災害時の対応を知るPost-disaster actions 災害時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

被災地の移動・運搬を支えるカーシェアリング

災害廃棄物情報プラットフォーム編集部

応対者:一般社団法人日本カーシェアリング協会 ソーシャル・カーサポート事業部
     事業部長 石渡賢大氏 星 雅之氏

 

一般社団法人日本カーシェアリング協会

日本カーシェアリング協会_サムネ

2024年6月

目次

はじめに

1.日本カーシェアリングの仕組・取組について

2.災害時の実績について

3.災害への備え、今後の課題や取組について

4.日本カーシェアリング協会の展望

はじめに

 生活に不可欠な自動車が被災すると、被災者は買い物、通勤、通院といった日常の移動や、役場での罹災手続きのための移動、災害ごみの運搬などに大きな支障が生じます。(一社)日本カーシェアリング協会(Japan Car Sharing Association:JCSA)の石渡さんと星さんに被災者の移動の課題解決の取組について、オンラインでお話を伺いました。

日本カーシェアリング_01

日本カーシェアリング協会 石渡さん

日本カーシェアリング協会_02

日本カーシェアリング協会 星さん

 

1.日本カーシェアリング協会の仕組・取組について

 Q 協会発足の経緯について教えてください。

  • 東日本大震災で宮城県石巻市は、津波によって自動車約6万台が被害を受け、多くの住民が移動に苦労していました。協会代表の吉澤の師匠にあたる阪神淡路大震災の経験者から、仮設住宅に車を届けてカーシェアリングできれば助かる人が多いと提案があり、カーシェアリングを実施することとなりました。開始当時は今ほどメジャーではなかった“カーシェアリング”という単語を法人名につけましたが、民間のレンタカー会社、カーシェア業界とは関係ない市民活動団体です。

 Q 災害時の被災者支援の仕組についておしえてください。

  • 個人や法人から寄付された自動車を、災害時に被災者に無償で貸出す仕組ですが、寄付された車両の所有者を当協会に名義変更して自動車保険に加入し、協会の責任のもとに貸出すことで被災者に費用負担はありません。活動に必要な財源は、日本財団や共同募金会、ジャパン・プラットフォームなどの災害時の助成金を活用し、また、個人・法人からの寄付、協会で実施している平時の事業収益等で賄っています。関係者は多様で、それぞれの役割は

日本カーシェアリング協会_03   個人:自動車の寄付、寄付金、被災地まで自動車を運搬するボランティアなど
   法人:自動車の寄付や寄付金の他、自社製品や整備・修理技術の協賛、拠点の提供や広
      報などリソースの提供
   行政:カーシェアリングの地域拠点となる場所の提供と被災された方への広報、関わり
      のある団体(自動車業界など)への声掛けなどであり、各々に支えていただいて
      います。

   行政からみると自動車は私有財産のため関与しづらく、そのため、当協会によるカー   出典:日本カーシェアリング協会SNS
   シェアリングへの期待はかなり大きいと受け止めています。                    

2.災害時の実績について

 Q 令和6年能登半島地震の被災者支援の実績についておしえてください。

  • 能登半島地震は単一の災害対応としては、実績が最も多く、昨年度1年間の台数をはるかに超えました。これまで災害では県に拠点1か所でしたが、能登半島地震では被害地域が広く、公共交通機関が少ないことから、まず七尾市に拠点を置き、その後拠点を9か所まで増やして、現場のニーズに細かく対応することができました。能登半島へ運んだ車両台数は370台、延べ貸出総数は1,655台と、単一の災害では過去最大の実績となりました(令和6年5月1日時点)。
  • 令和5年から拠点の設置期間を発災からおよそ5か月に設定していますが、能登半島地震の場合はその期間では足りないと想定し、1月18日から開始して、7月31日まで無料で貸出しすることを公表しています(令和6年5月現在)。現場の状況によって支援期間延長の可能性がありますが、別途、夏の災害も想定しながら、動いています。
  • 能登半島地震では、当協会のカーシェアリングについて石川県と被災市から広報いただき、また、マスメディアの関心、世の中の関心が高くなっていろいろな形で周知できたことで実績が多くなったと思います。
  • 通常の災害では被災者を優先して利用していただいていますが、能登半島地震では家屋復旧や医療、看護などの様々な支援団体にも利用していただきました。ボランティアセンターには41台(令和6年5月1日時点)を貸出しています。
日本カーシェアリング協会_05

能登半島地震用チラシ

 Q 他の自然災害での実績についてもおしえてください。

  • 2014年頃の災害対応は年1拠点ほどでしたが、2020年以降は災害が頻発し、2023年は10拠点ほど設置しており、災害はいつどこで起こるかわからない状況になっています。
  • 災害時の廃棄物の回収は自治体によって異なり、現場を見ていてスムーズだなと感じたのは、家の前に個別に排出されたものを、トラックで回収していくパターンです。戸別回収であれば、稼働する軽トラの台数も少なくて済み、仮置場での渋滞が発生しづらかったようです。このことから、たとえば当協会がボランティアセンターに軽トラを貸出して、ボランティアが回収して回るといった効率の良いオペレーションができるとよいのではと思います。

 Q 災害時に大切にしていること、気を付けていることはありますか。

  • 被災者の方は大変な思いをされている中、車の貸出しを受けることで前を向いて行動しようとされている、ということを心にとめて建設的に様々な関係団体の方と対応しています。
  • 代表はよく私たちに「まず動く。動かなければ見えないものがある。」と言っています。そのため、実際に動きながら考え、人と会って話し合いながら物事を進めています。また、車に関する仕事のため、車検など安全には落ち度がないようにしています。

 Q 利用者の反応はいかがでしょうか。

  • 「助かります」と一番に声をいただき、車を借りられたときのほっとした表情や安心した顔は活動の励みになります。高齢の方が被災し、テレビを抱えて集積所へ持っていくこともあり、被災直後の絶望感から、移動手段を手に入れることで解決できることもある、車があることで片付けも進めることができると感謝され、こういったお話を聞くと、協会の活動が役立っていることを実感します。
  • また、車を提供してくださる方は、車をさすって子供を送り出す親のような気持ちでいてくださり、双方のやりとりに携わることで大いにやりがいを感じています。

<災害でクルマを被災された方々の言葉>

日本カーシェアリングHP

日本カーシェアリング公式Youtube「災害でクルマを被災された方々の言葉」

3.災害への備え、今後の課題や取組について

 Q 自治体との協定締結を進めているようですが、そのメリットはどのようなことでしょうか。

  • 都道府県との協定締結を積極的に進めているところです。協定を締結することで、発災時に連絡窓口が決まり、そして都道府県から市町村へ速やかに連絡がいくことで、当協会は、利用者がアクセスしやすく複数台を置ける支援拠点を提供いただくことができ、スムーズな対応が可能となります。災害に見舞われて初めて連絡するのでは、あなたはいったい誰?ということになり、拠点づくりに時間がかかってしまいます。
  • すでに宮城県と福島県と協定締結済みでしたので、令和4年に災害が発生した際には、スムーズに対応できました。

 Q 災害への備えとして、協定締結以外に自治体にお願いしたいことがあればおしえてください。

  • 3点お伝えしたいと思います。

 (1)被災家屋の棟数は必ず把握されていますが、車の被災台数は正確に把握できていません。多くの方が車を失って困っていてもその被害の大きさが知られていません。罹災証明申請時に自動車の被災についても聞き取りしていただくことで問題が可視化され、支援もスムーズになると考えています。

 (2)「災害対応人材BANK」は、被災地の拠点で臨時スタッフとして働いていただける方を事前に登録いただいているもので、現在全国で86名います。そのうち15名の方は居住地付近が被災したため、現地拠点の運営業務に携わっていただきました。地域の防災力の向上のために、自治体から「災害対応人材BANK」への登録の呼びかけをしていただけるとありがたいです。

 (3)当協会に「災害時返却カーリース」という事業があります。これは、平常時に自動車を月額11,000円(税込み)で安く使うことができ、災害時には返却いただき、被災者が利用するというフェーズフリーの仕組となっています。当協会が数百台の車を災害時用にキープしておくには相当の維持費がかかり、バッテリーもあがってしまいます。自治体にも公用車として借りていただいています(福島県、佐賀県嬉野市)。全国の基礎自治体に1台ずつ「災害時返却カーリース」を利用いただければ、約1,000台を被災地へ派遣できます。市民にも協力いただき地域で備えようといったメッセージを行政から出していただければ、ありがたいです。

日本カーシェアリング協会_04

災害時返却カーリース

 

<災害時返却カーリースの詳細はこちらから>

日本カーシェアリングHP「災害時返却カーリース」

4.日本カーシェアリング協会の展望

 Q 日本カーシェアリング協会の展望など教えてください

 

  • 東日本大震災後の仮設住宅では仮設住宅に車をシェアする仕組みは、コミュニティ・カーシェアリングと呼び、被災地のコミュニティ形成や移動の課題解決に寄与してきました。この仕組みは石巻の仮設住宅から復興公営住宅にも導入され、今では国内の中山間地域の課題解決の仕組みとして活用されています。これまでお話してきた車の無償貸出支援だけではなく、コミュニティ・カーシェアリングも平時、災害時に助け合える仕組みとして広げていきたいと思っています。
  • 自動車にかかる税金は非常に高く、社会福祉法人の福祉事業においては免税措置があるようですが、一般社団法人は、車の使途は公益性があっても免税になりません。維持費が極めて高いため、本来市民活動でできるものではなく、プレイヤーが当協会以外に育っていない状況です。負担感が軽減できれば、各地で車に関する支援団体ができて、災害に強くなっていくのではないかと思います。

 

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