広島県廿日市市生活環境部循環型社会推進課 藤川桃奈美 主任主事
2024年10月
目次
1.はじめに
2.計画策定のプロセス
3.計画改定のポイント
4.おわりに
1.はじめに
廿日市市では、「廿日市市地域防災計画(平成27年度)」及び「災害廃棄物対策指針(平成26年3月)」(環境省)に基づき、平成28年3月に「廿日市市災害廃棄物処理基本計画」を策定しました。その後、平成30年3月「災害廃棄物対策指針」の改定、「中国ブロック災害廃棄物対策行動計画」等の策定に伴い、地域防災計画の改定をしました。
各種計画や指針の改定に加え、近年の局地的な大雨や台風の襲来等による風水害及びその処分に困難を来している現状を受け、災害により発生した廃棄物の迅速かつ円滑な処理や速やかな復旧・復興を進めることを目的に、「廿日市市災害廃棄物処理計画」を改定することとしました。本計画は、南海トラフ巨大地震やどこでも起こりうる直下の地震災害、風水害等の比較的頻発する局地災害による被害を想定することで、本市の災害対応力を向上させ、市民の生活環境の保全に資する計画を目指しました。
2.計画策定のプロセス
本市は、令和4年度に環境省の「災害廃棄物処理計画改定モデル事業」に採択され、「災害廃棄物処理計画改定骨子(案)」を作成しています。
計画の改定にあたり、モデル事業の受託者であり、関係者との意見交換会や仮置場候補地の現地調査等を実施し、本市の状況や現行災害廃棄物処理計画の改定すべき事項を熟知している株式会社東和テクノロジーに計画改定の業務委託をしました。
令和4年 | 災害廃棄物処理計画改定骨子(案)作成(災害廃棄物処理計画改定モデル事業) |
令和5年4月 |
災害廃棄物処理計画改定業務契約 |
関連計画、近年の災害情報等の整理 | |
5月~ | 仮置場候補地の選定・視察 |
7月 |
令和5年度災害廃棄物処理計画改定に係る第1回意見交換会 ・環境省から災害廃棄物処理計画の必要性についての説明 |
10月 |
令和5年度災害廃棄物処理計画改定に係る第2回意見交換会 ・仮置場候補地に関する追加情報の共有 ・災害廃棄物の発生量推計の考え方について説明 |
初動マニュアル(案)の作成 | |
11月 | 災害廃棄物の発生量推計 |
市民周知用(平時・有事)のチラシの作成 | |
12月 | 市民周知用(平時・有事)のチラシの作成 |
令和6年1月 |
令和5年度災害廃棄物処理計画改定に係る第3回意見交換会 ・廿日市市災害廃棄物処理計画改定(案)について ・廿日市市災害廃棄物処理業務対応マニュアル(案)について |
3月 |
計画改定 |
※ 令和5年度災害廃棄物処理計画改定に係る意見交換会(構成メンバー)
広島県環境県民局循環型社会課、一般社団法人広島県資源循環協会 専務理事、廿日市市(循環型社会推進課、危機管理課、建設総務課、維持管理課、公共施設マネジメント課、農林水産課、地域振興課、健康福祉総務課)
図1 仮置場候補地の視察 図2 意見交換会
3.計画策定のポイント
(1)災害廃棄物の発生量推計
本市の想定災害である「南海トラフ巨大地震」「どこでも起こりうる直下の地震」及び水害(台風・高潮)により発生する災害廃棄物発生量、避難所で発生するごみの量、市内で必要となるし尿収集量及び仮設トイレ必要基数を、廿日市市地域防災計画の想定被害数をもとに災害廃棄物対策指針(環境省)で示された計算方法を用いて推計しました。
(2)仮置場候補地の選定
災害廃棄物の仮置場の選定に際しては、3,000平方メートル以上ある市有地に候補を絞り、現地調査を実施しました。周辺に民家や学校がないか、路盤や搬入路の整備に問題がないか等の確認や、地域防災計画上で応急仮設住宅の建設地や避難所として指定されていないかの確認など選定において配慮が必要な点が多くありました。
また、候補地の大半がグラウンドや公園であることから、所管課との調整に相応の時間を要しました。
さらに、有事の際スムーズに設営できるよう、候補地の中でも特に汎用性の高い場所については、仮置場としてのレイアウト及び分別配置も作成しました。
図3 仮置場レイアウト(例)
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(3)内部組織及び公的機関との連携・協力体制の確認
災害発生時、本市では、地域防災計画に基づき災害対策本部を設置し、廃棄物対策本部が立上がります。災害廃棄物処理にあたっては、他所属と連携し対応するために、計画に各担当者の役割を明確に示すとともに、意見交換会においても関係所属と情報共有を図りました。
図4 内部組織体制(例)
また、本市が被災した場合の災害廃棄物処理に関する公的機関や民間団体等との連携・協力体制については、現在締結している協定の内容や、「D.Waste-Net」「災害廃棄物処理支援員制度(人材バンク)」の活用方法等を計画本編に記載し、初動マニュアルには、県内市町の連絡先や一般廃棄物収集運搬許可業者等の連絡先を整理し、表にまとめました。
(4)初動マニュアルの作成
災害発生初動期の適確な対応が、その後の災害廃棄物処理の難易度を大きく左右することから、広島県内の自治体が過去に経験した被災事例の課題等を踏まえ、計画本編を補完し、発災後最初の1ヵ月間(初動期)における職員の具体的な業務を示す別冊のマニュアルを作成しました。また、有事の際、職員が持ち歩き、各フェーズで必要となる動きを都度確認するためのA3用紙表裏のタイムラインも併せて作成しました。
(5)フォーマットの作成
有事の際は、災害廃棄物の処理に係る各種業務委託を早急に締結する必要があるため、災害廃棄物の収集運搬や仮置場の管理運営・撤去業務を締結するための仕様書のフォーマットを作成しました。
また、平時及び有事の際に市民に対して配布する災害時のごみの出し方ガイドブックを作成しました。
図6 災害時のごみの出し方ガイドブック
さらに、「災害廃棄物処理事業費補助金」の活用を図る前提で、発災直後から被災状況を記録しておくための様式も作成しました。
4.おわりに
災害廃棄物の処理は、被災からの復興・復旧において極めて重要なテーマです。近年発生した大災害による被害を見ても、計画をより実効性の高いものとすることが必要不可欠であると感じます。この度の改定で、計画本編とは別に、計画概要版、初動マニュアル、初動期のタイムラインを作成するとともに、過去の災害において得られた課題と教訓をまとめた初動マニュアル別冊を作成しました。
これらの資料について、有事の際に内容をひとつひとつ確認する時間があるのかと言えば、おそらく目の前の事務処理で手一杯、見る余裕はないというのが現実なのではないかと思います。計画の策定や定期的な見直しはもちろんのこと、平時から行政、事業者、市民がそれぞれ危機感を持ち、有事の際にどのように考え・動き、連携するのかを確認しておくことが重要だと考えます。