災害廃棄物情報プラットフォーム編集部
2022年4月
目次
1.災害廃棄物情報交換会について
災害廃棄物対策についての取組みやアイディアを共有しつつ、関係団体同士の緩やかなつながりを作っていくために、国立環境研究所では「災害廃棄物情報交換会」を開催しています。第2回目となる今回は、「経験の継承と人材育成」をテーマとして以下の要領で実施しました。情報提供いただいた取組みや議論の内容について紹介いたします。
※第1回目はこちら
災害廃棄物情報交換会(第2回) | |
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日時 | 令和3年12月21日(火曜日)13:30~15:30 |
場所 | オンライン会議システム |
出席者 | (座長)鈴木 慎也 福岡大学工学部社会デザイン工学科水理衛生工学実験室 准教授 荒井 昌典 神奈川県横浜市資源循環局適正処理計画部 処分地管理課 課長 大瀧 慎也 岡山県倉敷市環境リサイクル局リサイクル推進部一般廃棄物対策課課長 河原 隆 岡山県総社市 選挙管理委員会 事務局長 鈴木 雄一 宮城県東松島市 建設部下水道課経営班 瀬古 智秀 三重県南伊勢町 環境生活課 課長 渡部 恵 愛媛県松山市 環境部環境モデル都市推進課 国立環境研究所 廃棄物・3R研究財団 |
2.経験の継承と人材育成にかかる取組の紹介
総社市 記録誌の作成
岡山県総社市 選挙管理委員会 事務局長 河原 隆氏
(1)災害と災害廃棄物処理の概要
高梁川の増水により、市内2地区で大きな被害が発生した。平成30年7月豪雨の当時、私は環境課長と最終処分場長、吉備路クリーセンター長を兼務して2年目にあたっていました。吉備路クリーンセンターを一次仮置場として倉敷市と総社市で共同運営したほか、岡山県へ災害廃棄物処理の事務委託を実施しました。また、吉備路クリーンセンターが高台にあることで住民が避難をしてきていたため、家庭ごみの焼却処理、仮置場運営、避難所運営をしていました。
(2)記録誌の編集方針
記録誌は、平成30年7月豪雨の災害廃棄物処理の記録を事務引継ぎを兼ねたものとして環境課が担当した業務について編集しました。災害廃棄物処理量等の情報のみでなく、契約金額や数量、日付などの数値、写真や図、フロー図を書き入れて時間や物量などをイメージしやすくして、固有名詞も記載しておくことで、次に被災した際に話を聞きにいくことができるようにしました。そのため、記録誌は公表せず、関係者へ配布しています。また、公費解体・自費解体は経験のなかったことで、当時、考え方の整理や様式の作成に時間がかかったため、記録誌の最後に今回使用した様式などをつけました。
当時は人員が不足していたこと、どれくらいの人員が必要であったかといった課題と検証についても掲載しました。
(3)記録誌のベース
部内では発災直後から記録誌を作成しようと話しており、国立環境研究所などからヒアリングを受けたことをきっかけとして、その後、講演する機会に用意した資料を基にして作成していきました。章立ては、仙台市の災害廃棄物処理の記録誌を参考にし、記憶にたよる部分を含めて、市の災害報告書や関係した他団体の資料も参照しました。また、当時、Excelで日々の日誌を付けていたため、発災直後の混乱した様子も整理するのに役立ちました。倉敷市と吉備路クリーンセンターの一次仮置場の情報交換する中で数字を残す必要があり、その中で作成した日誌でしたが後になっても役立ちました。記録誌には正しいデータが必要になるため、その人がその場で残した写真や日記といった一次史料を大切にしたいというのが編集後の感想でもあります。写真をたくさん撮るようによく言われていましたが、写真で確認できることもあり記録誌の作成にも写真は役立ちました。
(4)編集作業のプロセス
災害廃棄物の処理業務にあたりながら原稿を書き足して2年間かけて作成し令和3年3月に発行しました。全体のバランスが取れた分量で記載することも大切で、わからない部分は情報収集し、5W1Hでわかりやすくしました。最後の詰めでは担当者に様々な数値を確認してもらい、倉敷市、岡山県の協力をいただいてまとめることができました。
(5)印刷・製本
カラーで製本するには相当の費用がかかるため、できるだけ内製化しましたが、記録誌の作成や経験の継承にはコストも課題の一つだと思います。記録誌が、初動期の災害廃棄物処理の基本形づくりの参考となればと思っています。
・情報交換会での質疑応答
・情報交換会での質疑応答
Q: | コロナ禍で研修・交流方法を検討しているところでしたが、すでにリモートで実施されていたことがわかりました。訓練では災害時用のツールを使ったのか、あるいはMicrosoft社Word、Excelでしょうか。 |
A: | 通常業務で使用しているメールにWordやExcelを添付して使ってやり取りしました。 |
Q: | 情報共有するうえで混乱はありませんでしたか。 |
A: | 県外の人はリモートでしたが、職員は会場に集まっていたため、参加者同士の情報共有は現場でできており、混乱はありませんでした。 |
Q: | 研修は、市町村が自ら実施する方が効果があると思っています。リモートで開催したことで実践的な要素もあったとのことですが、参集型と比較してメールのやりとりに時間がかかる等はないのか、参加者の感想はどうだったか、今後のリモート演習の展開はどう考えているか教えてください。 |
A: | メールよりも手書きの方が早い場合もあるので、参集型に比べると時間がかかっていた感じがします。しかし、実際には、庁外とはメールのやり取りが多くなるはずなので、時間がかかることが認識できたことはよかったと思います。参加者のアンケートでは、やり方がわかりにくいという意見もありましたが、全体的に満足度は高かったです。 今年度は松山市を含む3市3町のブロック単位で研修モデル事業に採択され、ZOOMとGoogleのJAMボードを活用したグループワークを行い、応援要請をする場合や要請を受ける場合に何が必要かなどを検討しました。また、来月、モデル事業での2回目の研修があり、昨年度のモデル事業で実施したようなリモート図上訓練を実施する予定です。今後もコロナ禍などで、集まれない状況では、リモート演習も検討したいと考えています。 |
コメント:完全オンラインの場合は、災害情報共有システムを使ったり、オンラインのホワイトボードを使うことをイメージしていました。但し、オンラインのホワイトボードを使うにはネットワーク環境が安定している必要があり、環境づくりの難しさはあると思います。
総合討議
(1)各市の取組
- 横浜市:横浜市は、経験の継承、人材育成の取組はあまりできていませんが、これまでに横浜市から環境省災害廃棄物対策室、東北地方環境事務所へ職員5人を派遣して太いパイプがあり、現在も被災地の支援に行く機会があります。直営の収集部隊による被災地への収集支援実績は多く、また、令和元年台風15号では被災した経験があります。今後、仮置場実地研修を開催する予定ですので、経験の継承やレベルアップのために、今後も他自治体の取組を聴いておきたいと思います。
- 倉敷市:倉敷市は、官民連携による「倉敷市災害廃棄物処理初動マニュアル(アクションカード)」を策定し、2022年1月に中四国ブロックのモデル事業で平時の官民連携をテーマとして行政、業者、NPOが参加した図上訓練を予定していました(※新型コロナ感染症予防対策として中止になった)。第1回は事業者を中心とした演習とし、第2回はNPOを中心に片付けや広報について実施する。目的として、1つは民間との連携をとること、2つ目に発災後すぐに集まれるように顔の見える関係づくりと役割を認識しておくこととしています。
初動マニュアルでは行動を細かく列挙するのではなく、発災直後に協議ができるようにするまでを重視しました。以後は、情報が流れていけば、詳細は災害廃棄物対策指針を見てもらうこととしています。それでも未経験者にはハードルが高いと思いますが、NPOとは図上訓練だけでなく、ボランティアの未経験者にも参加してもらってチラシを作成し、わかりにくい点を指摘してもらって経験値をあげていく活動や平時から語り継いでいく活動をしています。 - コメント:経験の継承、人材育成は容易なことではないが、経験者のネットワークを活かして、自治体間の橋渡しもしていきたいと思います。
- コメント:災害廃棄物処理計画を策定したものの活用していない自治体や、被災したけれど計画は策定していない自治体もあるため、参考となるよう南伊勢町が住民を巻き込んだ取組について紹介しているところです。
(2)住民向けカードゲームの期待
- 南伊勢町:地域住民を巻き込みながら対策を進める必要があり、例えば、避難所運営のHUGに相当する、住民向けの災害廃棄物の分別などのカードゲームがあるといいと思います。
- コメント:災害廃棄物かるたやクイズも考えており、廃棄物処理施設に設置している啓発用に用いられるといいと思う。
3.まとめ
今回も多くの方に発言いただきましたが、国立環境研究所阿部客員研究員より次のコメントを頂きましたので本情報交換会の総括として紹介いたします。
「東松島市の取組をさらに背中を押したいと思いました。職員が机上と実地で異なる点を認識したことは良かったと思いましたし、一般市民の感覚で災害廃棄物をかみ砕いていくと市民向けパンフレットにつなげられると思います。
倉敷市のマニュアルが情報交換会からさらに外に発信していけると良いし、協定締結業者と処理方法を確認したうえでどう分別するか、仮置場管理の訓練も実施して意思疎通しておくと、分別の留意点が見えてくると思います。
市町村が独自に訓練をしていくのが効果的であるため、次のステップになると思いました。」
事務局では、2021年度にテーマを変えて2回の情報交換会を開催しました。2022年度以降も同様の取組を続けて参りたいと思っておりますので、引き続きご関心をお寄せいただければ幸いです。