災害時の対応を知る処理業務の全体像Post-disaster actions 災害時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

インタビュー:岩手県における災害廃棄物処理を語る(その3)

岩手県 松本実

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2014年8月

 岩手県環境生活部 廃棄物特別対策室 松本実災害廃棄物対策課長(当時)へのインタビュー(その3)です。

災害廃棄物処理の処理進捗の特徴

(聞き手)
 東日本大震災の災害廃棄物処理は、3年で完了することを目標として進められました。その3年の間、様々なご苦労があったと思います。

(松本課長)
 そうですね。まずはこのグラフをご覧ください。これは、3年間の処理率の推移を示したものです。

岩手県内で処理した災害廃棄物の処理率の推移の画像

岩手県内で処理した災害廃棄物の処理率の推移
注:データはインタビュー時点(2014年3月)までのものです。

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 このグラフを見ると分かるとおり、災害廃棄物の進捗(処理の年月と処理率)は比例するような直線のグラフにはならないのです。発災から1年が経った頃でも、全体として1割程度しか処理が進んでいない状況でした。この頃はなぜこれほどまで処理が進んでいないのかと多方面からお叱りを受け、最もつらい時期でした。

(聞き手)
 平成24年度の終わり頃でも全体の処理率は38.8%ですね。最後の1年で残り6割近くを一気に処理したようにグラフ上では見えますが、これは本当なのでしょうか?

(松本課長)
 実は、このグラフで示す処理率は重量ベースであることがポイントです。廃棄物はトラックスケールで量を計測するため、どうしても重量ベースでの管理になってしまうのですが、同じ災害廃棄物でも可燃物、コンクリートがら、津波堆積物とではそれぞれ比重が全く異なります。岩手県内では、比重が最も小さい可燃物の処理から先に進めたため、全体の進捗を重量ベースでみると、なかなか進んでいないように見えてしまうのです。

(聞き手)
 なるほど。実際には処理が進んでいるにも拘らず、重量ベースのデータにはそれがなかなか反映されないわけですね。

(松本課長)
 現場に行くと、ずいぶん廃棄物の“かさ”が減っているように見えるのに、データを見ると処理が進んでいない。最初の1年が終わったところで、このグラフの処理率を見たときには、関係者一同ガックリときてしまいました。ただ、初めに可燃物を処理したので、仮置場にスペースができ、不燃物の置場に使え、不燃物の処理が進みました。

津波堆積物の処理が一気に進んだ理由

(松本課長)
 これは災害廃棄物の処理率を種類別に示したグラフです。種類によって、処理スピードがそれぞれ異なることがよく分かると思います。

岩手県内で処理した災害廃棄物の処理率の推移(種類別)の画像

岩手県内で処理した災害廃棄物の処理率の推移(種類別)
注:データはインタビュー時点(2014年3月)までのものです。

この画像はクリックで拡大することができます)

(聞き手)
 津波堆積物は、特に最後の1年での処理率の伸びが著しいですね。

(松本課長)
 これは、平成24年度の後半になって、津波堆積物を再生資材として復興のための公共工事に使ってもらえるようになったことが大きいと思います。当時は津波堆積物を再生資材として活用するための明確なルールがなかったため、関係者間でルールを作り、安全性を確認するのに時間がかかったのです。平成24年度の後半になってようやくルールができ、再生資材として処理の出口を確保できたことが、処理率が大きく伸びた要因のひとつです。
 このルール作りや安全性の確認については、公益社団法人 地盤工学会や公益社団法人 土木学会に大きな貢献をいただきました。学会が再生資材を作る側とそれを活用する側の間に入り、第三者としてきちんと評価してくださったおかげで、資材の活用が進んだのです。この点はとても感謝しています。

(聞き手)
 津波堆積物は、処理の順番も最後のほうだと考えてよいのでしょうか?

(松本課長)
 岩手県内の災害廃棄物の一部は東京都に広域処理をお願いしましたが、この際引き取っていただいたのは比較的容量の大きな廃棄物でした。土砂を含む細かな廃棄物はスレート中のアスベスト等の有害物質を含んでいる可能性があるため、広域処理には不向きなのです。その結果、岩手県内には比較的細かな廃棄物が残ったため、これらをふるいにかけて安全に処理しました。その際に発生するのが、細かな廃棄物に大量に混ざっていた津波堆積物です。ですので、おっしゃるとおり津波堆積物の処理は後のほうになりますね。

地域の特徴に沿った処理進捗の管理を

(聞き手)
 この3年間の処理率推移データは、今後大きな災害が起きてしまった場合、その災害廃棄物の処理を行わなければならない自治体にとっては非常に貴重な資料になりますね。
 だいたいどの地域でも、このような処理率の推移になるのでしょうか?

(松本課長)
 いえ、地域によって処理の進捗状況は変わると思います。今回被害が大きかった岩手県の海岸沿いは、リアス式海岸のため、災害廃棄物を仮置きするための十分なスペースを確保することが困難でした。そこで容量の大きい可燃物を優先して処理したことから、このような処理率推移になったと理解しています。もっと開けた土地が確保でき、再生資材の活用先が確保できる地域であれば、最初からコンクリートがらや津波堆積物等の処理を進められるかもしれません。
 ただ、どのような地域であれ、処理の進捗が正比例の直線グラフにはならないということを理解しておかねばならないと思います。最初からこのグラフのように曲線になることを関係者全員で理解して処理を進めるか、もしくは重量ではなく体積で進捗管理をするか、どちらかの対策が必要ではないでしょうか。

(聞き手)
 まさに、東日本大震災の災害廃棄物処理を通して得られた究極のノウハウですね。

(松本課長)
 災害が起きた地域で確保できる土地の広さや、再生資材の活用先の有無を勘案したうえで、可燃物から処理を進めるのか、コンクリートがらから処理を進めるのかを、地域毎に考えることが重要です。それによって処理完了までの道のり、つまり処理進捗の特徴が見えてくると思います。

(聞き手)
 貴重なお話、本当にありがとうございました。

 

岩手県環境生活部 廃棄物特別対策室の松本実災害廃棄物対策課長(当時)へのインタビュー連載は今回で終了です。

聞き手:公益財団法人 廃棄物・3R研究財団
森朋子

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