災害廃棄物情報プラットフォーム編集部
2024年12月
目次
2.話題提供 「能登半島地震派遣職員報告」東京都 荒井和誠氏
3.話題提供 「能登半島地震における災害廃棄物処理事務支援」倉敷市 大瀧慎也氏
4.話題提供 「能登半島地震被災地支援活動報告」南伊勢町 瀬古智秀氏
5.話題提供 「令和6年能登半島地震支援活動」宇治市 岩嵜享史氏
6.話題提供 「能登半島地震の支援活動に関する情報提供」館山市 半澤大氏
1.災害廃棄物情報交換会について
災害廃棄物対策の取組みやアイディアを共有しつつ、関係団体同士の緩やかなつながりを作っていくために、国立環境研究所では「災害廃棄物情報交換会」を開催しています。令和6年度は、「災害廃棄物処理の初動対応に関する課題(片付けごみ+新たな課題)について能登半島地震をケースとして検証・抽出する」をテーマとして、第1回は能登半島地震の現地支援経験者の話題提供を基に意見交換を行いました。
災害廃棄物情報交換会(令和6年度第1回) | |
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日時 | 2024年10月15日(火曜日) 10:00 ~ 12:40 |
場所 |
廃棄物・3R研究財団大会議室 Webハイブリッド開催 |
出席者 (敬称略) |
座長 鈴木 慎也 福岡大学工学部社会デザイン工学科 教授 委員(氏名五十音順) 荒井 和誠 東京都 環境局資源循環推進部計画課 担当課長 岩嵜 享史 京都府宇治市 人権環境部まち美化推進課 主査 大瀧 慎也 岡山県倉敷市 環境リサイクル局リサイクル推進部副参事(兼) 瀬古 智秀 三重県南伊勢町 子育て・福祉課 課長 半澤 大 千葉県館山市 建設環境部環境課 係長 オブザーバー(氏名五十音順) 荒井 昌典 神奈川県横浜市 資源循環局 適正処理計画部施設課 課長 河野 賢史 宮崎県延岡市 市民環境部資源対策課 総括主任 堂坂 高弘 熊本県人吉市 市民部環境課 主幹 国立環境研究所 廃棄物・3R研究財団 |
2.話題提供 「能登半島地震派遣職員報告」東京都 荒井和誠氏
- 東京都は、環境省の要請に基づき1月6日から5月上旬まで能登町と志賀町へ、東日本大震災の災害廃棄物処理を経験した職員をリーダーとしてチームで派遣した。
- 能登町では、津波堆積物について、東日本大震災の原単位を使い、D.Waste-Netの持続可能社会推進コンサルタント協会の情報も集約して推計した他、災害廃棄物の発生量推計、広報チラシの提供、仮置場の配置レイアウト等の支援を行った。その後、仮置場設営に係る支援を東京都八王子市に引き継いだ。
- 志賀町では、初動時の発生量推計、解体家屋数の予測、仮置場の設営・準備を支援した。また、開設後のピーク時期には、昼休み時間に搬出工程を入れるなど、現場での運営に係る助言を行った。その後は、緊急解体の調査、設計、積算や、公費解体の受付に係る申請資料一式の作成、受付体制の構築に係る支援を行った。町のマンパワーで不足するところを支援し、日本補償コンサルタント協会 (補償コン)への委託発注や進行管理方法などについて助言を行った。

東京都による仮置場運営支援の様子
討議
質問:1月6日に現地に入った時点の状況はどうだったか。
荒井:道路はクラックや積雪等で危険であるが、それを知らずに乗り上げるとパンクするため、能登町から来ないように言われた。その
ため8日まで県庁で能登町に関する情報収集を行い、資料を準備して、除雪ができた1月10日に現地に入った。金沢から往復12時間
以上かかり、現地での滞在時間は2時間程度だったが事前に準備できていたため、仮置場のレイアウト等の提案ができた。
質問:土壁の家が多かったが、発生量原単位をどう工夫したか。
荒井:当初、原単位は木造0.5(トン/延床面積)や解体率(半壊の25%等)を使った。瓦や土壁が多かったことや、アンケート調査で半
壊でも解体を申し込む意向が50%を超えていたため、推計量は過少になると考え、モデル解体を実施して解体廃棄物の種類ごとに
重量を計量し原単位を推計することや意向調査結果の反映などを町に提案したが、志賀町仮置場に計量器を設置する予定が無く、
解体廃棄物の種類ごとの原単位等が把握できなかった。なお、県は市町に仮置場での計量器の設置を求めていなかった。
そのため、地域特性に基づく発生量推計ができず、全国標準の推計方法を採用したことから、当初の推計は過少になったようで、
令和6年2月当初の推計量約244万トンから、半年後には332万トンと大幅に増えたことから、後に推計のやり方には検証が必要と
感じた。災害報告書の作成などに計量等が重要であることを経験していたが、それらが生かされず残念に思った。
質問:石川県や県産業資源循環協会(産資協)の対応はどうだったか。
荒井:市町と産資協との協定の有無によって、初動対応が異なっていたと思う。志賀町は産資協との協定を結んでいたため、迅速な仮置
場の開設につながったと思う。また、片付けごみの処理を産資協が引き受け、仮置場での搬入量が多いものを中心に処理先への搬
入量見合いで搬出し、長期に保管する必要がなかったことはよかったと思う。
災害廃棄物処理は主体である市町に責任があるため、県は市町で処理が円滑に進むよう、人的支援や事務支援を行う方針をとっ
ている方針をとっていたが、県庁と市町は距離が遠いためオンライン説明では現場の状況や事情等がうまく伝わっていないように
思えた。県のリエゾンや本庁が役場へ来たこともあったが、県と市町等が被災地の近くで定期的に対面の合同会議を開くことの重
要性を感じた。
2月の県の方針では、熊本地震よりも推計発生量は少なく、県への事務委託はなく、市町で処理することにしていた。これまで
大量の災害廃棄物が発生した東日本大震災はもちろんのこと、熊本地震でも政令指定都市である熊本市を除き、その周辺の小規模
な自治体から県が事務委託を受けている。平成30年西日本豪雨災害では、広島県や岡山県でも二次仮置場以降、県が事務委託を受
け、東京都も大島町から事務委託を受けた実績がある。
災害発生時に、都道府県は、災害廃棄物処理の全体像を俯瞰しながら、被災自治体からのニーズをくみ取り、早期の処理に向け
た人材バンク制度の活用など、被災自治体と私も含めた経験者とのコミュニケーションをどのようにとっていくのか、また、学識
者による積極的な関与方法に課題があったと思う。
3.話題提供 「能登半島地震における災害廃棄物処理事務支援」倉敷市 大瀧慎也氏
- 1月3日に環境省から連絡があり、七尾市における課題の把握を要請され、1月5日に県庁に入って支援方法を共有した。七尾市は片付けできるところは始まっていたが、倒壊の恐れがあるところは作業が始められない状況だった。
- 七尾市は災害廃棄物処理計画があり、仮置場候補地で準備が進められており、業者の立ち合いでレイアウトや出入口、渋滞について話し合うことができた。また、し尿処理場は停電・断水により稼働停止していた。また、入口出口に50センチメートルの段差ができて投入できなかったが、投入槽にひびがないことを業者と確認して一時的に貯留するようにしたことで仮設トイレからの汲み取りが定期的にできるようになった。補助金申請の際の備えとして記録を取るようにした。
- 停電・断水でトイレが使用できず、簡易トイレのし尿は、凝固剤を入れて燃やすごみとしていた。焼却施設も稼働を停止し、ピットの残余容量10トンであり、衛生廃棄物のみ投入した。
- 大きな課題は公費解体であり、1月上旬の段階では市民向けに予告広報を作成するなど、備える支援を行った。県が全体スキームを決めるため、被災自治体の主体性がなかった。4月からは珠洲市への中長期派遣で公費解体事務を行っている。
- 輪島市は、解体が進んでおらず、緊急解体と公費解体についてスキームの助言を行った。思い出の品も後手に回ると対応できないため課題と感じた。複数家屋が倒壊して境界がわからないため、複数の申請をまとめないと実務が進まないことを助言した。
- 環境省の災害廃棄物処理支援員制度(人材バンク)がよく活用され、また、コンサルタントへの委託業務が拡大された。その背景として被災自治体職員数の不足があった。マネジメントコンサルとして市の業務が委託されたが、スピード感が伴わず、検証が必要である。
- 支援の際に、委託契約書や様式を作成し、被災自治体職員と業者と打ち合わせを繰り返したが、職員が不足しており、伝えることが困難だった。
討議
質問:市の体制はどうだったか。
大瀧:珠洲市は課長補佐を中心とし、多くの業務を抱えていた。職員2名は現場・仮置場対応にあたっていた。短期的に企画財政部局か
ら1名が来ていた。他には、県庁の応援職員1名がいた。
質問:広域的な被害では、県の関わりが重要だと思うが課題が多かったのはなぜか。
大瀧:自分は県への事務委託が良いと考えていたが、県は受けない方針とした。この点について検証が必要であると思う。自治体と業者
の責任が不明確であったことで課題が多かった。
質問:珠洲市の令和5年の被災経験は生かされたか。
大瀧:令和5年の地震では解体が進んでおらず、令和6年の地震が重なって困難さが増した。
4.話題提供 「能登半島地震被災地支援活動報告」南伊勢町 瀬古智秀氏
- 輪島市では被災者は家の前に片付けごみを出したり、地区集積所から業者が一次仮置場へ運搬する方式で、仮置場への個人搬入は禁止であった。仮置場で渋滞は発生しておらず、鉄板も敷設されて問題なく運用できていた。地区集積所はどこもきれいに管理されていた。
- 業者による運搬単価(円/1車1回)が市内共通で仮置場まで遠い地域の業者から不満があったため、地区集積所を作り、積み替えて一次仮置場へ運搬していたが、経費が2倍になるため補助金申請の際にはその根拠となる理由が必要と思う。
- 避難所の仮設トイレは、きれいに管理されていたが、ほとんどが和式で高齢者は使えないという声を多く聞いた。トイレトレーラーは、し尿処理場等にトレーラーを持って行ってし尿を落とし込むが、それができておらず、使用できない状態だった。
- 輪島市の公費解体受付では、市は家屋4方向の写真を必要とした。しかし、説明資料にそのことが明記されていなかったことや、住民が写真を撮ってもコンビニでしかプリントができないなどからスムーズに進まなかった。相続書類のため法務局へ行くこともあり、非常に苦労した。
- 地域住民との対応等から、市と県とは異なる立場であることがよく分かった。輪島市課長との話では、支援人数にばらつきがあり、多いときにはそのための仕事を作らないとならない辛さがあるとのことで、支援側の課題だと思う。

南伊勢町による情報収集

公費解体受付支援
討議
質問:公費解体では訴訟リスクがあると聞いたが、過去の災害で近隣の承諾なしに解体して訴訟になったことがあったか。
回答:東日本大震災では、申請が出ていない家屋を解体し、1件訴訟となったことがある。
瀬古:建物が寄りかかって倒れるのであれば承諾は必要だが、隣に何もなくても承諾を求めていた。また、写真がないと断らざるを得な
かったが、実際には職員が現地確認しており、写真の必要性について矛盾を感じた。相続図を描くのも大変で相続者に承諾を得る
ことは大変難しかった。
コメント:7月になって自費解体を(「公費解体の加速化に向けた対応方針」(7月22日)の)柱に据えることとされたのは、公費解体だと
相続人や隣家の印鑑(承諾)が必要となり時間を要することがあるため、この様なトラブルを避けて解体を早くするためだっ
たか。
コメント:公費解体はスピード化を図ったが困難で、自費解体のスキームを使って強化していたが、自費解体は実質的に無いと思う。
コメント:何も知らない応援職員が公費解体の受付をしたことで、審査段階で止まってしまい、補償コンまで書類が回らない状況であっ
た。支援全体をつなげていく必要があるが、途切れがちであった。
5.話題提供 「令和6年能登半島地震支援活動」宇治市 岩嵜享史氏
- 環境省から全国都市清掃会議経由で支援要請があり、4月6日から1か月間、輪島市、七尾市、珠洲市へ避難所ごみの収集運搬のため、2トンダンプと2トントラックを確保し4班に分けて派遣した。避難所ストックヤードでは、避難所運営でよく分別されており、困ることはなく作業はしやすかった。
- 七尾市に派遣予定で分別区分もリサーチ済みであったが、前日に輪島市へ行くように言われた。輪島市で活動地図をもらって各避難所を如何に効率的に回るかを短時間で決めて2班に分かれて収集した。地図アプリには道路啓開情報がきちんと反映されていたが、土砂崩れで引き返したこともあった。
- 七尾市は、処理施設が被災していて白山野々市広域事務組合『松任石川環境クリーンセンター』まで飛散しないよう注意しながら80kmの移動が必要であった。また、松任石川環境クリーンセンターの分別区分に合わせて分別しなおして運搬した。針のついた注射器などもあり、気を付けながら分別した。
- 自治体によって異なる分別区分に気を使ったが、事前に知るには限界があり、搬出先が異なる場合はさらに難しかったが、支援活動自体は円滑だった。

宇治市による避難所ごみ収集支援の様子(1)

宇治市による避難所ごみ収集支援の様子(2)
討議
質問:発災から3か月たっても避難所ごみの収集は大変な状況だったか。地元業者で対応しきれなかったのか。民間委託してはどうか。
岩嵜:収集運搬は業者への委託でも可能である。避難所には多くの方が生活されていて、ごみは1月から変わらず溢れかえっていた。地
元の収集業者は見かけることがなかった。新潟市が家庭の可燃ごみ収集支援を行っていた。
質問:同じ品目だけ収集して焼却施設まで往復するのと、多品目を収集する方法はどちらが効率的か。
岩嵜:輪島市は避難所が狭い範囲にあり、品目を絞らなくてもよかった。七尾市は焼却施設まで80kmあったため、品目を絞った方が作
業しやすい。
質問:分別作業は書類で指示されるのか、あるいは口頭か。
岩嵜:当日に紙のマニュアルをもらって作業をした。
6.話題提供 「能登半島地震の支援活動に関する情報提供」館山市 半澤大氏
- 人材バンクとして富山県の依頼により県内4市へ2週間、館山市職員4名が分かれて行った。館山市課長が県庁主催の説明会で公費解体の説明をした。大規模災害への支援ということもあり、内部調整に時間がかかり、レンタカーも借りられなかった。
- 富山県内の市町は、災害廃棄物処理で何をすべきかを理解していて、県と市町の距離感も近かった。氷見市と高岡市の仮置場は整然としており、直営が搬出してうまく運営されていた。
- 県は令和3年度に災害廃棄物担当主査を置いて市町とコミュニケーションをとれていたこと、富山県環境科学センターがあり、うまく動けていた。広域調整では県の存在も欠かせず、県の実行計画があればさらに頼りにできたと思う。
- 人材バンクとして、ここは確認した方が良いといった助言はするが、知識の押し付けにならないように気を付けている。
- 所感として、人のつながりが大切であり、人材バンクは資料提供や職員に寄り添った支援ができることが強みだと思う。
- 被害が共通する複数自治体に対してDXによる課題解決ができれば良いと思う。
- 支援側の最適な派遣が必要であり、受援側にヒアリングして検証すると良いと思う。

館山市による支援の様子(写真撮影:館山市)
討議
質問:富山県は県としての準備、体制ができていたようだが、県に最低限これをやっておくと良いと思うことはあるか。
半澤:富山県は専任の主査を配置していることで、先を予測し、市町がやるべきことを整理できていた。
コメント:東京都は現在、専任の担当者を配置できていない。全国的に都道府県でどのような体制が必要であるか国環研で把握し、考え
ていくとよいと思った。
質問:レンタカーが用意できなかったとのことだが、庁内調整が難航した背景はどういったことか。
半澤:支援で被災地の役に立つというのはもちろん、結果として、館山市の対応力も向上するという位置づけの派遣ではあるが、遠方は
特にコストを要する。当時、現地のホテルやレンタカーが不足しており、派遣までの短期間で、妥当な価格のものが見つけられな
かった。
質問:被災規模が館山市の水害の経験と異なり、支援の役に立てるかと思ったそうだが、実際にはどうだったか。
半澤:館山市が提供した公費解体受付マニュアルが役立ったと言われた。住民対応でどんな質問が来るかは同じだったため役立ったと思
う。
7.まとめ
座長:過去の災害の経験から積み上げてきたスキームが崩れていることが垣間見えた。これまでは初動対応に重点を置き、また、片付け
ごみの対応が重要になると考えてきたが、能登半島地震では、公衆衛生の問題や家屋倒壊の危険度が高く緊急解体が必要であっ
た。初動時から解体業務を念頭に置いておかなければならない等、様々な問題が凝縮されていたことが理解できたが、引き続き議
論をしたい。