災害廃棄物情報プラットフォーム編集部
2024年3月
目次
1.災害廃棄物情報交換会について
災害廃棄物対策の取組みやアイディアを共有しつつ、関係団体同士の緩やかなつながりを作っていくために、国立環境研究所では「災害廃棄物情報交換会」を開催しています。令和5年度は、「地区集積所の適正な運用に向けて」をテーマとして、第2回はワークショップ形式で意見交換を行いました。また、令和6年能登半島地震に関する情報共有を行いました。
災害廃棄物情報交換会(令和5年度第2回) | |
---|---|
日時 | 令和6年1月18日(火曜日)13:30~17:00 |
場所 | 廃棄物・3R研究財団会議室 webハイブリッド開催 |
出席者 (敬称略) |
(座長)鈴木 慎也 福岡大学工学部社会デザイン工学科水理衛生工学実験室 准教授 岩嵜 享史 京都府宇治市 まち美化推進課ふれあい啓発係 主任 大瀧 慎也 岡山県倉敷市 環境リサイクル局リサイクル推進部 副参事(兼)一般廃棄物対策課長事務取扱 河野 賢史 宮崎県延岡市 市民環境部資源対策課 総括主任 瀬古 智秀 三重県南伊勢町 環境生活課 課長 堂坂 高弘 熊本県人吉市 市民部環境課 主幹 (オブザーバー) 荒井 昌典 神奈川県横浜市 資源循環局 適正処理計画部施設課 課長 井平 達也 和歌山県 環境生活部循環型社会推進課 副主査 河原 隆 岡山県総社市 選挙管理委員会 事務局長 鈴木 雄一 宮城県東松島市産業部商工観光課 課長補佐 半澤 大 千葉県館山市建設環境部環境課 係長 村野 陽子 (公財)ふくおか環境財団総務部 総務課
国立環境研究所 |
議事 |
・能登半島地震に関する情報共有 ・ワークショップ「地区集積所の適正な運用に向けて」 ・全体共有・総合討論 |
2.能登半島地震に関する情報共有
国環研:現在(1月16日7時時点)の被災状況、環境省の取組について報告し、国環研の取組について説明した。取組の概要は下記のとおり。
・国環研から、情報プラットフォームで公開されている関連情報を環境省や関係者と共有した。
・D.Waste-Net関係者とメールで情報共有しているほか、国環研から中能登町を中心とした現地支援を予定している。
・発生量推計について、内閣府ISUTサイトの住家被害棟数推計値を用いて、過去の災害廃棄物のデータから統計的に解析している。
大瀧(倉敷市):環境省人材バンクの要請により七尾市へ1月5日から10日(実質6日~9日の4日間)支援を行なった。概要は下記のとおり。
・地震は水害とは様相が大きく異なり、現時点では道路上に片付けごみはほとんどなく、代わりに家屋倒壊による廃棄物が道路上を占拠していた。
・焼却施設は冷却水が確保できず停止、埋立処分場は土砂崩れで使用できない状況。七尾市では衛生廃棄物(し尿を45リットル袋に新聞紙を入れたもの)をごみピットに入れている。それ以外の生活ごみ・資源物の収集を止めていた。
・仮置場の設置も並行して進めており、産資協がレイアウトを作り、現地でそれを基に打ち合わせを行い12日から開設した。能登半島南側は仮置場が設置できている。穴水町は18日から、輪島市は仙台市が現地支援し仮置場を造成中と聞いている。
・倒壊家屋が多いため公費解体の支援要望があり、予告広報の文章(案文)を提供した。この結果、10日から広報が開始されている。公費解体の詳細は県が調整しており予告広報によって被災者の安心の醸成と悪徳業者への対策が講じられている。
・仮設トイレが足りていない。自宅避難の人も夜間に避難所のトイレを利用することから、朝には満杯になるため、夕方に汲み取りをして夜間に使えるような対策がとられている。仮設トイレは暗くて使いにくく危険で不衛生であった。簡易トイレをごみ箱に溜め置いていることも不衛生であった。断水の影響により大きな問題になることを実感した。
・現地支援後、職場で遠隔により公費解体に関する支援を行っている。人材バンクによる支援も続いて入っているため、今後も連携していきたい。
<質疑応答>
質問:簡易トイレの収集はパッカー車で行ったか。
回答:袋に穴をあけないように平ボディで気を付けて収集されていた。
質問:道路の損壊状況は、収集運搬に支障がない程度だったか。
回答:道路は崩れている箇所はあるが道路啓開も進んでいた。倒壊した家屋が道路を塞いでいる箇所について、どの補助金メニューを活用するか、家屋の公費解体と倒壊した家屋の撤去の単価が異なるためどうするか、支援チームが相談に乗っている。
輪島市の仮置場は、個人持ち込みでなく、業者が市内から収集するスキームを予定している。穴水町は、5種分別として可燃、不燃、金属、処理困難物、特定家電で進める考えと聞いている。
質問:人材バンクの支援者は、宿泊先の手配はどうしたか。
回答:金沢に宿泊し七尾市へ毎日車で2時間かけて移動した。奥能登(半島の北の方)への支援者は寝袋持参で役場の会議室等に寝泊まりしているようだ。
質問:県のリーダーシップはどうか。
回答:環境省支援チームが県庁に設置されている。七尾市の場合、環境省支援チームのほか、県職員の派遣が8日から行われ情報共有できるようになっている。
質問:県が処理の標準単価を示すとスムーズにいくと思うがどのような状況か。
回答:環境省が支援に入っており、エリアごとに業者に見積もりを取って県統一単価が決められる予定であると聞いている。解体単価は高くなりそうである。
質問:人材バンクへの要請はどのような状況か。
回答:東京都、八王子市が発生量推計を行い共有している。LINE Worksでタイムリーに情報共有できて問合せもできるようになっている。
質問:仮置場の運営はどうしているか。
回答:七尾市は1月12日に開設した。当初は2時間待ちだったが、渋滞対策として曜日で持ち込む地域を分けたことから300~500台/日程度になり渋滞は解消された。まだボランティアが入っていないが、今後ボランティアの支援が始まると片付けごみが一気に出されると思われる。なお、解体廃棄物は仮置場に入れない方針となっている。
質問:県への事務委託の話はあるか。
回答:そのような話は聞いていない。公費解体の受付は市町村がやるが、公費解体が始まると多量に廃棄物が発生するため、県が産資協の処理能力を算定しているところである。
3.ワークショップ「地区集積所の適正な運用に向けて」の実施
(1)ワークショップの目的
災害時の片付けごみを一時的に集積する「地区集積所」は、広い仮置場用地が確保できない自治体や被災者の負担を軽減する目的で、街区公園等を片付けごみの仮置場として災害廃棄物処理計画に記載する自治体が増えています。しかし、これまでの災害で、ほとんどの地区集積所は混合廃棄物が山積みになり、問題となってきました。
そのため、地区集積所の設置の方針や、適正な運用の方策や平時の備え等、地区集積所の在り方についてガイドラインを作成するイメージで話し合いました。
(2)ワークショップの進め方
地区集積所の設置・運用の方針は、発災地域(都市部か地方か)と災害の種類(地震か水害か)によって異なると考えられます。このため、都市部で地震が発生した場合における地区集積所の設置・運用の在り方を議論するグループをAとし、同様に、都市部で水害が発生した場合のグループをB、地方で地震が発生した場合のグループをC、地方で水害が発生した場合のグループをDと、発災地域と災害の種類を変えたグループに分かれて議論をしました。
Aグループ 都市部で地震が発生 災害廃棄物860万トン【片付けごみ1万トン】
Bグループ 都市部で水害が発生 【片付けごみ1万トン】
Cグループ 地方で地震が発生 災害廃棄物16万トン【片付けごみ1万トン】
Dグループ 地方で水害が発生 災害廃棄物6万トン【片付けごみ1万トン】
都市部は川崎市内陸部、地方はつくば市を想定し、各グループとも片付けごみが1万トン発生する条件としました。
ワークショップは、(1)現実的なシナリオの検討、(2)理想的なシナリオの検討、(3)地区集積所のあり方の検討の順で進めました。地区集積所の設置を認めない場合はその要件や対応策を議論することとしました。
(3)発表・全体共有
4グループの議論内容と、グループ間の違いや共通点について、以下に整理します。
【共通点】
共通点としては、地区集積所運営を住民に任せるのであれば、平時に、住民への啓発、研修、訓練を行うことが欠かせない。また、地区集積所からの搬出体制を確保することが重要であり、平時に関係団体との協定締結、災害廃棄物処理計画の改定を行うこと、が挙げられました。
災害時には、どのグループも地区集積所の設置は住民の申請に基づいて認めることとなりました。発災初日は被害状況がよく把握できていないものの、仮置場設置の手配を開始する、地区集積所の設置手続き等について予告広報を行う等の初動対応が重要との認識で一致しました。
地区集積所は、住民自ら管理・コントロールできる地区であることや、仮置場が遠い地区、大型ごみの運搬が困難な地区に絞り込んで設置を認めるという方針があげられ、2トン車が入れる、重機を設置できる、4m道路に接道できる場所を認める、地区集積所を設置した後は、職員が巡回して搬出を進める等が挙げられました。
【都市部・地方の違い】
グループ間の違いとして、都市部か地方かという点で比較すると、都市部では、車両を所有していないか乗用車のため片付けごみの運搬が容易でなく、家の前や道路脇等に出される。住民による分別・管理を依頼するが、協力は得られにくい。そのため頻繁に搬出できることが必要といった意見がありました。
地方では、地震の場合は、地区集積所の管理を住民に依頼するのであれば、持ち込む品目を限定するという意見があった一方、水害では一気にごみが出てくるため、品目を制限することは困難であり、仮置場と地区集積所は同じ分別品目とするという意見がありました。
【災害種類による違い】
災害の種類に着目すると、地震の場合は、被害の小さい地域から片づけが始まり、行政は停電・断水による仮設トイレ・し尿対応が発災直後に必要になることが挙げられました。
水害の場合は、水が引くとすぐに片付けごみが家の前や道路脇に排出され、狭い地区集積所や公園、空地は発災2日後にはいっぱいになることから、水害では発災前に“予告広報”により、地区集積所や仮置場が設置されるまでごみを出さない、分別の協力を依頼することが大切とされました。
ワークショップで出た主な意見
【共通点】 ■平時 ・地区集積所運営を住民に任せるのであれば住民への啓発、研修、訓練を行う。 ・集合住宅は管理組合へ周知する。 ・災害ごみの分別、安全対策等の啓発を行う。地区集積所の機能を明確に伝える。 ・立て看板を自治会へ配布する。 ・退蔵品の削減対策を進める。 ・地区集積所からの搬出体制を確保するため、関係団体との協定締結、災害廃棄物処理計画の改定を行う。 |
■災害時 〇行政の初動対応 ・発災初日は被害状況がよく把握できていないが、仮置場設置の手配を開始する。 ・仮置場はすぐに開設できるよう駐車場を手配する。 ・災害廃棄物発生量推計を開始する。 ・予告広報を行う。広報はあらゆる手段を駆使する。 〇地区集積所の選定 ・住民がコントロール・管理できる地区や仮置場が遠い地区に絞り込んで認める。 ・車両を所有していない住民が多いか、乗用車で大型ごみを運搬できない地区で認める。 ・2トン車が入れる、重機を設置できる、4m道路に接道できる場所を認める。 〇地区集積所の運営 ・職員が地区集積所を巡回し、搬出を進める。頻繁に搬出する。 ・夜間の巡回を委託する。 ・小さい集積所が多いが仮置場へ搬出し、1か月くらいで小さい場所を減らしていく。 |
【Aグループ 都市部/地震】 | 【Cグループ 地方/地震】 |
・車両を所有していないか乗用車のため片付けごみの運搬が難しく家の前や道路脇等に出される。 ・有害・危険物を出さないよう広報する。 ・監視カメラを設置する。 ・行政が1日1回回収する。 |
・地区集積所に持ち込む品目を限定して住民が管理できるよう広報する。 |
<地震対応の特徴> ・被害の小さい地域から片づけが始まる。 ・リアカー、一輪車、車両等の運搬手段が必要。 ・行政は停電・断水による仮設トイレ・し尿対応が必要。 |
|
【Bグループ 都市部/水害】 | 【Dグループ 地方/水害】 |
・地区集積所で住民による分別・管理を依頼するが、強制できない。 ・行政が頻繁に搬出する。 |
・仮置場の分別品目と同様の分別を行うよう広報する。 |
<水害対応の特徴> ・水が引くとすぐに片付けごみが家の前や道路脇に排出される。 ・狭い地区集積所や公園、空地は2日後にいっぱいになる。 ・気象災害では発災前から予告広報を行う。 ・翌週末からボランティア活動が活発になってくる。 |
ワークショップの様子(1)
ワークショップの様子(2)
ワークショップの様子(3)
ワークショップの様子(4)
全体共有・総合討論の様子(1)
全体共有・総合討論の様子(2)
4.住民、民間事業者、ボランティアとの連携~地域集積所からの早期撤去を目指して~
(1)地区集積所の原型復旧について
質問:地区集積所とした公園等の土地の原型復旧は行政の責任で実施すべきか?
意見1:公共の土地を使った場合は、行政が原型復旧すべきと思う。社寺や私有地の土地所有者が勝手に使ってよいとした場合に、行政の費用を投入することには疑問が生じるため、ルール作りは必要。
意見2:当市はごみの収集はしたが、原型復旧しなかったし、やらない事例が多いと思う。
意見3:災害廃棄物処理計画に記載しているのであれば、ごみを撤去し、原型復旧すべきと思う。そうしないと街区公園は、子どもが遊んでガラスでケガした際に自治会が保証できるかという問題が出る可能性がある。
(2)住民による地区集積所の管理について
質問:地区集積所の管理を住民に依頼して、実際に自治会が担ってくれるか。
意見1:平成30年7月豪雨の経験から、普段から防災訓練を実施している地域やコミュニティがある地域ではできると思う。ある地区集積所では、消防団の方が畳はこっちへなど分別の案内もしていた。
意見2:都市部では自治会に任されても一部の人にしか理解されず、対応できると思えない。地区集積所になりうる街区公園も遠い住宅は多いため、家の前に出されると思う。
静岡市で広い場所が確保できた地区では住民同士で片付けごみをきちんと分別し管理ができていた。
質問:住民で管理できるできないのラインはどこにあるか。
意見:何丁目に住宅が何棟あるということはわかるため、被害想定を基に発生量原単位を掛ければ、被災した際の片付けごみ発生量が計算で把握でき、置場の必要面積もわかる。その結果が街区公園の広さと比較して、発生量に対して2割程度しかないのであれば、片付けごみを5回に分けて出していただき、5回収集にいけば対応できる、といった試算はできる。これを踏まえて破綻するエリアはどこかが把握できるはずである。
(3)地区集積所の受入れ品目について
質問:地区集積所で受け入れる品目を限定したグループと、一次仮置場と同じ品目・分別としたグループがあったが、その違いをどう考えればよいか。
意見1:住民が管理する場合、危険物が入ってきて問題が生じる可能性がある。住民が管理するには分別がわかりやすい品目が良いため、一次仮置場よりも判断しやすい品目に絞るのがいいと思う。地震の場合は、排出するスピードが早くないため、危険物は別途収集するなどコントロールできると思う。
意見2:平成30年7月豪雨では、周知や運搬のこともあり一次仮置場と地区集積所を同じ分別にした。被災地に専従の職員を配置していたことから、行政と住民のコミュニケーションがとれ、説明や周知ができる状況にあった。
意見3:水害で被災した住民から災害時に分別させるのはどうかと批判され、分別への反発があった。そのため経験上、品目を限定して、運搬先を変えることは難しく、地区集積所は一次仮置場と同じ分別品目になると思う。
意見4:市町村の考え方や、水害と地震とで対応が異なるということがわかった。
(4)発生量推計について
質問:発災後に災害廃棄物の発生量推計と実際の処理量の差が大きく、自治体が苦慮している。災害の実績も多くなっているところで、研究はどうなっているか。
意見1:環境省の指針技術資料が改定されたが、被害棟数に原単位を掛ける構図は変わっていない。災害の場所と様相によって異なる上に、必要な情報は発災後すぐには得られないため、時点ごとにどの推計方法を用いるか、変える必要がある。
意見2:災害時に市町村が環境省の指針技術資料を利用するには無理があり、和歌山県では災害廃棄物ブースターパックに県内市町村ごとの建物種類と延べ床面積を入れて使えるようにしている。ただし、環境省の発生原単位を用いた発生量が実態から乖離していることがあり、どの状況でどの原単位を用いるか整理に悩んでいるところ。
意見3:環境省が自治体へ災害廃棄物処理実績、解体棟数等のアンケートを実施し、その解析を行っている。ある程度精緻な推計ができることを期待して推計モデルを作っているが、小規模災害では誤差が大きいなど、地域の特徴を説明できる情報が存在しないため、現状では難しい感触がある。
5.まとめ
座長:頻発する水害への対応や、熊本地震と能登半島地震とでは対応にはっきりと違いがあり、地震では、まずし尿処理に取り組まなければならないなど重点課題が異なります。
災害廃棄物処理は大変と漠然と言っていましたが、地区集積所の議論を通じて次々と課題が出てきて、仮置場の論点、住民との協力体制の論点など具体的にして活発に議論を進められるようになってきました。都市部の地区集積所は、相対的に運営管理しにくい制約条件が多いですが、廃棄物資源循環学会九州支部が一般市民参加によるワークショップを開催し、住民との災害ごみと地区集積所について考え、協働に取組むなど今後も取組みが必要です。
能登半島地震の対応は、これからも課題や苦労は多く、協力してより良い体制を構築していければと思います。