(取材・執筆:公益財団法人廃棄物・3R研究財団 中山育美氏)
2023年3月
目次
1.住民による仮置場選定と自主運営の話し合い
背景
三重県南伊勢町は、紀伊半島東部沿岸に位置し、南側にリアス式の海岸を有しています。町へのアクセス道路は国道260号線と県道22号線に限られ、大規模災害時に他地域から支援者が来にくいことから、自分たちで災害対応に取り組まないとならない土地柄です。
また、南伊勢町職員が令和元年東日本台風で被災した長野市へ災害廃棄物処理の支援に行き、復旧の第1歩が被災した家財の片付けであり、地域住民を含めて南伊勢町ではどうやって、ごみを排出し分別するかを考える必要性を強く感じたことから、仮置場選定や図上訓練の取り組みにつながりました。
住民との仮置場選定・運営の話し合い及び図上訓練はそれぞれ令和2年度及び令和4年度に開催されました。
住民による仮置場選定
一次仮置場を決めるため令和元年5月に地域の区長や自主防災隊長が参加し、災害廃棄物協定を締結した民間業者を講師とした勉強会を行った後、地区ごとに住民が仮置場候補地を選定しました。
仮置場の自主的な運営に関する話し合い
図上訓練に先立ち、仮置場候補地で住民が自分たちで受付や分別のレイアウトなど、仮置場を運営する方法について地図やカードを用いて話し合い、意見を共有しました。
仮置場の分別・運営のワークショップ
発表・共有
2.災害廃棄物の図上訓練
目的
令和2年6月に災害廃棄物初動対応マニュアルを策定し、その検証を目的として令和2年8月に図上訓練を実施しました。初動期の庁内各部署の連携とともに、住民、災害ボランティアセンター、民間業者の組合・協議会等との連携を確認しました。
令和5年2月に開催した図上訓練は、巨大地震と津波により町へのアクセス道路が分断された想定でオンライン会議システムや災害対応システムを使用し、リモートで関係機関との情報共有を確認し、道路啓開後に関係機関による災害廃棄物処理の連携体制構築と対処方法を考えることを目的として実施しました。
南伊勢町初動対応マニュアル
図上訓練の開催概要
開催日時:令和5年2月11日(土曜日)午前9時~12時
開催場所:南伊勢ワークスペース(モバイルハウス)、南伊勢町地域連携棟
参加者:
<南伊勢町>町長、副町長、防災安全課長、建設課長、環境生活課長、クリーンセンター長及び各課職員 計約15名
<関係機関>環境省、中部地方環境事務所、自衛隊、県廃棄物・リサイクル課、県出先機関、隣接町、建設業協会、一般廃棄物収集運搬業組合、産業廃棄物協会、船越地区防災会、社会福祉協議会 計約40名
<訓練サポート等>学識経験者、NPO、公益財団法人 計6名
図上訓練の進行
1)訓練開始 (発災4日後) |
巨大地震及び津波による災害情報の確認 (町と関係機関が離れた場所でリモートにより情報共有) |
(南伊勢ワークスペースから南伊勢町地域連携棟へ関係機関の全員が移動) | |
2)町の方針 | 町長による方針説明 |
3)被害状況の共有 | 被害報第5報の説明 |
4)状況付与と対応 |
各関係機関への状況付与と南伊勢町との災害応急対策の実施 地図上での情報共有 |
5)訓練終了 | 住民や参加15機関からのコメント |
6)講評 7)町長挨拶 |
町長の挨拶
担当職員による進行
主な状況付与と対応
プレイヤー | 主な状況付与(◆)と対応(▽) |
---|---|
住民 |
◆災害発生後片付けが始まった |
災害ボランティアセンター (社会福祉協議会) |
◆ボランティアセンターの開設、ボランティアの受入れ・派遣をお願いしたい ◆ボランティアのための風呂はないか |
隣接町 | ◆事務職員が不足している。応援していただきたい |
県 | ◆協定に基づき災害廃棄物処理支援をお願いしたい ◆協定に基づき生活ごみ、し尿収集をお願いしたい |
建設業協会 | ◆がれきの撤去をお願いしたい |
産業廃棄物協会 | ◆食品会社冷凍庫が被災し多量の魚の処理をお願いしたい ▽臭気を考慮した容器・運搬方法、処理方法、人員と費用、日数について町と協議 ◆災害廃棄物の一次仮置場からの搬出、二次仮置場の運営、処理を依頼 ◆処理期間、費用見積りを依頼 |
一般廃棄物収集運搬組合 | ◆避難所の仮設トイレが満杯で不衛生この上ない状況である ▽配車して対応する |
自衛隊 | ◆捜索活動及びがれきの撤去をお願いしたい ▽がれき撤去は現在対応できない |
<支援側南伊勢ワークスペース(モバイルハウス)内の様子>
支援側の協議の様子
地図を活用した作業
リモートによる情報共有
<道路が開通した想定により受援側・支援側が合流した図上訓練>
図上訓練の会場内の様子
住民への状況付与と協議
住民による仮置場運営の話し合い
産業廃棄物協会との協議の様子
状況の整理
振り返りの様子
図上訓練参加者の意見交換・講評
図上訓練終了後、参加者から以下の意見がありました。
- 関係者で相談しながら連携し、支援体制を構築することができた。災害時に迅速に対応したい。
- 要望が多く、対応するにはより体制を強化しないとならない。
- 協定に基づく支援要請の手順について話し合い、支援することができた。
- 訓練終了後に町と協議し、災害対応を確認していきたい。
- 想定していなかった事態に発展する可能性に気が付いた。隣町と話し合っていきたい。
講評:
図上訓練実施までのプロセスが信頼関係の構築につながっている。訓練の後のレビューが大切で、気づいたことをリストにして改善していくことが重要です。災害対応は発生した事態に対処するだけでは駄目で、計画にある被害棟数などの予測値を用いて対応し、それを実際に繋げていくようにしていただきたい。
町長:
人命、生活を支えるために多くの人の協力があって対応できることがわかりました。避難するだけの訓練ではなく、生き残った後の安全安心を守る訓練を継続していきたいと思います。
3.図上訓練の特徴
(1)多彩な参加者
まず、図上訓練の参加者の多彩さ、人数の多さに驚きました。
町長、副町長、防災危機管理や土木部局、クリーンセンターの各部署から課長、職員が参加しました。また、住民や社会福祉協議会の他、自衛隊、県、隣接町、民間団体といった被災当事者と支援団体それぞれから複数人が参加しました。参加の調整には相当の手間を要したと思われますが、災害廃棄物担当者は、「多様な参加者がいなければ訓練の意味がない」「年1回でも顔を合わせることで、いざ南伊勢町が被災した際に、支援に入っていただき連携しやすくなる」という意義を図上訓練に落とし込んでいました。
参加者もそれぞれに参加することの意義を汲んで、状況付与に対して仲間と相談しながら災害時の対応を考え、学びにつながっていたことが印象的でした。また複数人が参加したことで、訓練後に組織に持ち帰って取組の改善につなげやすくなっているといえます。
(2)自前の準備と費用の抑制
県が主催した図上訓練にならって南伊勢町職員が準備を進め、状況付与は公益財団法人廃棄物・3R研究財団が提供したものに土地柄を反映して作成しました。
多彩な参加者が状況付与にリアルに応答したため、図上訓練の“コントローラー”は必要なく、外部委託の必要もありませんでした。そのため実費は地図の印刷のための5万円で実施できました。
(3)場所を分けたリモートによる訓練
巨大地震による道路の分断を想定し、訓練の初めは支援側と受援側の部屋を分けてリモートにより連絡し、情報共有が図れるかどうかを検証したことは特徴的でした。
支援団体側の訓練場所(モバイルハウス)
被災側の訓練場所
4.図上訓練の所感
リアルな状況付与により関係者間で論争が起きる場面があり、話し合いを通じて解決されていたプロセスは興味深く、訓練終了後の改善にも生かしやすかったと思います。
参加者は当事者としての危機意識が最初から共有できており、多様な主体がそれぞれ真剣に話し合いながら参加していたことで、訓練時間100分程度に対してとても内容の濃い訓練となっていました。
本事例を参考にしつつ各自治体の実情に合わせ、危機意識を共有しながら関係者間の連携を深め、地域全体で取り組む訓練が全国に広がっていくことを期待したいと思います。