栃木県環境森林部資源循環推進課 技師 藤倉功太
2022年5月
目次
1.はじめに
2.令和元年東日本台風における災害廃棄物処理
(1)概要
(2)広域連携等
(3)災害廃棄物等処理事業費補助金
(4)課題
3.災害を踏まえた平時の取組
(1)研修・訓練
(2)災害協定の見直し
(3)栃木県災害廃棄物対応マニュアルの策定
1.はじめに
令和元年東日本台風により、令和元年10月11日から13日にかけて、特に関東甲信越地方、中部地方、東北地方では記録的な大雨に見舞われ、栃木県では、大雨特別警報が発表される事態となりました。この大雨により県内各地で堤防の決壊や土砂崩れ等が発生し、4名の死者が発生するとともに、多数の住家が被害を受けました。
表1 被害状況について
本稿では、令和元年東日本台風における災害廃棄物処理の対応と、その後に行った平時の取組について記載します。
2.令和元年東日本台風における災害廃棄物処理
(1)概要
(1) 災害廃棄物の発生・処理
県内20市町において、約6.1万トンの災害廃棄物(水に浸かった家電、家具、畳など)が発生しました。
表2 市町別災害廃棄物発生量
(2) 仮置場の設置・運営
県内13市町に36か所の仮置場が設置され、災害廃棄物の搬入・分別・搬出が行われました。(その他、稲わら集積所など多数)
※仮置場を設置した市町の発生量を記載しているため、総量は表2と一致しません。
可燃物(那須烏山市)
出典:令和元年災害廃棄物処理に関する記録誌
(その2東日本台風)
家電4品目(佐野市)
出典:令和元年災害廃棄物処理に関する記録誌
(その2東日本台風)
稲わら(さくら市)
出典:令和元年災害廃棄物処理に関する記録誌
(その2東日本台風)
勝手仮置場(佐野市)
出典:環境省災害廃棄物フォトチャンネル
(2)広域連携等
(1) 県内関係団体及び市町との連携
市町は、県と関係団体が締結している災害協定を活用し、県を介して関係団体に支援要請を行いました。
表3 応援協定に基づく協力内容
(2) 環境省及び自衛隊との連携等
環境省及び自衛隊と連携しながら、市町の被災状況や実施可能な支援策などを検討・共有するため、県災害対策本部内に「栃木県災害廃棄物等対策チーム」を設置(10/21第1回チーム会議開催)し、市町への迅速かつ適切な支援につなげました。
表4 栃木県災害廃棄物等対策チームの活動
(3)災害廃棄物等処理事業費補助金
国と連携し、国庫補助申請に係る説明会の開催や予備災害査定を実施するなど、技術的支援を行いました。
表5 補助事業・説明会等の実施状況
(4)課題
(1) 身近な仮置場
政府の緊急対応策として、令和元年11月7日に「被災者の生活と生業の再建に向けた対策パッケージ」が取りまとめられました。この対策パッケージの中で、災害廃棄物について、生活圏内からの年内撤去を目指していくことが掲げられ、国は、生活圏の近くに立地している仮置場を「身近な仮置場」として指定し、被災市町は、搬出作業を加速させました。
ただし、多くの被災市町で多量の災害廃棄物が発生したことから、仮置場から搬出後の処分先の確保が困難となり、身近な仮置場を解消するため、やむを得ず生活圏から離れた他の仮置場へ移動させる事例も多く見られました。
また、身近な仮置場として指定する過程において、生活圏から身近であることの基準はなく、被災市町にとっては、年内撤去の期限が先行した対応を求められたことで、更なる職員の動員や重機・資機材の手配に追われることとなり、重い負担となっていました。
(2) 稲わらの処理
当初、ほ場等に堆積した稲わらは、生活環境の保全上の支障を排除することを目的とする災害等廃棄物処理事業費補助金の対象とはされておりませんでしたが、令和元年10月21日付け国事務連絡により、ほ場等から集積所までの収集運搬費用を農林水産省の補助対象、集積所からの処理費用を災害等廃棄物処理事業費補助金の対象とすることが可能となりました。
これを受け、市町では、稲わらの集積所の確保、集積した稲わらの処理を開始することとなりました。
しかし、農林水産省と連携したこの補助スキームは、災害ごとに発動の可否が判断されているため、発動後に準備をする必要があり、対応の遅れにつながることから、通常のスキームとして確立することが必要と感じました。
(3) 廃棄物処理法第15条の2の5に基づく特例制度の活用
特例規定が非常に限定的であったため、協力したいと申し出た事業者が同規定の対象にならない事例が存在しました。令和2年7月16日の省令改正によって対応範囲が広がってはいますが、災害時に発生する廃棄物は混合物が多く、迅速な処理のために選別等を行う必要があるものの、令7施設(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」第7条の処理施設)に該当しない選別施設等は当該手続では対応できません。
このように令7施設でない施設が災害時に一般廃棄物を処理しようとすると令5施設に該当してしまう場合については特例規定の対象外となってしまうことから、様々な種類や大量の災害廃棄物の処理への足かせとなっていると感じます。災害時には現行の「業許可」で処理している産業廃棄物と同様の性状を有する一般廃棄物の処理が可能となる等の運用が必要であると考えます。
3.災害を踏まえた平時の取組
(1)研修・訓練
過去の災害から時間が経過し、市町等において実際に対応した職員が異動していく中、業務に精通していない新任者をはじめとした担当者の育成と、組織内における平時の備えへの取組を促すため、県で策定した市町等担当者向けの対応マニュアルを活用し、年間を通じて段階的に研修・訓練を実施することにより、市町等における対応力のステップアップ支援に取り組んでいます。
表6 研修・訓練パッケージ
(2)災害協定の見直し
これまで県と関係団体とで締結している協定に基づく処理協力は、被災市町からの応援要請に基づき、県を介して調整されていたことから、処理等の実施までに時間を要しました。
この課題への対策として、令和2年10月に県内全市町と関係団体との間で当該協定に基づく覚書を締結することで、被災市町が関係団体に直接応援要請できる枠組みを構築しました。
(3)栃木県災害廃棄物対応マニュアルの策定
当県では、これまで栃木県災害廃棄物処理計画に県の役割等を定めておりましたが、具体的な対応方法等の定めがなかったことを踏まえ、処理主体である市町に対して、県が実施すべき支援等の必要な事項に関する具体的な対応方法を定め、災害時の適正かつ迅速な災害廃棄物処理に資することを目的に令和2年6月に「栃木県災害廃棄物対応マニュアル」を策定しました。