一般財団法人 日本環境衛生センター 宗 清生
2015年7月
東日本大震災での処理に携わったご経験から、今後の巨大災害にどう備えていくべきかについて、全3回にわたりお伝えしている(一財)日本環境衛生センター西日本支局環境工学部 技術審議役の宗清生氏からのご寄稿、その3をご紹介します。
4 津波が災害廃棄物処理に及ぼした影響
東日本大震災では、家屋や建造物は津波によってその多くが破壊され災害廃棄物となりました。その中で特異的な災害廃棄物としては、手作業での鉛除去が必要でしかも絡まり合って取り扱いがしにくい大量の漁具・漁網や、陸上に打ち上げられた大型船舶などがありました。また、津波によって運ばれてきた土砂、いわゆる津波堆積物と呼ばれるものが発生しました。津波堆積物は災害廃棄物と混じり合ってその後の処理にいろいろと悪影響を及ぼしました。例えば、破砕・選別処理の過程で細かな津波堆積物と木片等が混ざった「ふるい下くず」とよばれるものが大量に生じて、その処理に困りました。また、焼却処理する可燃物として選別しても津波堆積物が大量に付着していたために、焼却灰が大幅に増加しました。その他、セメント工場での受入は、製品段階の成分濃度を計算して受入量が決まることから、大量に引き受けてもらうためには海水(津波)由来の塩分除去(除塩)が必要になりました。また、木材のリサイクル工場で受け入れて戴くにも、除塩が必要でした。このように津波は災害廃棄物処理に多くの課題をもたらしましたが、ここでは次の2つの課題についてご紹介します。
4.1 「ふるい下くず」の発生
一次仮置場において粗選別が行われた後には、可燃系混合物や不燃系混合物と呼ばれるいろいろなものが混ざり合ったものが残ります。(図4参照)その中には、津波堆積物も混入しています。
図4 岩手県における破砕・選別物の分類
(出典:岩手県災害廃棄物処理詳細計画第二次改訂版)
可燃系混合物を例に、破砕・選別処理の流れを示すと、図5及び次のようになります。
最初に、可燃系混合物を選別ヤードに薄く展開して、粗選別を行います。その後、トロンメルという移動式の回転式篩(ふるい目幅20mm)で細かな土砂をふるい落とします。トロンメルのふるい下に落ちたものが、図4に示す「土砂混合くず(安定型又は管理型)」となり、ふるい上に残ったものは150mm程度に破砕後、20mmふるいにかけます。そして、ふるい下に落ちたものが「ふるい下くず」となります。さらに、ふるい上のものは、手選別コンベヤ上で可燃物以外の異物(石、金属等)をピックアップし、その後50mmふるいにかけて、ふるい下に落ちたものが最終的な選別品となります(ふるい上に残った50mm以上のものは再度破砕してふるいに戻し、50mm以下になってふるい落とされるまで、破砕とふるい選別が繰り返されます)。
図6に「ふるい下くず」の例を写真に示していますが、細かい木くずがかなり混ざっているのがわかると思います。そのままでは資材として活用できませんので、最終処分せざるを得ないものでした。
このように資材として活用できない「ふるい下くず」がどんどん大量に発生しましたが、埋立する最終処分場もない状況でした。最終的には一定の条件付きで、大船渡市にあるセメント工場で利用することで目処が立ちましたが、そこに至るまでは非常に大きな問題だったのです。今後の津波被害による災害廃棄物の破砕・選別処理工程が現状と同様であるならば、大量の「ふるい下くず」が発生するのは必然ですので、それを削減するための方策が必要です。例えば、「ふるい下くず」の発生が少ない安価な破砕・選別システムの開発や、発生した「ふるい下くず」についても再処理して資材化できるシステム及びその用途の開発などについて今後検討が望まれます。
なお、大船渡市にあるセメント工場では、工場敷地内に大規模な除塩設備を設置して前処理した後に、100万トンにも及ぶ大量の災害廃棄物がセメント化されました。一般的に、セメント工場ではセメント生産量に対して4~5割の廃棄物や副資材を受け入れできると言われており、災害廃棄物処理においては非常に有用な処理先になります。しかし、災害廃棄物の性状によっては受入量の制限や前処理が必要となる場合もあります。近隣にセメント工場がある場合には、災害発生時にどのような性状であれば受け入れられるのか、量的な制限はどのような条件で決まるのか等情報交換するとともに、可能な協力体制について事前に協議しておくことが望まれます。
図5 可燃系混合物の破砕・選別処理工程例 図6 ふるい下くずの例
(この画像はクリックで拡大することができます)
4.2 焼却対象物への土砂の付着
図5に示す可燃系混合物の破砕・選別処理工程の最終的な選別品は、焼却炉で焼却されるものですが、土砂(津波堆積物)を完全に取り除くことは困難で土砂が多量に付着していました(図7参照)。そのため燃焼管理に悪影響を及ぼしたほか、焼却灰量が通常の2倍程度にもなり、焼却灰を受け入れた県内最終処分場の残余容量を予定以上に減少させました。最終処分場の新規確保は相当の期間を要する困難な事業ですので、災害廃棄物処理が終了した後まで課題を残すことになりました。
最終処分場に余裕のない市町村においては、将来発生するとされている巨大災害時には同様な事態が生じると推察されます。その対策として、宮城県の事例のように焼却灰を改良して資材として活用する方法もありますが、災害廃棄物発生量が東日本大震災の10倍以上もあると見込まれている南海トラフ地震では、焼却灰を資材化しても全量活用できるかは未知数です。一部資材化して活用することを前提としても、焼却対象物に付着した土砂を効率的かつ安価に除去できるシステム開発等の対策が望まれます。
図7 仮設焼却炉処理対象物性状例
5 おわりに
東日本大震災の経験を踏まえて、将来発生が予想されている巨大災害に対する準備が進められています。その中で肝要なことは、災害は場所、時を選ばず突然発生し、その内容はそれぞれに違いますので、どのような事態が発生しても臨機応変に対応でき、かつ、実際に機能するよう備えることではないでしょうか。そのためには課題に対して柔軟に対応できる人材の育成や、定期的な訓練が必要です。そして被災市町村の支えとなる他市町村、県、国等の行政間や業界、大学、研究機関等との連携は今後も重要な要素ですし、それを進化させていくための情報交換や人材交流を活発に行っていくことが望まれます。
東日本大震災の災害廃棄物処理に関する課題として、福島第一原発事故による放射性物質の拡散により惹起された課題(汚染廃棄物処理の問題、広域処理先確保への悪影響等)やその他多種多様の課題がある中で、ここでご紹介できたものはほんの僅ではありますが、将来の災害に備える上で幾分かでも参考になれば幸いです。