災害時の対応を知るPost-disaster actions 災害時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

災害廃棄物の収集運搬支援マネジメントにおけるポイント

熊本市危機管理課 竹本啓助

災害廃棄物の収集運搬支援マネジメントにおけるポイント

2025年1月

目次

1.導入

2.生活ごみ優先の原則

3.体制構築

4.収集運搬マネジメントについて

5.各支援団体の特徴

6.収集運搬マネジメントに有用なツール

7.まとめ

1.導入

 一度に数年分~数十年分以上といった膨大な量が発生する災害廃棄物に対応するためには、平時とは全く次元の異なる方法・体制で対処することが求められる。近年の災害においては相互支援やプッシュ型支援の概念が広く浸透しており、強力な支援が早期に被災地入りすることがある程度期待できる。(南海トラフ巨大地震のような広域かつ甚大な災害を除く。)一方で、この支援の力を効果的に使いこなすためには、受援側にもそれなりの知見と準備が必要になる。本稿では被災自治体が収集運搬支援を円滑かつ効果的に受け入れるためのいくつかの勘所とツールを紹介したい。

2.生活ごみ優先の原則

 発災時点から片付けごみが排出され始め、2日も経つと道路や公園、あらゆる空き地がごみで埋まり、対処がどんどん困難になっていく。一方、生活ごみや避難所ごみ、仮設トイレし尿(以下、「生活ごみ等」という。)は平時と同等かそれ以上に発生することになるので、通常のごみ処理体制ではこちらの対処で精いっぱいとなってしまい、片付けごみの対処が後手に回ってしまう。しかし、生活ごみ等は腐敗や悪臭といった即周辺環境に影響が出る性状のものが多く含まれるため、こちらの処理を遅らせることは避けるべきである。これを怠ると生活ごみ等が片付けごみに混入してしまい、より処理が困難となっていく。したがって、生活ごみ等優先の原則はなるべく崩さず、かつできるだけ早く片付けごみに対処していくという難しい舵取りが求められる。なお、片付けごみの中にも冷蔵庫の中身などの腐敗性のごみが含まれることもあるため、これらは優先的に生活ごみ等とともに収集することを勧めたい。

3.体制構築

 前述のとおり、生活ごみ等の対処だけでも質・量ともに平時の業務を上回るリソースを求められるが、これに加えて片付けごみへの対応が必要になってくるため、平時の体制では到底間に合わない。最低でも次のような役割を、発災初期に、平時の体制に追加して用意しなければならない。発災初期は組織のリソースが情報収集や避難所運営に割かれがちであるが、体制をいかに早く構築できるかが、その後の災害廃棄物処理の困難さを大きく左右する。

 (1) 広報担当(住民にごみの出し方を周知する。)

 (2) 仮置場運営担当

 (3) 片付けごみ担当(町中の片付けごみや勝手仮置場の状況を把握し処理する。)

 (4) 支援の受け入れ担当(各所からの支援を調整・差配する。)

 また、上記の業務と比べると多少の時間的猶予はあるが、段階的に次の役割も構築していかなければならない。

 (5) 契約担当(廃棄物処理や仮置場運営等の各種契約を整える。)

 (6) 財務担当(予算や補助金を取りまとめ財政部局へ要求する。)

 (7) 損壊家屋解体撤去担当(技術職を中心に、解体撤去工事の発注や管理を行う。)

 今回は(3)(4)に関する内容が中心であるため、その他の業務についての詳細な説明は割愛するが、体制構築が整わなければ当該業務を円滑に進めることが難しくなってしまうため、特に留意してほしい点として記述した。

4.収集運搬マネジメントについて

 町中の片付けごみの山に対処するためには、生活ごみ等対応後の余力と住民やボランティアの協力、外からの支援に頼ることになるが、ここでは外からの支援のマネジメントについて説明したい。

初期の支援は収集運搬力がメインとなる。支援側の動きとしては、初めに支援団体の管理職クラスが先遣隊として被災地を直に確認し、支援の可否や内容を判断することになる。この時、先遣隊が特に重視する点が安全性と必要性であり、また受援側支援側ともに他に対口支援相手がいる場合、そこにも配慮する必要があるため、他団体の動きにも気を配る。続いて宿泊地や仮置場等の活動条件を確認するため、被災自治体は先遣隊の活動や問い合わせに対応できる職員を配置しなければならない。支援団体から求められることの多い設備・資材・情報等を以下に整理する。(下線は特に被災自治体で手配が求められることが多いもの。)

 

1 設備

宿泊場所、食事場所休憩場所車両待機・洗浄・整備場所、集合場所、事務スペース

2 資材

燃料、食事、支援車両の証明(高速料金等)

3 情報

活動場所の状況・地図(道路状況、被害状況、排出量、性状、地域特性等)、仮置場の状況(分別種別や混雑具合、余力等)、救急対応可能な病院、取材対応の有無

 

 実際に支援することが決まれば、その形態や規模、団体の特性に応じた活動場所や内容を決めていく必要がある。自治体廃棄物部局職員や廃棄物業者は、活動場所さえ決めておけばある程度自身で判断して動いてくれるが、これら以外の団体の場合は細かな指示が必要となる。また、活動場所の地域住民とのトラブルを避けるため、活動内容や住民対応の可否もしっかり住民へ広報しておく必要がある。

 支援活動が動き始めると被災地の状況は日々刻々と変化していくため、細かな状況把握と先を見据えた計画が必要になる。これがマネジメントにおけるもっとも重要な点であるとともに厄介な点であると考えている。支援側はせっかくの支援人員・機材が無駄に遊ばされることを特に嫌うため、活動場所が不足しそうな場合は早めに伝えるとともに活動内容や規模を調整していく必要がある。

 情報収集には職員、支援コンサル、地域住民、支援団体等を頼れるが、情報を整理しつつ全体を見渡し、今後の計画にまで落とし込める職員がどうしても必要となってくる。廃棄物部局の職員においては、災害時にこのような役割を担うことも想定し、後述のツール等にも触れておきつつ、平時から技術を培っていくことが望ましい。

5.各支援団体の特徴

 支援団体の類型は以下の通り多岐にわたるが、それぞれ目的や得意分野、価値観が全く異なるため、その特徴を把握しておくことで円滑なマネジメントの助けとなる。

1 地方自治体

特徴:価値観を共有できることが多く、平時の業務も似通っているため、マネジメントしやすい。また、技術支援や事務支援も期待で

   きる。一方、災害現場では普段扱わないごみ(家電等)も多く、重機の扱いも不得意である点が弱み。

目的:共助、かつての支援の恩返し、被災したときのための実地訓練

適所:市街地や住宅地の小規模な排出現場、ルート収集、エリア収集、大型車両が入れない道

2 自衛隊

特徴:大量の人員機材を一気に動員することができるため、他にない大規模な作業が可能である。一方、小さい現場には不向き、細か

   いマネジメントは不可能、投入にはいくつかのハードルがあり、気軽には依頼できない。

目的:国民の人命及び財産の保護

適所:大規模で混合廃棄物状態になっている勝手仮置場からの一斉搬出

3 地元業者(廃棄物業者や土建業者等)

特徴:地域の状況をよく把握しているため、細かいハンドリングが可能である。特に廃棄物業者であれば分別等の面倒な作業に対応可

   能。一方、すでに生活ごみや仮置場の対応にリソースが奪われていたり、自身も被災していて支援の余裕が無かったりする場合

   も多い。また、契約等がない限り、行政の意図通り柔軟に動くとは限らない。

目的:当事者意識、地元貢献、契約・付き合い

適所:廃棄物業者であれば中規模までのほとんどの現場に対応可。仮置場運営を委託することも可能。土建業は重機運用や敷鉄板手配

   に強み。

4 他地域業者

特徴:わざわざ他地域から来るからには災害経験や熱意を有していることが多い。被災地外に新たな処理先を紹介してくれることもあ

   る。一方、行政のコントロールが難しい場合が多い。

目的:ビジネスチャンス、実地訓練、支援自治体や地元業者との付き合い

適所:大規模排出所も含むあらゆる現場に適応できる。仮置場管理も可能。

5 業界団体(廃棄物、土建、設備、運輸、農林業等)

特徴:団体で乗り込むため、かなりの規模での支援が可能。廃棄物業団体であれば、あらゆる現場に対応できる。一方、土地勘は浅

   く、業者により士気はまちまち。注文が多い傾向にあり、地元業者との縄張りにも気を遣う。目立つ現場を好む。運輸業など、

   廃棄物との関わりの薄い団体も参入することがある。

目的:業界イメージ向上、ビジネスチャンス(土建業団体は公費解体も見据えている。)

適所:廃棄物業ではほとんどの現場に対応可。土建業団体は重機に強み。廃棄物に不慣れな団体には細やかなサポートを要する。

6 その他

特徴:有志の個人や団体が自己負担で参加することも。熱意は高いが行政に情報が入らずコントロールも不可能。

目的:人助け、恩返し

6.収集運搬マネジメントに有用なツール

 前述のとおり、収集運搬支援マネジメントにおいては、現時点で、どこに、どれだけの量の、どんな性状の廃棄物が存在しているかを把握しておくことが肝要であり、地図情報ツールをうまく活用することで効率的な情報整理が可能となる。令和2年九州北部豪雨の人吉市や令和4年台風第15号の静岡市において「Googleマイマップ」による勝手仮置場の把握や収集運搬マネジメントを実施した実績がある。(図1)地点(ポイント)、道路(ライン)、地域(ポリゴン)での情報収集(画像、数値・文字情報)や整理が可能であり、アクセス権の付与により誰でも情報の更新ができるため、最新の状況を常に把握することができる。これにエクセル等で支援団体ごとの運用計画を組み合わせることで、町中からのごみの撤去を綿密に予想することができる。

 また、情報収集や共有にはLINE等のメッセージングアプリの利用も有効である。グループ機能によりきめ細かな指示や稼働状況の把握、情報収集が可能となる。

一方、団体によっては依然アナログな指示手段を求められることもあるため、現状では電話、FAX、住宅地図等による旧来の情報共有手段も用意しておく必要がある。

 

図1:Googleマイマップ活用例

図1:Googleマイマップ活用例

 

 7.まとめ

 繰り返しになるが、収集運搬支援マネジメントにおいては、細かい状況把握今後の見通しの予想が勘所となるため、平時においても地域の状況に目を配っておくことが望ましい。特に高齢者や空き家の多い地域では片付けも後手に回り、思わぬ時期に排出され始めるなど、予想がうまく立てられない場合もある。本稿記載の対応内容はあくまで一例に過ぎないが、この様なやり方もあるということを心に留めながら、災害廃棄物対応力を磨き、地域の強靭化を図っていただけたら幸いである。

 

 

 

 

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