災害時の対応を知る有害物質への対応Post-disaster actions 災害時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

寄稿:佐賀豪雨における油汚染と災害廃棄物

株式会社ダイセキ環境ソリューション 事業推進部 次長 松竹冬樹

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2020年12月

目次

  1. はじめに
  2. 油回収のための車両手配
  3. 油回収とその処理
  4. 廃油吸着マットの特性とその処理
  5. 油付着廃棄物の処理
  6. 用水路の油膜対策
  7. 災害対応時に留意した点
  8. 行政との協力・連携、行政への要望等
  9. 感想

1.はじめに

 令和元年8月28日に佐賀県を記録的な豪雨が襲い、武雄市や杵島郡大町町を中心に甚大な被害が発生した。その中で、大町町に工場を置く鉄工所の工場西側と中央の河川が氾濫し、工場が浸水したことで工場内の油が外部に流出した。

 油の流出量は一部では5万4,000リットルとも言われており、工場周辺の田畑や住居、病院などにも拡がった。

 この油の付着した廃棄物は大町町役場と鉄工所との協議により、鉄工所を排出元とする産業廃棄物扱いとして処理を行うこととなった。

2.油回収のための車両手配

 豪雨の翌日である8月29日午前に環境省を通じて、弊社副社長の元へ車両応援要請の連絡が入った。

 弊社はグループ企業も合わせ、東は仙台市、西は福岡県と広域で拠点を構えているため、福岡県の拠点会社の取引先、また取引先を通した紹介など遠隔で電話などでお願いをし、車両18台を確保した。

 車両の確保に当たっては、運搬をお願いした各企業も既に決まっていた仕事を調整してくださり、協力的に動いていただけた。

 ただ、中には作業費、運搬費としていくら出るのか?などの質問や、当日の作業手順や作業内容の質問、被害状況や現場の概要がまったく分かっていない状態で質問をされる企業もあった。このような企業に対しては、今後の関係もあり、無理にお願いすることなく、丁重にお断りを入れた。

 私もその日の最終新幹線で博多入りし、翌日早朝には現場の状況確認や段取りの把握、手配した車両に指示を出すため、現地鉄工所に入った。

3.油回収とその処理

鉄工所内の熱処理油槽に入っている油と水をバキューム車のホースを伸ばし、吸引を行った。

 床面に拡がった油は吸着マットで回収され、ある程度固めた状態で置いてあった。

【手配したバキューム車】

【手配したバキューム車】

【熱処理油槽】

【熱処理油槽】

【廃油吸着マット】

【廃油吸着マット】

 

 回収した油混じりの水は弊社グループ企業である(株)ダイセキ 九州事業所(福岡県北九州市)に持込み、異物の除去、pH調整を行った後、セメント会社へ二次処理委託を行った。

4.廃油吸着マットの特性とその処理

 廃油吸着マットは油のみを吸着し、水を吸収しないため、廃油吸着後のマットの重量も軽く、作業をするには非常に扱いやすい物であった。

 廃油吸着マットは、鉄工所内の物以外にも近隣の河川や民家に配布された物も鉄工所へ集められ、それらを各焼却処理会社に依頼し、焼却処理を行った。

 当時は中国の廃プラ輸入規制があったため、九州圏内の焼却処理会社も受入れが厳しい状況であったため、九州圏内以外にも大阪府、島根県、愛媛県の民間焼却処理会社に依頼し、全量処理を行った。

 焼却処理に関しては依頼した会社すべてにおいて大した問題もなく処理ができたと聞いているが、片やカロリーが高すぎる物もあったようで、処理数量を調整しながら焼却したとも聞いている。

 処理に関しての大きな問題は無かったものの、前述のように容量は多いが、重量が軽いため、遠方へ行けば行くほど、運搬効率が落ちる問題もあった。

【廃油吸着マットの山】

【廃油吸着マットの山】

【廃油吸着マット】02

【廃油吸着マット】

【積込み風景】

【積込み風景】

 

5.油付着廃棄物の処理

 水混じりの油や廃油吸着マット以外の廃棄物として、油の付着した草木、油の付着した病院内のインターロッキングブロック、鶏舎内の鶏糞があった。

 特に油の付着した草木の処理に関して、処理方法は焼却で問題はないが、産業廃棄物の種類で該当する品目がなく、環境省にお願いをし、佐賀県、愛媛県と協議を行ってもらった。最終的には発生元に佐賀県の意見を尊重していただき、廃油、汚泥という品目で着地した。

 処理方法についてはすべて焼却処理を行った。

 当初、インターロッキングブロックは埋立処分を考えていたが、油の付着が問題であるため、埋立処分場の受入が出来なかった。

 また、鶏糞については臭気が非常に強く(牛、豚、鶏の順で臭いが強くなるとのこと)、焼却処分会社の近隣への配慮もあり、依頼する企業を選択した。

【油の付着した草木】

【油の付着した草木】

【油の付着したインターロッキングブロック(1)】

【油の付着したインターロッキングブロック(1)】

【油の付着したインターロッキングブロック(2)】

【油の付着したインターロッキングブロック(2)】

【鶏糞】

【鶏糞】

6.用水路の油膜対策

 豪雨の災害廃棄物処理も概ね目途が着いた後、次に問題になったのが、鉄工所横や鉄工所周辺の水路での油膜発生である。これらの用水路は六角川に合流し、最後には有明海へと流れ込む。

 油膜は視覚的に目立つものの、油の濃度としては極薄く、油の中和剤(乳化剤)を使用して処理する方法が、一番効率が良いと考えたが、六角川が最終的に有明海へ流れ込むことから、漁業関係者への理解も得られにくいのではないか、との判断で、油膜の発生源対策としての浚渫による油膜除去を行った。

 油膜は用水路に堆積している土砂や草木に付着している油から発生していた。

 場所により重機での浚渫作業、バキューム車での吸引作業、人手でしか対応できない箇所は人海戦術、といった方法で作業を実施した。

【重機での浚渫状況】

【重機での浚渫状況】

【バキューム車で吸引しながらの浚渫作業】

【バキューム車で吸引しながらの浚渫作業】

【人海戦術での浚渫作業】

【人海戦術での浚渫作業】

【浚渫後の用水路】

【浚渫後の用水路】

 除去した土砂や草木は前述した弊社グループ会社の(株)ダイセキ 九州事業所に持込み、異物除去、成分調整を行った後、二次処理先のセメント会社でリサイクルされた。

7.災害対応時に留意した点

  1. 発災直後の車両手配などは、行政(国のルートや県のルート)、被災会社関係など様々なルートで一斉に手配を試みるため、実際に手配された車両を全体で統括する機能が未だ確立できていない。
    車両が不足している状況であれば、手配された車両が遊んでしまうことはないが、過剰に手配できた場合、せっかくの車両が遊んでしまうケースもあるため、作業の合間、作業終了時に各会社とコミュニケーションを取り、翌日の予定や必要台数のすり合わせを行った。
  2. 発災後、片付けや復旧を目指して動いている中で、当初の見立てと異なる想定外の内容も発生することがある。
    そういった場面にいち早く対応するために、具体的な業務が無い状態でも出来る限り現場に常駐し、状況を把握しながら、何かあったら動けるように対応した。
  3. 状況が落ち着いてきたら、外部からの支援者としては地元企業、地元行政を優先的に考え、一歩下がった支援に切り替えた。

8.行政との協力・連携、行政への要望等

  1. 今回の『佐賀豪雨』に対しては佐賀県、大町町役場の方々も協力的に動いて下さり、大変助かりました。
    また、前述にある産業廃棄物の品目についての判断も環境省が音頭を取っていただき、話をまとめていただけたので大変助かりました。
  2. 今回の災害対応に対して、今後への要望はありませんが、今回の対応のように廃棄物処理に関する柔軟な対応と連携を継続してお願いできれば、復旧に向けての時間も早くなると思います。

9.感想

 今回、残念ながら被災された鉄工所ですが、従業員の方々のレベルが高く、製造業であることも起因しているのか、明確な役割分担、権限移譲が行われ、行政、住民とのコミュニケーションも十分に行い、スムーズに復旧ができたと思います。

 ある業者、ある住民様から聞いた話では『誰も鉄工所のことを悪く言う人はいない。』とのことでした。

 今後も日本各地で様々な災害が発生すると思われますが、企業、行政、住民、すべてにおいてコミュニケーションを十分に取り、いち早く復旧に向けてのベクトル合わせをしていくべきだと思います。

本記事は以上になります。

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