国立研究開発法人 国立環境研究所
災害環境マネジメント戦略推進オフィス
川畑隆常
2018年1月
(その1)では研修会の概要をお伝えして参りましたが、(その2)では「参加自治体のその後の取組み」と題しまして、研修会が参加者の方々にとってどのような効果があったのか、アンケートの結果及び参加者にご執筆頂いた内容から振り返ってみたいと思います。
目次
1.アンケート結果に見る本研修の効果
2.研修参加者の気づきと所属自治体におけるその後の取組み
・愛知県豊田市環境部ごみ減量推進課 松井大河氏
・千葉県環境生活部循環型社会推進課 分部洋平氏
・神奈川県川崎市環境局生活環境部収集計画課 安川宏太氏
・富山県環境科学センター生活環境課 神保有亮氏
3.本研修が生んだ多様な効果
4.まとめ
1.アンケート結果に見る本研修の効果
本現地視察・研修会の目的は(その1)でも触れた通り、研修参加者自身が災害廃棄物処理が実際に行われている現場を直接見聞きし、実感、理解すること、また、参加者間で意見交換すること等により相互の繋がりをつくることでした。ここでまずは研修実施後に行なったアンケートの結果を見てみます。
アンケート結果
計2回実施された研修会では有識者を含めて計70余名の方々に参加頂いており、各回の研修実施後に参加者全員にアンケートを行いました。
図は、2回のアンケート結果を合わせて集計したものの一部ですが、本研修会の目的であった「取組むべき災害廃棄物対策の気づき(取組みの明確化)」が得られ「ネットワーク形成」が図られたか、またそれらを通して災害廃棄物対策に取り組む「モチベーションの向上」が図られたか、について「とてもそう思う」、「そう思う」を合わせていずれも参加者からの高い評価が得られたという結果となっています。また災害廃棄物処理に関する細かいノウハウについても理解が深まったことが確認されています(詳細は引用元文献参照)。
研修主催者としましては、研修を通して得られた気づきや人的ネットワークは、是非とも研修後に参加者の皆様の平時の災害廃棄物対策業務において活かされ、将来起こり得る災害への備えとして頂きたいと願っておりますが、次項では研修会を通して具体的にどのような気づきがあり、参加者同士の繋がりが形成されたのか、また研修会後の業務においてどのような取組みへと繋がったのかについて見ていきたいと思います。
2.研修参加者の気づきと所属自治体におけるその後の取組み
研修参加者の中から4名の方々に「研修での気づきやその後の取組み」について執筆頂きました。
- 「実効性の高い災害廃棄物処理の体制の構築について ~熊本視察を経て」愛知県豊田市環境部ごみ減量推進課 松井大河氏
- 「組織の内外でひとりにならないことが大事」千葉県環境生活部循環型社会推進課 分部洋平氏
- 「平成28年熊本地震災害廃棄物処理に係る現地視察・研修会を終えて」神奈川県川崎市環境局生活環境部収集計画課 安川宏太氏
- 「平成28年熊本地震災害廃棄物処理に係る現地視察・研修会を終えて」富山県環境科学センター生活環境課 神保有亮氏
実効性の高い災害廃棄物処理の体制の構築について ~熊本視察を経て
愛知県豊田市
環境部ごみ減量推進課
松井大河
(※第1回研修会に参加された松井氏と同課の小久保氏に執筆頂いたもの)
○実効性の高い準備を進めるきっかけとなった現地視察
東日本大震災や熊本地震、関東・東北豪雨など、近年発生した大規模災害は記憶に新しいところである。このような大規模災害に迅速に対応するために、本市では災害廃棄物対策指針に基づき、災害廃棄物処理計画を改訂した。当計画では、発災後に行うべき事項を整理し、それを確実に実行するための準備(平時の備え)の重要性について記載している。
熊本の現地視察を通して、やはり平時から備えを充実しておくことが重要であり、特に迅速な仮置場設置及びその運用が重要であると感じた。
本市では仮置場候補地を複数選定しており、現在、現地確認によるレイアウト(案)等を決めているところである。しかし、仮置場の運用については今後の課題となっていた。その課題解決に向けて一歩進めるために、仮置場を借用する協定先と意見交換を行い、発災後の手続を定めたマニュアルを作成することとした。マニュアルは、仮置場の開設から閉鎖までの各段階における協定先と市の役割を明確にするなど、災害に即応できるような実効性の高い内容を目指した。協定については既に5年前に締結していたが、その後具体的な取り決めはされておらず、今回の視察の経験がマニュアル作成を後押ししてくれた。
今後は、廃棄物処理業者で構成される団体と初動体制の強化(仮置場の運用、ごみの分別の指導等)を目的とした協定の締結を予定している。当協定に関しても、形式的に締結するだけでなく、その後、災害時に即応できるような役割分担等について協議していくことが重要であると考えている。熊本市では、平時から仮置場で使用する重機等の単価表を準備していたことで速やかな対応ができたと聞いているので、その部分についても協定先と協議を進めていきたいと考えている。
また本市では、仮置場の設置訓練も予定している。想定では、熊本で実際に使用されていた仮置場を参考に、発災後一番早く開設予定の仮置場の設置手順等に関する図上訓練を行い、その後に実地訓練を行うことで初動体制を強化していきたいと考えている。
このように現地での災害廃棄物処理を目の当たりにした視察経験が、少しでも実効性の高い準備を進めて行くきっかけとなった。
○「現地参加及びワークショップによる研修」への意見
仮置場の視察、現地の職員からの説明により得た知識をワークショップで共有し、さらに掘り下げることにより、実際の災害廃棄物処理における当市に必要な取組について考えることができた。今回の視察・研修会は大変満足しているが、市町村と都道府県では視点が異なるため、その点を意識したワークショップ手法とすることで、より実用性の高い議論を行うことができるのではないかと感じた。
組織の内外でひとりにならないことが大事
千葉県
環境生活部循環型社会推進課
分部洋平
(第1回研修会参加)
○共通の課題に取組む全国の仲間 ~ネットワークのありがたみ
今回、熊本の研修に参加して、本県の処理計画の策定担当は私1人なので、とにかく全国に共通の課題に取組む仲間がいるというのが、非常に心強かった。
実は、熊本県さんには研修後、法解釈で困った際に、ずうずうしくも「研修に参加したものですけど」とご相談したことがあり、非常に親切に対応していただけたことに、本当に感謝しています。
また、研修以外でも、関東ブロック協議会の担当者さんなどとは、意見交換会でざっくばらんに話しているので、非常に分からないことを聞きやすく、こういったネットワークは非常に重要だと感じているところです。
やはり、率直に意見を言えるということや、共通の問題に取組んでいるという連帯感が結構重要ではないかと感じているので、今後の県の研修でもこういった場を取り入れてみたいと思う。
○災害廃棄物対応担当者は複数名体制が望ましい
熊本の研修で一番強く感じたのは、災害廃棄物対応は担当者1人では無理だということ。むろん、地域防災計画などで災害対応組織は整備されるが、災害廃棄物対応が通常業務の延長線上にないので、マニュアルがあっても具体な作業が想像できず、動けないだろうと感じた。県は発災時に調整業務を行うが、知識がなければ認識が一致しないので、調整も難しい。
私自身、災害廃棄物の知識は、0から国の研修会や計画の策定を通して、1~2年かけて全体の流れを把握していったところであり、1日や2日で伝える自信は全くない。その点で、計画策定は一連の流れを理解するうえで非常に良いと思う。個人的には、災害廃棄物対策指針も県処理計画も、半年ぐらいかけて研修などを受け、ある程度の基礎ができた後でないと、分からないのではないかと思う。さらに、常に改定するためには、「あーでもない、こーでもない。」という検討過程を、1年ぐらいかけて一緒に業務を行いながら、順繰り共有していけるとよいのではと思っています。
これから処理計画を策定する自治体さんは、管理職の災害廃棄物対策に係る理解が必要ですが、1人担当は、被災リスク(異動も)があるので、担当者は2人以上にしてもらうべきだと思います。さらに1人は、班長や係長など発災後にリーダーとなる人にやって頂くべきです。
○体制の継続に係る課題 ~本当に続けられるのか!?
今一番恐れているのが、一度計画を策定すると、次は随時(必要に応じて)の見直しとなるため、いずれ、予算とともに人も切られるのではないかということ。常に、人が配置されるだけの事業を考え続けるのは難しいなと。
平成28年熊本地震災害廃棄物処理に係る現地視察・研修会を終えて
神奈川県川崎市
環境局生活環境部収集計画課
安川宏太
(第2回研修会参加)
○実務に関連する多くのことを学べた研修
私が今回の現地視察及び研修会を参加する前に考えたことは、当市は災害廃棄物処理計画などを改定している最中だったこともあり、熊本県の処理計画や熊本市の処理計画を少しでも参考にできればなと思い研修会に参加しました。また、他都市の職員と交流を図ることができたので、他都市での災害廃棄物処理に関する状況などの話や通常期の廃棄物の話をすることができたため、災害廃棄物に関すること以外の知識や状況を知れたため勉強になりました。
○平時・災害時の都道府県の行動が及ぼす影響
熊本県の対応は私が思っていたよりも行動している部分があり、その中でも仮置場について熊本県の職員が配慮された点が大きかったと研修会を受講して感じました。初日の研修会終了後に、神奈川県の職員と話をする機会があり、「県職員がどの程度行動を起こすかによって市町村の動きに反映されるので重要ですね。」というような話を神奈川県職員とすることができ、とても内容のある研修会でした。
○研修により可能となったタテヨコの交流
神奈川県の担当者と交流をすることで、今後大規模地震を想定した訓練や打ち合わせなどを神奈川県と県内市町村で実施するべきなどの具体的な話をすることができました。今はまだ、具体的に神奈川県と連携し課題解決に向けた取り組みはないですが、今後早い段階でそういった取組ができるような働きかけを行っていきたいと考えています。
また、他都市の職員と連絡を取ることができたため、今後災害廃棄物処理計画作成時やマニュアル作成時には、他都市の例などを参考に作成していきたいと考えています。
○研修会の良かった点と今後への要望点
現地参加やワークショップ時の班分けは良かったと思います。同じような職場環境や自治体の職員がほとんどであったため、有意義な場になっていたと感じました。交流会などの場は、違った自治体ともう少し話せるような場を設けていただければと思いました。
平成28年熊本地震災害廃棄物処理に係る現地視察・研修会を終えて
富山県環境科学センター
生活環境課
神保有亮
(第2回研修会:有識者)
平成28年度、本県の災害廃棄物処理計画の策定に携わったことから、今回の現地視察・研修会には有識者として参加させていただきました。
○災害は必ず起こるという当事者意識をもって
参加された自治体の皆さんのお話を聞くと、ほとんどの方が災害廃棄物処理計画の策定作業を1人で行っている状況でした。また、自治体職員は数年で異動することが多く、災害廃棄物処理計画の策定に関する引継ぎ等の課題が存在します。我が国ではどこででも地震が発生する可能性があり、またゲリラ豪雨等の災害も各地で頻発していることから、災害廃棄物処理計画を策定する際は、複数人で情報を共有しながら作業を進め、策定等のノウハウが途切れることがないようにしていくことが重要であると感じました。
○受援体制の整理、情報を収集・整理・公開するシステムづくりが必要
被災地には、お見舞、支援、情報収集等、様々な目的で多くの人が訪れます。しかし、現地としては、復旧への対応で非常に忙しい中、このような訪問は時として迷惑になることもあるようです。そのため、災害廃棄物処理計画を策定する過程の中で、どのような支援等があり、それにどの部署が対応するのかについて、あらかじめ受援体制を整理しておく必要があると感じました。また、発災後の混乱の中で様々な情報が交錯し、不適切な支援にもつながる事例があったことから、DMAT(災害派遣医療チーム)におけるEMIS(広域災害救急医療情報システム)のような、被災地の避難所、廃棄物等に関する情報を収集・整理・公開するシステムが必要であると感じました。
EMIS(広域災害救急医療情報システム) https://www.wds.emis.go.jp/
○関係者間で日頃から顔の見える関係づくりを
大規模災害の場合、市町村、事務組合、都道府県の枠を越えての災害対応が必要となりますが、その中でより良い連携が求められるため、定期的に担当者間で勉強会を開催する、懇親会等のコミュニケーションが取れる場を設けるなど、日頃から顔の見える関係づくりが重要となります。今回の懇親会において、同じ県の異なる自治体に属する担当者同士が初顔合わせであったことも印象的で、今回の研修会が災害廃棄物処理に関するネットワークづくりの場として非常に効果的であったと感じました。
3.本研修が生んだ多様な効果
以上から、本研修会を通じて参加者の方々にとってどのような効果があったのかについて振り返ります。
研修成果を活かし災害廃棄物対応力の向上へ
具体的な取組みに発展
まずひとつは、研修時に向上したモチベーションをそのままに、参加者各自の業務現場において具体的な対策アクションに繋がったことです。
愛知県豊田市からは、今回の現地視察・研修会への参加がきっかけとなり、所属自治体における災害廃棄物対策の「より実効的な」アクションに繋がった事例、特に迅速な仮置場設置とその運用に向けて仮置場の運用マニュアルの作成や廃棄物処理業者団体との協定締結への動き出し等についてのご紹介がありました。また神奈川県川崎市の例では、神奈川県の担当者も研修会に参加していたことから、お互いの立場・役割の違いを共有することができ、今後の訓練や打合せなどを神奈川県と県内市町村で実施する方向に話が動き出したとのことでした。
実際の処理現場を見聞きし肌で感じるという経験、またそれら現地視察の印象と知識が鮮明なうちにそれらを体系化するため実施したまとめのワークショップは、参加者個人の知識を深めると共に、参加者同士をより建設的で深い対話に導くのに効果的であったと考えられますし、研修成果イメージが鮮明なうちに実際業務に落とし込むことで個人の人材力・組織の対応力を高めることにも繋がってゆくと思われます。
繋がりを活用しネットワークへ
もうひとつは、人の繋がりが醸成されたことです。
千葉県の参加者からは、災害廃棄物対策の担当は複数名体制であることが望ましいとご意見があり、この点については有識者の方も言及されています。実際の行政現場においては、ひとりの職員が既に多くの業務を抱えている現状であり、そのような体制を備えることがなかなか難しい状況ではあると思います。そんな中で、研修会での繋がりを頼って熊本県の方に不明点を相談してみた、と書かれているように、外部の力を借りるために必要な、ある意味心理的な敷居が低まったとも言える状況をうまく活用して課題解決に努められた大変素晴らしい取組み事例であると感じました。
このような研修会等の機会を通して作られた個々の「繋がり」を埋もれさせず活用しながら、より有機的な「ネットワーク」として継続的に発展させていき、共通の課題に対し単独組織の枠を超えた連携体制を作っていくことは、災害時に役立つことはもちろん、平時の廃棄物処理のレベルアップに繋がってゆくのではないでしょうか。
4.まとめ
災害廃棄物処理の対応力向上のための重要課題のひとつとして人材育成が挙げられます。災害廃棄物処理計画の策定と人材育成を相互に関連させること、すなわち、計画の策定に向けた研修会を企画・参加してみたり、計画の策定後も、平時であったとしても処理計画が機能するかどうかを試す各種演習や訓練を行ってみたりしながら、人材の育成を図ると共に計画自体も改善させていくことも重要です。
今回ご紹介した災害廃棄物処理現場の視察、座学、参加型グループワークなどの手法を組み合せた研修会は、企画・運営の点でもまだ課題が残されているものの、災害廃棄物処理のための人材育成と対応力向上に対し一定の有効性を持つことを確認できました。研修会の活用の一事例として、災害廃棄物対策業務に携わる多くの皆さまのご参考になれば幸いです。
また、組織を超えた社会全体の対応力を強化していくという意味でも、個々の力を結集させるネットワーク化が大変重要であることから、今回の研修会での繋がりのネットワーク化から始めて、D.Waste-Netの一員である当オフィスとしてどのようなサポートが可能か、を課題点として捉え、今後も取組んでいきたいと思います。
参加者からの「気づき」の中には、受援体制を予め整理しておくことや災害時の情報システムの必要性などを含め、この分野として関係者全体が取組んでいくべき課題も多く提示されました。熊本地震での対応にご尽力された関係各位の取組みがあってこその見えてきたステップもありますので、今回の経験が必ず次に活かされるよう、引き続き努力して参りたいと思います。
<あわせて参考にして頂きたい記事>
テーマ別参考資料集「災害廃棄物処理計画の作成のポイント、策定状況」より
災害廃棄物処理計画に必要な視点(委託仕様書作りにあたって)
人材育成「ライブラリ・オンラインマガジン環環」より
将来の巨大災害に備えた災害廃棄物対策
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