三重県環境生活部廃棄物対策局廃棄物・リサイクル課
主任 小林 紀有起
2018年1月
1.はじめに
三重県では、平成23年3月に発生した東日本大震災の災害廃棄物処理の広域処理に向けた調整等に取り組む中で、災害予防対策に重点を置いた災害廃棄物処理計画の重要性を改めて認識するとともに、東日本大震災と同年に発生した紀伊半島大水害による大量の災害廃棄物の広域処理の経験も踏まえ、平成27年3月に三重県災害廃棄物処理計画(以下「県計画」という。)を策定しました。
また、県計画策定とあわせて、市町で災害廃棄物処理計画策定が進められた結果、平成29年12月に、県内全市町(29市町)で単独の災害廃棄物処理計画(以下「市町計画」という。)が策定されました。
※単独の災害廃棄物処理計画とは、地域防災計画や廃棄物処理計画に併記されているものではなく、災害廃棄物処理計画として個別に策定されているものを指します。
2.三重県による市町計画策定への関わり
三重県では、市町計画策定支援のため、以下の取組を行ってきました。
※マニュアルは、環境省の災害廃棄物対策指針を踏まえて、三重県が策定したものです。
三重県では、上記にもあるように、新マニュアル1)を作成し、研修会や個別協議をとおして、市町災害廃棄物処理計画の策定支援を積極的に行ってきました。
特に、平成27年度に開催した策定支援研修会では、全5回の研修受講後に、参加した市町自ら計画が策定できるよう、策定に必要な考え方を順序立てて解説した結果、当該年度に10市町で市町計画が改訂又は策定され、残りの市町でも計画策定等が進捗しました。
一方、市町計画策定にあたっては、他部局と調整を要する事項があること、災害廃棄物処理に係る業務以外にも多岐にわたる業務があり、市町計画策定になかなか時間が取れないこと、担当職員の異動、など市町ごとの個別要因により進捗に影響が出たため、平成28年度以降も継続して、市町との個別協議や災害廃棄物処理に関する研修会、セミナー、図上演習などの様々な場をとおして、発災後の速やかな復旧・復興には、災害廃棄物の迅速かつ適正な処理が必要であり、そのためには市町計画が重要であることを、伝えてきたことが全市町での計画策定につながったと思います。
1)新マニュアルについては「災害廃棄物処理計画に取組んでいる自治体(マップ・一覧)」の「三重県」をご覧ください。
3.災害廃棄物処理計画の実効性を高めるために
県計画や市町計画の策定は完了しましたが、計画は策定することが目的ではありません。
三重県では、平成23年9月の台風第12号による、三重県南部を中心とした長期間にわたる激しい雨により、浸水被害や土砂災害が発生し、住家被害は、県内15市町にのぼり、3市町で「災害救助法」が適用され、被害にみまわれた市町では、膨大な災害廃棄物が発生しました(紀伊半島大水害)。県内の自治体では、この時まで、過去の大規模災害の経験が、昭和34年の伊勢湾台風まで遡る自治体も少なくありませんでした。
このような中、災害廃棄物は、県と市町や一般社団法人三重県産業廃棄物協会との応援協定により、迅速に処理を進めることができました。
一方、災害廃棄物処理計画については、当時21市町で策定されていたものの、策定済みの被災自治体においても混乱が生じ、計画が実際には機能しない場面もありました。
このことから、計画の運用方法や内容の見直し、災害経験の少ない自治体や職員への経験知の伝達の重要性を改めて認識させられることとなりました。
これらの経験を踏まえ、現在、三重県では、計画の実効性を高めるため、以下の取組を行っています。
(1)平時からの関係団体との連携強化
災害廃棄物処理に関する応援協定を締結している団体(市町を含む)や県の関係機関と、「災害廃棄物処理に関する連絡会」を年2回程度開催し、災害廃棄物処理における役割の確認や平時から備えなど、災害廃棄物処理に関する情報共有を行うとともに、災害時の対応について協議を行っています。
(2)災害廃棄物処理に関する最新の知見や経験知の共有
災害廃棄物処理に関するセミナーを年2回程度開催し、国の最新の動向や大規模災害を経験した自治体や事業者を招き、経験知の伝達を行っています。
(3)教育訓練の実施
(1)の連絡会のメンバーと、実際の災害廃棄物処理を想定した図上演習を平成27年度から開催し、実際の対応を訓練するとともに、県計画や市町計画、協定内容の検証を行っています。
(4)三重県災害廃棄物処理スペシャリスト人材育成講座の開催
平成28年度から、県及び市町・一部事務組合・広域連合の職員を対象に、災害廃棄物処理スペシャリスト人材育成講座を全国に先駆けて開催し、災害廃棄物処理にあたり様々な課題を解決できる能力を有し、地域の指導的な立場となる人材の確保に努めています。
グループワークの様子と現地研修(熊本県)の様子
(5)災害廃棄物処理計画の見直し検証
全市町で市町計画が策定されたことから、県計画と市町計画の整合を図るとともに、熊本地震など近年発生した大規模災害を踏まえ、県計画の検証を行っています。
4.平成29年台風21号で発生した災害廃棄物処理対応
これらの取組を進める中、平成29年10月に台風21号が発生し、複数の市町で水害が発生し、現在も災害廃棄物の処理が行われています。
平成23年の紀伊半島大水害以来となる、災害廃棄物の広域処理が行われましたが、市町計画が策定されていた被災市町においても、初動対応に混乱が発生しました。
また、県でも、初動の情報収集方法や協定に基づく広域処理の調整に課題が残りました。
一方、過去の災害による災害廃棄物処理経験者が災害廃棄物処理の担当部署に在籍していた市町では、スムーズな初動対応が行われました。
また、平成28年度から育成している災害廃棄物処理スペシャリスト人材(県職員)は、被災市町の廃棄物部局に入り、現場の分別人員としてではなく、収集運搬方針や仮置場の分別方針といった災害廃棄物処理の方針決定を支援しました。
その他、これまでに研修会や教育訓練などを繰り返していたことで、災害廃棄物処理の重要性は全市町で共有されており、被災市町への応援や広域処理が積極的に行われました。
(参考)災害廃棄物処理スペシャリスト人材が分別・搬出を支援した仮置場
被災直後 → 分別・搬出作業 → 搬出完了
5.三重県の今後の取組
今後、三重県としては、市町計画を踏まえた県計画の検証や「災害廃棄物対策指針(環境省)」改訂に伴う県計画の見直しを行うとともに、職員の異動などで経験知が途切れることがないよう、災害廃棄物処理の経験がない職員も「わがごと」としてとらえることができるような、教育訓練等を継続して実施し、災害廃棄物処理計画の実効性を高めていきます。
※掲載済みの記事「三重県における災害廃棄物処理計画策定の取組について(2014年7月24日)」につきましてもぜひご覧ください。