株式会社 鴻池組 大阪本店 土木部*1、土木事業本部 環境エンジニアリング部*2
安達 忍*1、岸本 健三郎*1、小山 起男*1、岡 徹次*1、
橘 敏明*2、花木 陽人*2
2016年7月
平成26年広島豪雨災害で発生した災害廃棄物の処理業務事例について、株式会社鴻池組よりご寄稿いただきました。本記事は鴻池組技術研究報告(2016)を基にしていますが、今回の寄稿にあたり、特に苦労された点等については、担当者からのコメントもいただいております。コメントは記事中で確認できますので、是非参考にしてください。
要旨
平成26年8月19日に発生した広島市における記録的豪雨(H26.8広島豪雨災害)により広島市内各所に斜面崩壊等の災害が発生し、土石流によって膨大な量の災害廃棄物が発生した。本報告では、災害廃棄物総量約52.3万トン(当初想定約58.4万トン)の内、広島市が直接処理したものを除く市内9箇所の1次仮置場の災害廃棄物を新たに設置した中間処理施設(南区出島)に運搬し、分別処理した事例について紹介する。この処理は、迅速な対応とともに埋立削減・再資源化の促進、地域雇用の創出等の方針も掲げられ、最終的に約51.3万トンの災害廃棄物処理を当初の計画どおり平成28年3月末に完了した。この分別過程において回収した「思い出の品等」は、「思い出の品預かり所」を設置し返却に努めた。分別した災害廃棄物のリサイクル率は、99.8%と高リサイクル率を達成できた。
キーワード:豪雨災害 災害廃棄物処理 再資源化 リサイクル率 思い出の品
1.はじめに
H26.8広島豪雨災害により、安佐北区および安佐南区を中心とした広島市内各所に斜面崩壊等の災害が発生し同地区に多大な被害が生じた。これらの地区では土石流によって約58.4万トン(当初想定)という膨大な量の災害廃棄物が発生した。これらの廃棄物は、復旧・復興に向けた取組みの支障となるため、迅速に災害現場から撤去され、緊急対応として、そのうち約58万トン(当初想定)が市内9箇所の1次仮置場に搬出された。その後、1次仮置場の災害廃棄物は、広島市南区出島地区に設置した中間処理施設に運搬し、埋立量の削減、再資源化の促進を目的に選別や破砕等の中間処理(図1)を行い、可能な限り再生利用を図った1)2)。
本報告では、適切な処理システムを構築し、迅速かつ確実に土砂と廃棄物を分別処理し、目標リサイクル率98.9%を超える99.8%の高いリサイクル率を実現した「広島市災害廃棄物処理業務」について報告する。
2.災害廃棄物処理業務の概要
廃棄物処理業務の概要を以下に示す。
発注者:広島市(環境局環境政策課災害廃棄物処理担当)
受注者:鴻池組・リマテック・河崎組・山陽建設・壺山建設・RTT・山興緑化広島市災害廃棄物処理業務共同企業体
受託期間:平成26年11月27日~平成28年3月31日
処理場所:広島市南区出島4丁目
業務内容:
(1)1次仮置場(9箇所)での災害廃棄物の粗選別、積み込みおよび中間処理施設(写真1)への運搬
(2)中間処理施設の整備および施設の配置・運営・維持管理
(3)中間処理施設の撤去、原状回復
(4)中間処理後の生成物の最終処分場等への運搬
(5)環境影響調査、周辺環境の保全
写真1 中間処理施設全景
3.処理の概要
3.1 全体工程
土砂災害からの復旧、復興を迅速に進めるため、1次仮置場から中間処理施設への運搬は、平成27年1月末から開始し、中間処理および最終処分は平成28年2月末までに終了した。中間処理施設は、平成28年3月末までに撤去した。表1に業務スケジュールを示す。
表1 業務スケジュール
3.2 処理対象
3.2.1 1次仮置き状況
処理対象となる災害廃棄物は、広島市安佐北区、安佐南区および西区の1次仮置場9箇所に、合計約58万トン(当初想定)が仮置きされていた。その廃棄物の種類と量を表2に、1次仮置場および中間処理施設の位置図を図2に示す。
表2 災害廃棄物の種類と量(当初想定)
図2 1次仮置場および中間処理施設の位置図
3.2.2 災害廃棄物の性状
中間処理施設での分別処理を行うにあたり、1次仮置場の土砂の性状を把握するために40mmでふるい分けを行った。その結果、40mm超過は5.9%、40mm以下は94.1%であった。さらに、40mm以下については土木材料としての性状を確認するため、廃棄物混入状況調査と粒度試験を実施した。廃棄物混入状況調査の結果、木片等の廃棄物の混入比率は0.16%で、40mm以下には廃棄物がほとんど混入していないことを確認した。粒度試験結果を図3に示すが、土砂は主にまさ土で適正粒度範囲(河川土工マニュアル3))にあり、廃棄物を適正に分別を行うことで第3種発生土以上の土砂として有効利用できることが確認できた。
図3 40mm以下の土砂のふるい分け試験結果
3.3 1次仮置場での粗選別
災害発生直後から被災地で除去したがれき混じり土砂をそのまま運搬し、1次仮置場に置いていた。そのため災害廃棄物の処理を行うにあたり、まず油圧ショベルや人力(手選別)等により粗選別し、「がれき混じり土砂(200mm以下)」、「がれき類(200mm超過)」、「流木・柱角材」に粗分別した。さらに、「がれき類(200mm超過)」については、コンクリートがら・岩石(200mm超過)とがれき類(混合廃棄物)に分別した。この際、手選別作業において、「思い出の品等」と思われる物品を発見した場合は回収(写真2)し、発見者を記録した後、中間処理施設(南区出島)の思い出の品担当者に送り管理した。
写真2 1次仮置場での手選別状況
3.4 収集運搬
1次仮置場から中間処理施設への災害廃棄物の運搬は、高速道路を利用した。また、中間処理施設周辺の地元住民および隣接する学校への影響を抑えるため、搬入時間および搬入台数を表3に示す条件として運行管理を行った。運搬にあたっては、ICカードによる運搬車輌毎の運搬品目、搬出場所(1次仮置場名)、運搬重量(トラックスケール)等の管理を行った(写真3~写真5)。最終的な運搬台数は延べ60,759台であった。
表3 中間処理施設搬入管理
左:写真3 運搬重量測定状況、中:写真4 ICカードによる管理、右:写真5 計量管理室
3.5 中間処理設備での選別
3.5.1 施設の配置
本業務で新たに設置した一般廃棄物処理施設の処理能力は、選別3,193トン/日(7h)、破砕602トン/日(7h)である。中間処理施設の配置図を図4に示す。中間処理施設では、処理ゾーンを種類別に3つ設け、1次仮置場から搬入された災害廃棄物の種類に応じて処理を行った。
図4 中間処理施設
3.5.2 がれき混じり土砂
1次仮置場から搬入されたがれき混じり土砂(200mm以下)は、「がれき混じり土砂中間処理ゾーン」で自走式振動スクリーンに投入し、「オーバー材(100mm~200mm)」、「ミドル材(40mm~100mm)」、「アンダー材(40mm以下:分別土砂)」の3種類に1次分別した(図5)。なお、含水比が高く分別が難しい廃棄物は、土質改良剤による改質を行った後、1次分別を実施した(写真6)。
1次分別されたアンダー材(40mm以下:分別土砂)は、さらに木くずや土のう袋等の繊維片を手選別ベルトコンベア上で除去した後(写真7)、埋立材として有効利用した。オーバー材(100mm~200mm)は、仮設テント内の手選別ヤードに重機により撒き出し、リサイクル可能な「金属類」、「非塩素系可燃物」とリサイクルできない「塩素系可燃物」、「不燃物」に人力により分別した(写真8)。その際「思い出の品等」と思われる物品も回収した。
図5 がれき混じり土砂処理フロー
(これらの画像はクリックで拡大することができます)
土砂の扱いについて
・分別した土砂に「細かい木くず」や「土のう袋が劣化した繊維くず」が混入し、海洋埋立処分先である第3工区(県)の受入基準(浮遊するものは不可)を満足することができなかった。そこで、自走式スクリーンの後段に新たに手選別コンベアと風力選別(大型送風機)を設置し、人力と風力により浮遊する廃棄物をさらに丹念に除くことにより、埋立できる性状まで分別した。
3.5.3 がれき類
がれき混じり土砂から分別した「ミドル材(40mm~100mm)」および1次仮置場から搬入したがれき類は「がれき類中間処理ゾーン」の自走式スクリーンで(15mm以下、15mm~100mm、100mm以上)選別した後、アンダー材(15mm以下)およびオーバー材(100mm以上の手選別後)は分別土砂として、ミドル材(15mm~100mm)は、振動・磁力・風力選別機(写真9)および手選別ライン(写真10)により分別した(図6)。ここでは、磁力選別機で金属を除去し、風力選別機で軽量物と重量物に選別した後、手選別ベルトコンベアで種別毎に廃棄物を分別した。その際の手選別ラインにおいて「思い出の品等」と思われる物品の回収も実施した。
また、軽量物の可燃物についてはリサイクルまたは処分先の受入基準を満たす大きさまで自走式切断機にて切断した。
写真9 振動・磁力・風力選別機
写真10 風力選別後の手選別状況
3.5.4 コンクリートがら・岩石
1次仮置場で粗選別により選別された200mm以上のコンクリートがら、岩石は、「コンクリートがら・岩石中間処理ゾーン」で分別投入し破砕して、コンクリートがらは砕石として、岩石は埋立材とした(図7)。
搬入されたコンクリートがらは、まず小割機で鉄筋等の異物除去を行い、岩石およびコンクリートガラを自走式クラッシャー(写真11)への投入可能サイズまで調整した。その後、自走式クラッシャーにてコンクリートがらは40mm以下、岩石は200mm以下に各々破砕し、有効利用した。
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3.6 思い出の品および遺失物の管理 4)
3.6.1 回収した物品の取り扱い
手選別で回収した「思い出の品等」の物品は、各々清掃・洗浄し、図8 に示す管理フローに従って整理を行った。現金や貴金属類など遺失物法に基づく物品については、遺失物として集約した。それ以外のもので、所有者等の個人にとって価値があると考えられるもの、たとえば、ぬいぐるみやバッグなどを「思い出の品」とした。
3.6.2 区分・集約
回収した物品は、物品の種類ごとに整理した一覧表に従い分類し、保管管理した。なお、遺失物については週1回、広島市職員立会いのもとで確認し、警察に届け出を行った。
3.6.3 保管・展示・閲覧および返却方法
処理期間中「思い出の品」は、運搬に便利な「コンテナ」で中間処理施設内に設置した専用の保管庫で保管した。「思い出の品」の展示は、中間処理施設内に設置した「思い出の品預かり所」(写真12)で行なった。「思い出の品」を撮影した写真をアルバムで整理し、来場者には、そのアルバムを閲覧して品物が確認できるようにした(写真13)。また、被災地と「思い出の品預かり所」との距離が遠いため、その時点までの「思い出の品」のリストを広島市のホームページで確認できるようにするとともに、市役所および被災地近くの区役所(2 か所)で同様のアルバムを置き、閲覧できるようにした。「思い出の品」の返却については、その物品の特徴を聞き取り、本人やご遺族等であることを確認した上で返却を行った。最終的な思い出の品等の数を表4に示す。
表4 発見された思い出の品等
(これらの画像はクリックで拡大することができます)
思い出の品について
・広島市と思い出の品の定義について協議した。その結果、「思い出の品」は「遺失物法に基づく遺失物以外のもので、品物としてある程度原形をとどめているもの」とし、悩ましいものは、その都度協議することとした。
・以下、定義
◎遺失物(いしつぶつ)
●現金類
●個人情報物件(人物写真、証明書・カード類等)
●禁制品(拳銃・刀等)
●貴金属類
例:財布(現金やクレジットカード等が入っている)現金、クレジットカード、キャッシュカード、 預貯金通帳類、保険証、運転免許証、パスポート、写真(人物の顔が確認できるもの)等
◎思い出の品
●遺失物以外のもので、品物としてある程度原形をとどめているもの。
例:野球のグローブ、ぬいぐるみ、かばん、時計、衣服類(名前が確認できるもの)等
・本業務において965点の「思い出の品」と、1751点の遺失物を回収することができた。これは1次仮置場および中間処理施設において、作業員延べ人数約20,000人を動員し、被災者の心情に配慮した丁寧な手選別が行われた成果である。
3.7 周辺環境対策と安全対策
3.7.1 周辺環境対策とモニタリング結果
周辺環境対策として選別処理や破砕処理は、騒音・粉じん対策を講じた仮設テント内で実施した。特に防音対策として仮設テントには二重シートを採用するとともに、中間処理施設の周囲には高さ3m、隣接学校側には5mの吸音材付き仮囲いを全周に設置した(写真14)。
セルフ環境モニタリングとして騒音・振動の測定、水質等の分析を月1回の頻度で実施し(写真14~写真15)、基準値以下であることを確認した。
写真14 吸音材付き仮囲いと騒音測定状況
写真15 雨水沈砂池と採水状況
周辺環境への配慮について
・中間処理施設の仮設テントは、当初計画では一重構造の予定であったが、騒音シミュレーションの結果、防音性能が不十分であることが判明したため、二重膜構造に変更した。
・防音対策として敷地境界には高さ3mの吸音材付きの仮囲いを設置し、特別支援学校が隣接する東側境界には高さ5mの吸音材付き仮囲いを設置し、騒音のさらなる低減を図った。
・粉じん対策として、中間処理ゾーンに仮設テントを設置するとともに、場内道路に散水車や路面清掃車を頻繁に走らせることで、さらなる粉じん低減を図った。また、各1次仮置場および中間処理施設の出口にはタイヤ洗浄機を設置し、現場周辺一般道路に泥を持ち出さないよう配慮した。
3.7.2 安全対策
被災地域の復興を後押しできるように地域雇用の創出の方針のもと、広島市在住の方を作業員として積極的に採用した。これらの作業員は大型建設機械が周辺で作業しているような作業に携わった経験がない方が大半であった。そのため安全に対する認識を高めるため、新規入場者教育、安全教育、保護具使用方法の教育(写真16)を頻度高く行い、事故のないよう安全確保に努めた。
写真16 新規採用した作業員に対する教育状況
地元雇用について
・本業務では地元市内からの就労希望者を優先的に雇用した。手選別を行う作業員の大半はこれまで工事現場で働いた経験が無かったため、安全への意識付けが大きな課題となった。そこで作業員一人ひとりの安全意識を明確にさせるため、月1回の安全教育のほか、朝礼時のKY(危険予知)活動の徹底、指差呼称の励行、安全標語コンテストの開催などを行った。
3.8 分別廃棄物量とリサイクル率
本業務で、最終的に1次仮置場に保管されていた災害廃棄物量は約51.3万トンであった(当初想定約58.4万トンの87.8%)。1次仮置場から中間処理施設へと運搬された災害廃棄物は図1に示す中間処理フローにより、リサイクルされるものと最終処分されるものに分別した。その品目別重量および重量比率を表5に示す。このうち分別土砂(県の埋立事業用埋立材として利用)が97.4%を占め、破砕コンクリートがら(再生砕石としてリサイクル)、金属類(再生金属原料としてリサイクル)、紙・プラスチック・木片等の非塩素系可燃物(固形化燃料やセメント原料としてリサイクル)、木材チップ(バイオマス原料としてリサイクル)、根・枝葉(堆肥化原料としてリサイクル)等のリサイクルされた資源物の重量比率は99.8%となった。一方、塩ビ管等の塩素系可燃物(焼却処分)、瓦・レンガ等の残渣(埋立処分)等のリサイクルできなかった廃棄物の重量比率は0.2%であった。
表5 品目別重量および重量比率 *)
高リサイクル率の実現について
・本業務において中間処理をした約51.3万トンの災害廃棄物のうち、リサイクルされたものは約51.2万トンとなり、重量割合にして99.8%と非常に高いリサイクル率を達成することができた。この高いリサイクル率の達成には、以下の要因があった。
・広島市と広島県との協議により、災害廃棄物の大部分を占める分別土砂を隣接地の県事業用埋立材料として利用できた。
・非塩素系可燃物はセメント原料や固形化燃料(RPF)とし、流木・柱角材はバイオマス原料とするなど、各品目のリサイクル方法と運搬場所を早期に確定させていたことで、滞りなくリサイクルすることができた。
・振動スクリーンや破砕機は自走式を採用して配置変えを容易にすることにより、現場の状況や災害廃棄物の性状の変化に合わせてフレキシブルに対応することができた。
・処理後物の大半をリサイクルすることができたため、最終処分場や焼却施設の日々の受け入れ可能量に影響されることなく迅速な災害廃棄物処理ができた。
4.まとめ
H26年広島豪雨災害の復旧・復興に向けた取組みのなかで、災害廃棄物の処理においては迅速な対応とともに、埋立削減・再資源化の促進、地域雇用の創出等の方針も掲げられた。本業務では、この方針に従い中間処理を行い、最終的に災害廃棄物総量約52.3万トンの内、広島市が直接処理したものを除く約51.3万トンの災害廃棄物を地元住民の方と分別処理し、当初の計画どおり平成28年3月末までに処理が完了した。また、分別した災害廃棄物のリサイクル率は、当初目標の98.9%を超える99.8%の高リサイクル率を達成できた。本業務の実施にあたり、発注者である広島市のご指導および周辺住民の方のご協力に感謝いたします。