災害廃棄物情報プラットフォーム編集部
2021年12月
目次
(4)住民・ボランティアを含めた初動対応マニュアルと図上訓練
1.災害廃棄物情報交換会とは
災害廃棄物対策についての取組みやアイディアを共有しつつ、関係団体同士の緩やかなつながりを作っていくために、国立環境研究所では「災害廃棄物情報交換会」を開催しました。令和3年度は2回実施する予定で、第1回目は「住民・ボランティアとの協力・連携」をテーマに以下の要領で実施しました。
この記事では、共有された取組みや議論の内容について紹介いたします。
災害廃棄物情報交換会(第1回) | |
---|---|
日時 | 令和3年8月3日(火曜日)13:30~15:30 |
場所 | オンライン会議システム |
出席者 | (座長)鈴木 慎也 福岡大学工学部社会デザイン工学科水理衛生工学実験室 准教授 大瀧 慎也 岡山県倉敷市 環境リサイクル局リサイクル推進部一般廃棄物対策課課長 鈴木 雄一 宮城県東松島市 建設部下水道課経営班 瀬古 智秀 三重県南伊勢町 環境生活課 課長 渡部 恵 愛媛県松山市 環境部環境モデル都市推進課 国立環境研究所 廃棄物・3R研究財団 |
2.住民・ボランティアとの協力・連携にかかる取組の紹介
南伊勢町 住民との仮置場ワークショップ・図上訓練の取組み
三重県南伊勢町 環境生活課課長 瀬古智秀氏
(1)背景
南伊勢町は、南海トラフ地震が大きな災害リスクであり、東日本大震災を経てそれまでの考え方が大きく変わりました。津波災害では業者に依頼して片づけていきますが、水害のときは自分たちで対応する必要があります。町に通じる主要な道路は1本しかないことからボランティアもなかなか来てもらえない可能性があります。住民には通常のごみ出しについては充分周知していますが、災害時のごみの出し方についてはお知らせしていませんでした。
令和元年東日本台風で長野市への災害派遣を経験して、様々なことが見えてきました。特に仮置場の事前準備として、候補地の選定や住民への周知、仮置場の運営組織体制、資機材や地図の整備が必要で、マンパワーが足りない中では民間の協力や住民の協力も欠かせません。
(2)住民との仮置場候補地選定の協議
南伊勢町は、クリーンセンターの処理能力が日々の可燃系ごみの焼却で精一杯の状況であるため、大栄環境ホールディングス(株)と運搬や処理の協定を締結しました。そのつながりから同社社員を講師として招き、地区長、自主防災会などのリーダー向けに災害廃棄物の特性などを教えていただき、また、リーダーの皆さんと各地域の地図を使って地区ごとに仮置場候補地について協議を行いました。
災害廃棄物の勉強会
一次仮置場候補地の協議
(3)仮置場運営のための住民ワークショップ
住民とともに仮置場の運営について協議することも重要と感じたため、地区長や役員、自主防災会、地元消防団員、地元住民、NPO併せて50名程度(男女半々)、年齢層20~80代が参加したワークショップを開催しました。
地域ごとの仮置場の図面と地域全体の地図で自分の家、仮置場、避難所を見ながら、一次仮置場の場所の確認や進入路、ボランティアの対応などについて話し合い、自分たちで運営するイメージができるようにしました。
また、災害廃棄物12種類(環境省資料参照)の絵入りのカードを用意し、グループごとに分別をイメージして図面に並べて、分別方法などを発表していただき、仮置場のルールを決めました。
ワークショップ
(4)住民・ボランティアを含めた初動対応マニュアルと図上訓練
班長の名前やどこに連絡をするかなどを手書きで書き込めるような「災害廃棄物処理初動マニュアル」を作成しました。それをもとに町長、副町長、関係各課、県、建設業協会、産廃業者、住民、ボランティアグループを含めた図上訓練を実施し、関係機関と連携がスムーズに行えるかについて検証しました。
図上訓練
・情報交換会での質疑応答
Q: | 町内すべての地区で住民と仮置場候補地を決めたとのことで、苦労はありましたか。 |
A: | 仮置場の候補地は公有地を選定しますが、どの地区にもあるわけではないため、民地を選定した場合に土地の所有者が複数いるところは話し合いが大変でした。 |
Q: | 災害廃棄物というトピックでは住民は集まりにくかったのではないでしょうか。 |
A: | 声掛けしやすい地区から始めて、チラシは「みんなで考えよう災害ごみのこと」と自分たちが考えなればいけないと思ってもらえるように工夫して作りました。チラシは区長から各世帯に配布してもらいました。一方的に話しをするのではなく、自分の地域の地図を広げて、備えの必要性を認識していただくようにしました。また、図上訓練を行う際には平日ではなく土曜日に行うことで、住民が参加しやすく、また職員は業務がなく図上訓練に集中しやすいようにしました。 |
Q: | 高齢化していく中で災害廃棄物の対応にむずかしさもあると思いますがいかがでしょうか。 |
A: | 南伊勢町は三重県内で最も高齢化した町です。図上訓練の中で高齢化に関連した課題を投げかけて、住民の皆さんに考えてもらい参加者で共有するようにしました。 |
松山市 「災害時のごみ問題を学ぶ」出前講座
愛媛県松山市 環境部環境モデル都市推進課 渡部 恵氏
(1)市民の関心事項
防災士など自主防災活動をしている市民団体から災害時のごみについて講演してほしいと依頼があり、市の「出張説明会」として実施しました。参加者は20名ほどで、予定時間をオーバーするほど質問や意見がたくさんありました。
事前に講座で聞きたいことを市民団体に確認したところ、「ごみの出し方と収集方法」「出したごみの行方」「災害の種類によるごみの出し方の違い」「処理施設へのごみの持ち込みは可能か。可能であればどうすればいいのか。」「集積所の場所」「災害ごみを減らす方法」といった意見をいただきました。当日の講座では仮置場に関する質問・意見が多く、「仮置場はどこか」「選定している候補地はどこか」、意見としては、「候補地を事前に示してほしい」「渋滞やにおいが気になるため、家の周辺には仮置場を開設してほしくない」「1つの仮置場の中で、ごみ種別ごとの区画を作るのではなく、仮置場ごとに搬入できるごみの種別を設定するのもいいのではないか」といった意見がありました。
本市では、仮置場候補地を公表していませんが、発災後、早期に仮置場を開設するためには、候補地を事前に公表することも効果的なのではないかと感じています。仮置場候補地を公表している先行事例があれば伺いたいです。
また、市民向けの説明会は初めてだったため、わかりやすい資料づくりに苦労しましたが、写真やイラストで堅苦しくならないように工夫しました。
出張説明会の資料(抜粋)
(2)成果
今回、市民向けに説明会を行ったことによる成果は3つあります。
一つ目は防災士など、普段から防災活動をされている方にお知らせすることができたため、今後の防災活動の中で災害廃棄物について学びを深めたり、啓発していただけたりすることが期待できることです。二つ目は資料の作成にあたり、災害廃棄物に関する様々な資料を読み、担当職員の知識が深まったことです。三つ目は平時に啓発をしておくことの必要性や地元の方との連携の重要性を改めて確認できたことです。
・情報交換会での質疑応答
コメント:仮置場候補地を公開するか否かは自治体に任されていて、災害廃棄物処理計画を策定している自治体のうち仮置場候補地を公開しているのは10%程度かと思います。 | |
Q: | 市民向け資料を作成する際に何を参考にしましたか。 |
A: |
国立環境研究所の災害廃棄物情報プラットフォームの市民向け動画を流しました。また、環境省の災害廃棄物対策指針や倉敷市の市民版災害廃棄物処理ハンドブックなどを活用しました。 |
国立環境研究所市民向け動画
「水害に備えて」岡山県建築士会倉敷支部 ダウンロードQRコード(※2)
災害廃棄物処理に対する意識について、被災した地区では比較的高いのですが、他の地域はあまり高くない傾向があります。今後、そういったところに「市民版災害廃棄物処理ハンドブック」を配布たり出前講座を行ったりするなどして災害廃棄物処理の理解を広めていきたいと思います。
また、「市民版災害廃棄物処理ハンドブック」の他に、令和4年度には、平時の「家庭ごみの出し方」リーフレットに災害時のごみの出し方についての内容を掲載する予定であり、現在改定に向けた作業を行っています。
倉敷市の取組
・情報交換会での質疑応答
Q: | 一般的に初動マニュアルは、役所がどう動くかといった内容のものが多いのですが、“官民連携”とのことで、「民」とは協定を締結した事業者だけでなく、住民やボランティアを含んで作成したということでしょうか。 |
A: | 災害廃棄物の処理は行政だけで行うことはできず、民間の手を借りざるをえません。倉敷市では、協定を締結した事業者に限らず、一般廃棄物収集運搬許可業者、岡山県産業廃棄物協会、岡山県建設業協会、倉敷警備業協議会、岡山県建築士会、岡山県環境保全事業団、岡山NPOセンター、倉敷市社会福祉協議会、倉敷市被災者見守り支援室など、廃棄物処理の経験やノウハウを持った民間事業者団体やボランティア団体、市役所内の関係部署等と連携会議を開催し,関係者共通の災害廃棄物処理初動マニュアルを作成しました。全体会議を3回行い、そのうち1回は仮置場候補地において設置訓練を実施し、設置や管理における課題や動きを確認・共有し、マニュアルに反映させるようにしました。 初動マニュアルを作る中で、ステークホルダーは、それぞれの通常業務に関連した強みを生かすことができる役割を事前に共有するとともに、発災翌日には参集できるようにしました。また、ボランティアへのごみ出しに関する周知や、地域住民への周知のスキームについても初動マニュアルに記載しました。ボランティアへの情報提供について、平成30年7月豪雨災害において民間団体ではSNSが役に立ったとの意見をいただき、今後の有効な周知手段として活用できるよう、引き続き協議をおこなうこととしました。 |
倉敷市の取組
Q: | 平時の「家庭ごみの出し方」の広報では、災害ごみについて、どのようなことを強調したいと考えていますか。 |
A: | もっとも強調したいことは、「生ごみを災害廃棄物と一緒にしない」ことです。平成30年7月豪雨では自宅避難された方や片付けを行う方による生活ごみ(生ごみ)も発生しましたが、災害廃棄物がごみステーションに出される、混合化するケースも見受けられました。生ごみは悪臭やハエなどの原因となるため、災害廃棄物と分ける必要があることを実感しました。市としては、生ごみはできる限り即日の処理に努め、災害廃棄物は危険性や周辺環境を考慮しつつ計画的に処理する方針であることを平時から伝えていきたいです。 |
外部リンク
(※1)「倉敷市災害廃棄物処理初動マニュアル(アクションカード)」
3.まとめ
3つの取組み紹介と議論を踏まえ、座長の鈴木慎也准教授から次のコメントをいただきました。
「災害廃棄物処理の観点から最前線での取組の議論だったと思います。災害時の対応、平常時の対応を見ると、人口規模が小さくなるほど住民との接点が重要なポイントとなります。また、高齢化が進むにつれて平時も災害時も行政と住民との連携の在り方が課題となっています。本日の話題は、災害に対して平時から皆で団結して立ち向かっていこうという機運のある様子がわかり、全国レベル、地域レベルでみても先進的な内容でした。これを如何にして全国に広げていくかを考えていきたいと思いました。
国立環境研究所の「災害廃棄物情報プラットフォーム」の情報が、自治体の平常業務の中に浸透していることが伺えました。今後も「災害廃棄物情報プラットフォーム」を建設的、発展的な話題提供の場にしていきたいと思います。」
事務局では、このような情報交換会の第2回目を「経験の継承、職員の人材育成」というテーマで開催したところです。後日公開の記事につきましても是非ご覧頂ければと思います。今後とも、災害廃棄物対応に関する情報共有やネットワーク作りに取組みたいと考えておりますので、引き続きご関心をお寄せ頂ければ幸いです。