平時の対策を知る人材育成Pre-disaster preparedness actions 平時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

和歌山県かつらぎ町 「模擬訓練の実施とリーフレットの作成(災害廃棄物処理住民啓発モデル事業)」

かつらぎ町役場 住民福祉課 生活環境係長 奥田幸宏

NOIMAGE

2022年4月

目次

1.はじめに
2.リーフレットの作成
・リーフレット作成の目的とプロセス
・リーフレット作成で工夫したこと、苦労したこと
3.模擬訓練の実施
・模擬訓練の目的
・模擬訓練への住民の募集方法
・模擬訓練延期の間の取組
・模擬訓練の様子と成果
・今後の課題
4.さいごに

1. はじめに

 かつらぎ町では、近畿地方環境事務所による令和2年度災害廃棄物処理住民啓発モデル事業の一環として、災害ごみのリーフレットを作成し、住民を含めた模擬訓練を実施しました。本稿では、その取り組みのプロセスや成果をまとめました。

2. リーフレットの作成

リーフレット作成の目的とプロセス

 本町は、平成17年10月1日に旧かつらぎ町と旧花園村が合併し、新たにかつらぎ町として出発しました。旧かつらぎ町は、町の中心部を東西に流れる一級河川「紀ノ川」があり、北には和泉山脈、南に紀伊山地があります。

 平成29年10月の台風21号による大雨で、奈良県吉野郡川上村にある大滝ダムの放流量が1,000立方メートルを超える時間が9時間余りあり、紀ノ川が増水約4時間で氾濫危険水位を超え、内水氾濫が発生し浸水被害が起こりました。

 また、旧花園村においては、緑豊かな村で古くは高野山の直轄寺領であった歴史があり、山合い深く二級河川「有田川」が流れています。その旧花園村でも昭和28年7月に未曾有の水害がありました。その当時、約2ヶ月前から雨が降り続き、総雨量1,000ミリを超え、山肌の立木を乗せたまま流れ落ち大規模な山崩れが発生し、甚大な被害がありました。

 さらには、平成17年1月17日に発生した阪神淡路大震災では、私自身ボランティアの一員として被災地に入らせていただいた経験があります。テレビのニュース・新聞等の映像や写真は、被災地の極一部しかわかりませんが、実際の被災地では測り知り得ない状況でした。それは、建物の崩壊・火災・ライフラインなどの被害だけではなく、余儀なく避難所生活を強いられている被災者の生活面もそうでした。

 毎年のように全国各地で災害が発生しており、今後、さらに大規模な災害が発生した場合、住民が少しでも被災財の分別や処理を速やかにできるようすることや、災害廃棄物の処理に係る時間・処理経費を削減することなどに十分な対応が取れるのかと思っていました。

 災害廃棄物を適正に早く処理するにはごみの分別が不可欠であることから、住民と行政との意識改革などが必要であると考え、今回、環境省主催による「災害廃棄物処理住民啓発モデル事業」に応募し、防災・減災にもつながる事前準備の備えとして、ごみ搬出模擬訓練を行い、災害時におけるごみの出し方のリーフレット作成にも取り組みました。

サンプル画像1
サンプル画像2
 

リーフレット「大規模災害時のごみの出し方(かつらぎ町)」

リーフレット

リーフレット作成で工夫したこと、苦労したこと

 令和2年度に本事業を実施する予定ではありましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、都市部において緊急事態宣言が発令されたことにより模擬訓練の延期を余儀なくされました。しかし、リーフレットの作成については、机上ではありましたが進めました。

 令和3年度に改めて模擬訓練を実施することにより想定外のごみの搬入や分別区分の表示、イラストの選び方・文字の大きさなど、限られた枠の中で配置の難しさはありました。

 また、模擬訓練を実施したことによって、住民への啓発・広報は、高齢者や地域以外のボランティアの方々にも分かりやすくする必要があり、各自治体や地域の特性を踏まえた内容に配慮する必要があるとわかりました。

3.模擬訓練の実施

模擬訓練の目的

 近年、全国各地で地震や津波、大雨・台風による河川増水、土砂災害が発生しており、また、近い将来発生が懸念されている南海トラフ巨大地震、3連動地震、中央構造断層地震が発生した場合、災害廃棄物を適正かつ迅速に処理を行うには、事前の備えは勿論のこと、住民への啓発・広報、訓練が重要です。

 いざ、災害が発生してからでは住民も行政も混乱の中で、住民生活や行政機関等の機能回復などを整えるには人材的・時間的にも相当困難が伴います。

 そうしたことから、地域住民や関係機関に災害への知識向上・災害への対応として、防災・減災にも繋がる予備知識の周知を行い、訓練を通し地域との連携を密にすることが大切であると考えました。また、地域住民や関係機関との情報共有も必要なことから今回の模擬訓練を実施することとしました。

模擬訓練への住民の募集方法

 模擬訓練実施にあたり、想定参加世帯数を約20~30世帯としていましたので、自治区長会で参加希望自治区を募る予定としていましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、区長会開催が困難という事態となりました。

 そこで、自治区長会会長に直接、住民参加型による模擬訓練の事業内容の説明を行い、災害ごみに対する意識改革の大切さを伝えたところ、想定世帯数と同等である会長の地元自治区で開催してはと提案を頂き、地元役員会で改めて事業説明を行い、了承を得て事業実施となりました。

模擬訓練延期の間の取組

 新型コロナウイルス感染拡大により緊急事態宣言が発令され、あえなく延期になりましたが、その間、地元住民に対し住民仮置場の候補地選定やその住民仮置場周辺の整備を地元住民と行政とが協力して取り組みました。併せて事前に模擬訓練実施時の持ち込みリストの調査を依頼しました。

 度重なる緊急事態宣言が発令されたことや訓練実施も延期せざる得ない状況となったこと、新型コロナウイルス感染状況を心配する声などもありましたが、令和3年11月28日に無事実施することができました。

模擬訓練の様子と成果

 有識者による講演で、災害時に発生するごみの内容・ごみ処理の流れ・災害時によくおこる問題など災害ごみ処理の基礎知識を学びました。また、防災意識向上に向けて、防災落語の披露もあり楽しく聞くことができました。

かつらぎ町長挨拶かつらぎ町長 中阪 雅則 挨拶

 

サンプル画像1
サンプル画像2

基礎講座【国士館大学 森 朋子講師】

 

サンプル画像1
サンプル画像2

防災落語【ゴスペル亭パウロ氏】

 

 前段の講演内容を踏まえ模擬訓練では、住民同士が助け合いながら自宅から住民仮置場まで片付けごみの搬入することができました。住民仮置場では、想定外のごみの搬入やごみを車両に積み込む際、大きな物や重い物が下に積まれる傾向があることから、住民仮置場のレイアウトに注意する必要があることが分かりました。

 

サンプル画像1
サンプル画像2

模擬訓練:搬出状況

 

サンプル画像1
サンプル画像2

模擬訓練:住民仮置場【受付】

 

サンプル画像1
サンプル画像2

模擬訓練:住民仮置場【荷下ろし】

 

サンプル画像1
サンプル画像2

         住民仮置場状況 実施前          ⇒            実施後

 

 さらに、模擬訓練に関するアンケート結果では、
「防災について考える機会になった」
「地域の協力体制がある程度確認することができた」
「必要でないものを家に置かないで、普段から片付けるようにしようと思った」
「今日の訓練を活かせるようにするには、日頃の啓発も重要であり全ては地域の助け合いが重要である」
「災害に対して、普段からの準備が重要であると感じた」
などの意見が寄せられました。

 今後、模擬訓練実施マニュアル【かつらぎ町版】を活用することで、各自治会での模擬訓練実施、他の自治体でも模擬訓練実施ができるよう汎用版を参考にそれぞれの地域で訓練が実施可能となります。

 

サンプル画像1
サンプル画像2
サンプル画像1
サンプル画像2

振り返り・意見交換

 

サンプル画像1
サンプル画像2

       講評 【国士館大学 森 朋子講師】                  講評 【神戸大学 田畑 智博准教授】

今後の課題

 災害が発生した場合、人命救助が最優先され、また、仮設住宅の設置・避難所開設・災害ボランティア団体の受入・自衛隊の野営場所なども優先されます。

 被災財の住民仮置場について、各自治区や町内会等との調整、住民仮置場から一次仮置場への運搬方法、片付けごみの混合化の防止、仮置場の確保・設置など、災害廃棄物処理に関する体制の整備が遅れがちになると思われます。

 この災害廃棄物処理住民啓発モデル事業を通し、少しでも住民と行政が協力し合い、今後も継続して取り組めればと思っています。

 また、災害復旧・復興には廃棄物担当課だけではなく、危機管理部局や建設部局との連携や災害協定など他の民間団体との連携も非常に重要であると考えます。

4.さいごに

 災害時には、普段とは違うごみ質や考えられないほどのごみの量が発生します。

 平時から不要となったごみの片付けや普段使用していないが、ごみとして出すにはもったいない物を使っていただける人に譲り渡したり、リサイクル活動などに回すなど不用品の整理が必要です。

 被災財であったとしても、決められた分別方法や決められた場所に搬出する必要があります。そのため、ごみの分別に対する意識向上をさらに図り、普段の分別基準とは異なる場合があるので、分別の基礎知識を持ってもらい災害発生時のごみ分別に対応できるよう取り組むことも大切です。

 そのことが、ごみの減量化や災害ごみの処理への速やかな対応、そして、早期の復旧・復興にも繋がります。

 仮置場は広大な敷地と大型車の通行が可能な場所・道路が必要となり、災害時に指定集積場所以外のごみ置き場を作らせないためにも普段からのごみの分別・リサイクル活動などごみの減量に努めるよう住民に周知するなど、みんなで減災に取り組む必要があります。

スマートフォン用ページで見る