目は訓練で一緒に作業をしたメンバーは、実際に災害が発生した際にも一緒に業務を行うチームであるということ、3つ目は、仮置場設置や運搬等、各自の役割を認識することで、訓練参加者が各々の所属へ戻ってから車両や備品、人員確保について平時からの備えに結び付けていただくことです。 平時の啓発資料として、『くらいふ通信』、『パワフルキッズ』に災害廃棄物に関する記事を掲載しました。『パワフルキッズ』は市内の小学校65校の全員児童に配布されており、親子での会話を通じて親が初めて知ることもあるという家庭教育の効果もあります。文章にフリガナを振って、小学4年生以上がわかる内容としました。小学校の掲示板に貼っていただいたり、小学校への出前講座では配布したりしていますが、クイズに興味を示す児童が多かったです。『ごみ分別アプリ』に登録している市民8,400人、庁内Web掲示板でも配信したところ、平成30年7月豪雨の被災当時は住民や市職員の災害廃棄物への関心は低かったものの、今回、庁内職員の約半数の2,700人が見ていて、いいねボタンも押していただくなど、評判が良かったです。被災後は防災意識への高まりがある一方で、災害廃棄物への意識は年々下がっている実感があったため、災害廃棄物についてこのように内外に発信していけるといいと思っています。 |
Q: | 人材育成よりも仕組みづくりのために訓練を行っている点が興味深いです。仕組みができれば後任の職員も取り組みやすくなりますか。 |
倉敷市: |
平成30年7月豪雨の際の大きな課題の一つは、関係者が即座に一同に集まる場を設けなかったため、市職員の業務範囲が膨大となったことでした。仕組み化することで、関係者全体を巻き込むことができ、業務の分担につながるため、市職員に求められる役割も限定的かつ明確になると思います。そうすることが経験のない後任の職員の取り組みやすさにつながるのではと考えています。 |
4.まとめ
座長: | 災害廃棄物処理を効率よく進めるには、住民との連携強化、協働を意識してもらうことが必要であるという思いはありますが、災害廃棄物という身近に感じにくいものに対して如何に住民に関心を持ってもらい、行政と協力体制をうまく作り上げていくかという、永遠に続く課題について、本日の議論は道筋を見出すヒントになったのではないでしょうか。 最後に学生の方々から感想を伺いたいのでお願いします。 |
学生: |
ボランティア団体に所属して災害現場へ行ったり、復興支援をしています。仮置場などボランティアの皆に伝えておくこともたくさんあるとわかりました。現場へ行く前に勉強会や研修に参加して準備するため、災害ごみについてカードゲームなどで知識を付けることもいいと思いました。 |
<後日追記>
和歌山県「ふれあい人権フェスタ2022」「おもしろ環境まつり」会場で災害ごみ啓発グッズのすごろくやトレーディングカードゲームにたくさんの人が参加してくれました。