愛知県「災害廃棄物処理スペシャリスト養成研修」
~Sai-haiを活用した人材育成~
愛知県環境局資源循環推進課
2024年3月
目次
2.グループ討議「Sai-haiの入力結果・課題解決策の共有」
はじめに
愛知県では、2016年10月に愛知県災害廃棄物処理計画を策定し、その後の災害廃棄物対応の知見の蓄積などを踏まえて、2022年1月に同計画を改定しました。この計画に基づき2016年からは毎年、市町村の災害対応力の向上や関係団体等との連携強化に向けて研修や図上演習を実施しています。
2023年度は、災害廃棄物処理のマネジメント人材の育成を目指した「災害廃棄物処理スペシャリスト養成研修」において、国立環境研究所が開発した災害廃棄物対策マネジメントツール「Sai-hai」を用いた2日間のプログラムを実施しました。
1.実施概要
Sai-haiは、市町村が災害廃棄物対策を効果的に進めるためのツールであり、組織の廃棄物処理システムがどの観点で災害に強いか、弱いかを評価することができます。災害廃棄物処理の初動期に着目して5つの目標と145の設問および「評価の視点」に災害廃棄物処理業務のポイントが記載されており、これらを読むことで知識が習得でき、災害廃棄物対策の全体像の理解につながります。また、災害廃棄物処理計画の実効性を確認するツールとなります。
本研修では、各参加者に研修前にSai-haiを使って所属する自治体の評価を行っていただきました。1日目は、国立環境研究所の多島主任研究員から「災害廃棄物対策マネジメント」の講義を受けた後、Sai-hai入力結果を用いたグループ討議を行いました。2日目はグループ討議の続きを行い、ここでの学びを踏まえて、各参加者が「改善計画書」を作成しました。
表1 スペシャリスト養成研修の実施概要
1日目 | 2日目 | |
日時 | 2023年9月13日(水曜日)13:00~16:40 | 2023年10月17日(火曜日)13:00~16:40 |
参加者 | 第1日、第2日共通 36名(市町村職員29名・一部事務組合職員2名・県職員5名) | |
主なプログラム |
【座学】災害廃棄物対策マネジメント 【グループ討議】Sai-hai入力結果・課題解決策の共有 【全体共有】 |
【グループ討議】Sai-hai入力結果・課題解決策の共有(第1日の続き) 【解説】Sai-hai評価結果のまとめ 【個人ワーク】改善計画書の作成 |
2.グループ討議「Sai-haiの入力結果・課題解決策の共有」
事前に入力したSai-haiの評価結果をグループごとにモニターに映しながら、評価の視点、根拠、評定の基準等について参加者同士で共有し、意見交換を行いました。また、グループ討議の終了後、多島氏から参加自治体全体のSai-haiの自己評価結果に対する分析結果を解説いただきました。以下に主な意見や気づき、グッドプラクティス(☆印)をご紹介します。
6グループに分かれて討議
評価結果を共有
【目標1:廃棄物処理システムへの影響を最小化する】
・一般廃棄物処理施設は必ずしも安全な場所に立地しているわけではなく、連携や備えが必要。
・施設の被災状況などは誰に確認すればいいか,平時から整理しておきたい。
・焼却炉などの設備が停止した際に、貯留ピットには何日分の容量があるかという視点も持つ。
・民間廃棄物処理業者の車両基地なども把握しておくとよい。
【目標2:災害廃棄物処理に必要な資源を確保する】
・災害廃棄物発生量推計に対して仮置場面積が全く足りない。仮置場からの搬出・処理を進めて面積が足りるようにマネジメントすることが大切。
・協定の締結状況を再確認し,その具体的な内容や発動する際の段取り等を確認しておく。
・Sai-haiの入力は災害廃棄物処理計画を見ればできるが、現場を見に行ってないとか、道が分からない等実態の分析ができていないことを認識した。
・大規模災害の際には近隣市と支援をし合えないため、遠方の自治体との協定も必要。
・写真撮影が発災直後から必要であることなど、補助金に対する知識を知っておくことが必要。
☆被災経験を踏まえて、仮置場の場所とレイアウトを住民と相談した。
【目標3:被災状況に応じて計画的に災害廃棄物に対応できる】
・一般廃棄物処理施設を新設したが、災害廃棄物処理計画が古くて実態と乖離してしまった。
・仮置場として総務部局に町有地をリストアップしてもらった上で、防災部局との調整を行う。
・役割分担は決まっているが、“指揮を誰がとるか”などまでは具体的に決まっていない。
【目標4:市民の災害廃棄物対応力を高める】
・ボランティアへどうやって分別を周知するか。発災時にすぐ対応できるよう準備が必要。
・消防団が充実しているため、発災時に連携する。
☆被災経験を踏まえて、市内の自治会と意見交換を計画している。
☆市民から仮置場候補地を募集している。
【目標5:脆弱性を克服できる環境をつくる】
・災害を経験していない自治体では、災害廃棄物処理計画が風化してしまう。
・政令指定都市・中核市は、地域ブロック協議会や自前の研修で大学、中部地方環境事務所と直接話しをする機会があるが、その他の市町村等では県の研修しか学ぶ機会がない。
・小規模自治体では災害廃棄物担当が兼務となり、研修に参加する時間が割けない。県内の地域ごとに研修があると参加しやすい。
【多島主任研究員の解説】
・Sai-haiの入力結果のまとめを見ることで、県全体での弱点を知る、各自治体個別の弱みを見ることができる。全体として、「施設の被害最小化」の評価点が高かった一方で、「市民の災害対応力」を不安に思っていることが見て取れる。
・「目標1:処理システムへの影響の最小化」では「施設の自立稼働力」の評価がやや低い。薬品、電気、インフラが途絶した場合にソフト的な対応をどうするかがポイントになる。
・「目標2:資源確保」では「緊急財源の確保」が低い。当面の財源をどうするかという想定がなかったかもしれないが、国庫補助金はすぐに入ってこないため、これを機に確認していただきたい。また、「受援」に関わる評価が低いが、災害時に自分達だけで頑張ろうとすると手間取ることが多いため、自分たちでやるべきことと支援を受けることをしっかり考えておくとよい。
・「目標3:被災状況に応じた計画的な対応」は、自らの自治体で出てくる災害廃棄物の特徴を改めて確認する必要がある。
・「目標4:市民の災害対応力」は全体的に取組が少なく評価が低い。しかし、「地域の助け合い」については比較的評価が高く、平時の準備をしておけば住民やボランティアとの連携に希望が持てる。
・「目標5:脆弱性を克服する環境づくり」では、ごみ処理基本計画の中に災害廃棄物が位置付けられているということが重要であることを認識してほしい。強靭化、脱炭素、人口減少、高齢化といった社会変化に対応できるごみ処理システムを普段から構築することが、災害廃棄物対策にもつながる。「受援」については、支援者に何を依頼するかを整理したうえで、ロジスティック面での対応(燃料確保、宿泊先・駐車場・洗車場の確保など)を考えて備え、スムーズな受援につなげたい。
3.個人ワーク「改善計画書の作成」
Sai-haiやグループ討議での気づきを踏まえて、各参加者が「改善計画ワークシート」を作成しました。ワークシートには「目的・クリアしたい課題」「対策・連携相手」「到達目標」「意気込み」を記入し、その内容をグループ内で共有しました。この作業を通じて、各自治体や県が今後フォローすべき事項を把握することができたと思います。以下に主な課題等をご紹介します。
〇住民等との連携
・住民、社会福祉協議会、関係部局等との定期的な協議の場を設置する。
・自治会長と意見交換を行い、住民に周知する流れについて検討する。
・住民に災害時のごみ対応について周知する。
〇受援・処理体制の強化
・仮置場運営における受援内容(支援団体に協力依頼する事項)を整理する。
・支援団体、連携先の連絡先を整理する。
・民間廃棄物処理業者の処理品目を確認する。
〇計画の実効性の確保
・一般廃棄物処理施設のBCPを策定する。
・災害廃棄物処理計画の実効性向上を目指した改定を行う。
・災害時の特例法令を確認する。
・国庫補助金について学ぶ。
〇知見・経験の継承
・ノウハウを継承できるよう、課内の体制を確認し、異動に備えた情報整理を行う。
・課内での共通認識の形成、役割分担の確認を行う。
・災害担当以外の職員も、研修や被災地の仮置場視察等に参加する。
・業務の中で災害廃棄物対応の時間を確保する。
4.本研修の実施効果(事前・中間・事後アンケート)
Sai-hai入力前(事前)、入力後(中間)、研修終了1週間後(事後)の3回、研修参加者にアンケートを実施しました。結果は図1及び表2のとおりです。表2では、各選択肢に1点から5点までの評価点を付与し、平均値を示しています。設問1から設問7までは主に災害廃棄物に関する理解度を評価するものですが、全ての項目について研修を重ねるごとに肯定的な回答が顕著に多くなりました。Sai-haiを利用することで理解が高まったこと、また集合研修において理解が高まったことが確認できました。
一方、設問8及び設問9は災害廃棄物対策の重要性認識に関する項目ですが、事前段階から肯定的な回答がほとんどであり、研修前後での変化はわずかでした。研修に参加する時点で重要性は十分に認識されているものの、所属組織での日常業務に追われる中で、十分に災害廃棄物に取り組むことが難しい状況がうかがわれます。
図1 事前・中間・事後アンケート結果(回答者:市町村職員29名)
表2 事前・中間・事後アンケート平均値の変化(回答者:市町村職員29名)
設問 | 事前 | 研修前 | 事後 |
1災害廃棄物の処理業務の全体像を理解している |
2.2 |
2.3 |
3.5 |
2平時から進めるべき災害廃棄物対策の全体像を理解している |
2.1 |
2.3 |
3.5 |
3災害廃棄物の処理に必要となる物資、場所(仮置場、集積所等)を理解している |
2.3 |
2.7 |
3.8 |
4災害廃棄物の処理における、住民との接点を理解している |
2.1 |
2.7 |
3.5 |
5災害によって、廃棄物処理施設がどのような影響を受けるか理解している |
2.2 |
2.8 |
3.9 |
6自分の自治体でまだ足りていない災害廃棄物対策を理解している |
2.1 |
2.9 |
3.4 |
7これから取り組むべき災害廃棄物対策が概ね想定できている |
2.1 |
2.7 |
3.4 |
8他の業務と比べて、災害廃棄物の処理に向けた準備は重要度が高いと思う |
3.9 |
3.6 |
4.1 |
9災害廃棄物処理に向けて、平時から準備することに時間を割くべきと思う |
4.0 |
4.0 |
4.5 |
5.今後の人材育成について
本県では、市町村や一部事務組合職員を主な対象として災害廃棄物処理の基礎研修、本稿のスペシャリスト養成研修、さらに図上演習を毎年度実施し、災害対応力の向上を図っています。日常業務に忙殺されている市町村等の担当者にとっては、災害廃棄物対策に十分な時間を割くことが難しいのが実情のようです。複数回の研修を実施することによって、担当者が定期的に災害廃棄物と向き合う機会となるのであれば、それ自体にも大きな意義があると考えています。
したがって、全ての自治体に研修に参加していただけるよう、研修内容もマンネリ化を避けて、魅力的なプログラムを工夫していくことが重要です。Sai-haiや関連する技術資料などをうまく活用できるよう、本県では引き続き各自治体への情報提供や技術的なサポートとなるような効果的な研修プログラムを実施していきたいと考えています。