平時の対策を知る処理計画Pre-disaster preparedness actions 平時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

災害廃棄物処理計画に必要な視点(委託仕様書作りにあたって)

~国立環境研究所 研究調整主幹(当時) 高田光康氏に聞く!~

2015年4月

 平成26年3月、環境省から「災害廃棄物対策指針」と、「巨大災害発生時における災害廃棄物対策のグランドデザインについて(中間とりまとめ)」が示されました。また、昨年度からは各地域ブロックで巨大災害時における災害廃棄物処理について話し合う場がスタートしています。こうした動きを受けて、新たに災害廃棄物処理計画を作成しよう、もしくは過去作成した震災・水害廃棄物処理計画等を見直そうという動きが各自治体で本格化していることと思います。

 今回は、自治体で災害廃棄物処理計画を作成する(見直しを行う)にあたって、どのような点に留意すればよいのか、国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センターの研究調整主幹(当時)の高田光康氏にお伺いした内容を分かりやすくお伝えしたいと思います。

1.災害廃棄物処理計画の基本的な考え方

(聞き手)

 高田さんは長く神戸市の職員として廃棄物・リサイクル行政に携わられ、阪神・淡路大震災のときはまさに災害廃棄物処理担当者の一人としてご活躍された経歴をお持ちですね。また、東日本大震災の際はそのご経験を活かし、国立環境研究所の研究調整主幹として現地での処理に対して様々なサポートをされていました。

 そういう経緯から、平時も含めた自治体の実態と災害時の課題の両方をよく御存じかと思いますが、そんな高田さんから見て、自治体が災害廃棄物処理計画を作成するのに最も重要だと思う点は何でしょうか?

 

学習しながら、本当に「使える」ものを!

(高田氏)

 まず最も重要なことは、災害発生時に自治体が迅速かつ円滑に災害廃棄物処理に対応できるよう、地域の事情に合わせた処理計画を作成することでしょう。そのためには計画策定への支援を委託する場合でも、「よくできた」計画を「業者にお任せ」で作らせるのではなく、「使いやすい」「あってよかった」と思える計画を目指し、自治体担当者も支援者の計画策定過程をともに学習していく形が望ましいと考えます。

(聞き手)

 つまり、コンサルタント会社等に計画づくりを発注して作ってもらうだけでなく、自治体の担当者自らが学習しながら、本当に「使える」ものを作る必要があるということでしょうか。

コンサルタント(高田氏) 
そうです。最初から100点満点の完璧な計画を業者に任せっぱなしで作るではなく、自治体担当者がきちんと考えて作ることが重要です。
(聞き手)
そうはいっても、不完全な計画のままでO.K.というわけではないですよね?
(高田氏)
例えば最初は50点の計画であっても、その後訓練や研修等を重ねながら、少しずつ完成度を高めていけばよいのではないでしょうか。そういう意味では、計画は「完成完結型」のものではなく、訓練研修や他機関連携の視点を含んだ「持続発展型」の計画であるべきだと思います。

(聞き手)

 なるほど。ところで、これまで自治体の方とお話していると、特に今回初めて計画を作るというところでは、「どんな規模の災害を想定し、どこに重点を置いて作ればいいのか、よく分からない」というご意見をよく聞きます。

細部にこだわった計画ではなく、基本的な原則を踏まえることが大事!

(高田氏)

 首都直下型地震や南海トラフ地震など、いわゆる巨大地震に備えることも重要ですが、一方で水害や土砂災害といった比較的頻繁に起きる局地災害への対応も考えておかねばなりません。大事なことは、特定の被害想定にのみ対応する処理計画ではなく、その地域でよく起きる災害と、将来予測されている大規模な災害との両方に使える計画にすることです。そのためには、あまり細部にこだわった計画ではなく、処理にあたっての基本的な原則を踏まえ、大小様々な災害に対応できる考え方を整理することが重要です。

(聞き手)

 想定する災害にとらわれすぎるのではなく、まずは処理の基本的な考え方を定めよ、ということですね。もっと具体的に言うと、処理にあたって重視する点を予め庁内で合意しておくとか、災害廃棄物処理の過程で何かを意思決定するときの原則論を定めておくとか、そういうことでしょうか?

(高田氏)

 そうですね。通常の一廃や産廃の処理計画では、処理必要量の推計から、収集、中間処理、リサイクル、最終処分といった一連のスムーズな流れを作ることが肝要で、自治体では災害廃棄物処理計画でもそのようなストーリーができればよし、と考えがちのようです。しかし災害廃棄物処理計画に限っては、より初動対応に重点を置いたほうが良いと思います。これまでの経験上、初動対応の遅れは、混合廃棄物や便乗ごみの増加を誘発し、災害廃棄物の処理困難性を増大させてしまうことが多いと感じているからです。

(聞き手)

 発災直後は人も資材も情報も不足し、現場が混乱することは必至ですから、まさにそういうときに使える計画でなくては意味がないですよね。

2.災害廃棄物処理計画に盛り込むべき事項

(聞き手)

 それではここからは、市区町村が災害廃棄物処理計画を策定するという場合を想定し、具体的にどんな事項を盛り込んでいくべきなのかをお伺いしたいと思います。

 まずは先ほどのお話で、特に災害発生直後の初動対応を重視するというご意見がありましたが、これを計画に盛り込むとすると、どういう内容になるでしょうか?

他部局連携を踏まえた初動体制を重視、廃棄物部局での対応項目と目標期間設定も重要!

(高田氏)

 具体的には、災害発生直後の組織体制と機能分担について、廃棄物部局以外の危機管理部局(防災部局)や道路部局などと一緒に確認しておくことが有効でしょう。また、発災直後に廃棄物部局の職員が対応すべき項目と、それぞれの項目に対する対応目標期間を設定しておくのもよいと思います。発災直後の廃棄物担当者の行動マニュアルというイメージですね。

(聞き手)

 同じ庁内の他部局との連携を踏まえた初動体制を作っておくことや、廃棄物部局でやるべき具体的な初動対応項目を事前に整理しておくことが重要、ということですね。

 冒頭に、「地域の事情にあった計画づくりを」というお話がありましたが、それについてはいかがでしょうか?

各地域の特徴を考慮して量とフローを考えることが肝要!

(高田氏)

 処理計画を作成するにあたっては、単に環境省の指針に沿って検討項目を並べるのではなく、まずはその地域の地形、人口、産業構造、廃棄物処理施設の状況等を考慮し、災害時にどんな困難な状況が想定されるのかを考える必要があります。そのうえで、それら想定される困難な状況に対して、どのように対応すべきなのかを考えることが重要です。同じ人口規模でも、大都市近郊のベッドタウン、漁業水産業が盛んなまち、大企業の工場が地域経済を支えるまちではそれぞれ災害が発生した場合に直面する事態は異なってくるので、その特性を踏まえた対応方法を考えておくことが重要です。

(聞き手)

 災害廃棄物処理計画を作ろうとすると、まずは発生量を推計し、そのフローを考えるという内容が真っ先に頭に浮かびますが、そのためには各地域の特徴を十分に考慮しておくべし、ということですね。

 発生量や処理可能量の推計については、どのような配慮が必要でしょうか?

(高田氏)

 発生量は、想定される被災状況と過去の事例、及び推計に関する最新の知見を用いて推計すべきだと思います。ただ、推計したとおりに災害廃棄物が発生するわけではないので、あまり細かな推計を行うことよりも、担当者が変わっても後から理解できるように具体的な推計手法を計画中に明記しておくことをお薦めします。

 また、広域処理等の支援を要請する根拠として使えるよう、処理施設の余力や処理期間を勘案して単独自治体での処理可能量を算出しておくのがよいでしょう。

(聞き手)

 量の推計ができたら、次はそれをどう処理するかという処理フローを検討すると思いますが、これについてはどのように決めていくのがよいのでしょうか?

(高田氏)

 その地域で想定される複数の被害に対応した処理フロー例は、ある程度は作っておく必要があると思います。ただ、計画の段階であまり複雑なフローを作成するよりは、処理フローを構築するための手順や、フロー構築にあたっての考え方、制約条件などに重点を置いて整理しておくほうが、多様な災害に対応できますし、担当者が変わっても知見を伝承しやすいと思います。

(聞き手)

 あまり細かく定めすぎず、複数のパターンを持っておくということですね。ところで、特に市区町村にとっては、仮置場の確保も重要なテーマだと思いますが、これについては計画の中でどのように扱うべきでしょうか?仮置場として使える土地をリスト化することから始めている自治体が多いと思いますが…。

仮置場選定の方法や管理運営上の留意点を整理しておくことが大切!

(高田氏)

 仮置場として使える土地の確保や、必要面積の算出は重要ですが、それだけにこだわるのではなく、実際に災害が起きたときに仮置場の候補地をどのようにして選定するのか、その際どのような調整が必要となるのか、仮置場の管理運営上どんな点に注意する必要があるのかを整理しておくことが重要です。単に土地のリストだけあっても、実際に災害が起きたときの作業はスムーズに進まないと思います。

(聞き手)

 仮置場についても、発生量推計や処理フローと同様、作業方法や注意すべき点を計画中で整理しておくべし、ということでしょうか。確かに、そうしておけば、担当者が異動や退職で変わってしまっても、後任に引き継ぎがしやすいですよね。

定期的に見直す仕組み、人材育成が重要!

(高田氏)

 実際には例えば仮置き場の確保や、訓練研修、協定締結等については、ここまでやればOKという判断は難しいので、達成目標を計画の中で定めておき、これらを定期的に見直す仕組みを作っておくことが有効です。災害廃棄物処理計画の見直しを、一般廃棄物処理計画の改定等と連動させておくのも良いアイデアでしょう。

(聞き手)

 なるほど。最初の計画づくりの段階で定期的に見直す仕組みを導入しておけば、たとえ担当者が変わっても、見直しの際に新担当者が内容を十分に理解することができますね。いつでも災害廃棄物処理に対応できるようにするという意味では、「人」を育てておくことも重要ではないでしょうか?

(高田氏)

 計画の中で、平常時から廃棄物処理担当者の災害対応能力を高めておくための研修・訓練の必要性に触れ、このための継続的取組を方向付けておくことも大事です。

(聞き手)

 最後に、計画と並んで重視されているのが「協定」ですが、これについてご意見をお願いします。

いざというときに協定が機能するよう平時の関係づくりが重要!

(高田氏)

 特に規模の小さい自治体では、災害時に必要な対応を自治体だけで全て行うことは不可能なので、必然的に周辺の自治体や関係機関、民間事業者等との連携が重要になってきます。災害廃棄物処理計画の中では、協定の有無だけでなく、いざというときその協定が機能するよう、平常時からの情報共有体制の強化、連携可能な対象の拡大について言及しておき、日頃の関係づくりにもつながるようにすることをお勧めします。また、不幸にもひとつの自治体で処理しきれないほどの災害廃棄物が発生した場合に備え、国、県、近隣都市との関係や、広域処理の考え方についても計画中で整理しておくとよいでしょう。

(聞き手)

 ありがとうございました。ここまで、災害廃棄物処理計画を作成する際に、心得ておくべき重要事項をお伺いすることが出来ました。最後に、ポイントをまとめていただけると有り難いのですが。

災害廃棄物処理計画作成のポイント!

(高田氏)

 少なくとも以下の事項を盛り込む必要があると思います。

 

1.災害発生初期の組織体制や役割分担(庁内の他部局との連携を重視すること)

2.地域特性の整理と災害時に想定される課題の抽出

3.発生量推計と処理可能量(推計手法を明確に)

4.基本的な処理フロー(フロー構築の手順、考え方、その地域の制約条件を中心に複数シナリオ)

5.仮置場への対応(空地リストだけでなく、候補地選定手順や付帯する調整事項、運営管理上の必要対応項目を検討しておくこと)

6.定期的な計画見直しの仕組みづくり

7.研修、訓練の継続的な取組の仕組みづくり

8.平時及び災害時における他機関(周辺自治体・民間事業者等)との連携方法

 

 これから計画を作る自治体が、例えば民間事業者に作成支援業務を発注する場合は、発注仕様書に以上の項目を入れておくことをお勧めしたいと思います。是非参考になさってください!

※聞き手…(公財)廃棄物・3R研究財団 森朋子

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