災害時の対応を知る処理業務の全体像Post-disaster actions 災害時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

寄稿:長野市における令和元年東日本台風による災害廃棄物処理の取組

長野市役所 環境部 生活環境課 ごみ減量企画担当 係長 金児和彦

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2021年9月

目次

はじめに

 令和元年東日本台風災害における長野市の災害廃棄物処理につきまして、国、県、市町村、関係団体、ボランティアの皆様から多くのご支援をいただきましたことに、心からお礼申し上げます。

 この寄稿を執筆している令和3年9月上旬、令和元年10月13日(日曜日)発災直後から取り掛かった災害廃棄物処理がようやく終盤を迎えようとしているところです。

 今回経験した災害廃棄物処理業務の中で大事であると感じた、「初動対応」について、長野市の例をお伝えさせていただきます。

発災直後の様子、最初に取り組んだこと

令和元年東日本台風経路図

【図1:令和元年東日本台風経路図】

 令和元年10月6日(日曜日)に太平洋上で発生した台風19号は、9日(水曜日)には本州を覆うほどの巨大な雲の渦を巻いて北上を始め、12日(土曜日)から13日(日曜日)にかけて千曲川が流れる長野県の東側を縦断しました。12日(土曜日)15時30分に長野地方気象台から大雨特別警報が発令され、これまでの観測記録を超える日降水量132ミリメートルの大雨となり、12日(土曜日)深夜から13日(日曜日)朝にかけて長野市内を流れる千曲川の堤防数か所で、越水、決壊が発生し、甚大な被害が発生しました。

 市内全体の浸水面積は、東京ドーム約328個分に相当する1,541ha、浸水の深さは推計値で最大約4.3mに達しました。被害が最も大きかった地域では、1階の屋根を覆うほどの高さまで浸水しました。住宅の被害状況は、令和3年3月31日時点の罹災証明書交付件数の内訳では、全壊が1,038件、大規模半壊が383件、半壊が1,428件、一部損壊が1,447件の合計4,296件に上りました。

 ライフラインの被害は、停電が約21,700戸、ガスが約900戸、水道は14戸でした。

 幸いにも、市及び広域連合所管の一般廃棄物処理施設(ごみ焼却施設、不燃物処理施設、最終処分場)には、被害がありませんでした。

 発災前日の10月12日(土曜日)17時36分、職員参集メールで氾濫警戒情報の着信があり、たまたま他の業務で出勤していた私はそのまま市役所に留まりました。その後、災害廃棄物処理担当である私は、数日前に環境省から発出された災害関係の通知を再度確認していました。環境部内でまず初めに取り掛かったのは、災害廃棄物の処理ではなく、12日(土曜日)22時から避難所仮設トイレの設置でした。今回、台風による大きな水害であったことから、災害発生前から避難所に多くの市民が避難してきたため、避難所から仮設トイレ設置の依頼が翌朝を待たずにありました。深夜まで及んだ設置作業を終え、午前2時過ぎ一部の職員が退庁しました。

 翌日13日(日曜日)、直ちに、災害廃棄物を仮置場に受け入れる際の分別の検討に取り掛かりました。分別については、環境省通知の資料に8分別(不燃物、金属くず、危険物・石膏ボード・スレート、タイヤ、木くず、家電、畳、可燃混合物)の例がありましたので、これで進めようと考えていましたが、同日8時15分、仮置場の設置運営を担当する廃棄物対策課に相談したところ、他の大規模水害の事例で土砂混じりがれきを分別に加えた例があったことから、土砂混じりがれきを加えた9分別の案としました。同日8時30分、災害廃棄物処理担当の生活環境課と仮置場担当の廃棄物対策課が分別について協議し、9分別の案に決定しました。

 同日9時15分、環境省中部地方環境事務所の専門官から電話があり、浸水した水が引くと被災家屋から一斉に廃棄物の持ち出しが始まるので初動対応を急いでくださいとのことでした。内容は、(1)仮置場の設置、(2)住民周知、(3)ボランティアへの対応準備、(4)避難所仮設トイレの設置と被災宅の汲み取り対応を早急にとのことでした。同日10時15分、環境省、長野県の担当者が来庁され、市から仮置場の開設準備状況と9分別について説明しました。同日20時、長野県へ第一報となる被害状況を電子メールにて報告しました。

台風アメダス・降水量地図

【図2:台風アメダス・降水量地図】

長野市位置図及び主な被害地区概況写真

【図3:長野市位置図及び主な被害地区概況写真】

【表:住宅被害の状況(令和3年3月31日時点)】

住宅被害の状況(令和3年3月31日時点)

仮置場における分別

【図4:仮置場における分別】

市が設置した仮置場の管理運営

仮置場一覧

【図5:仮置場一覧】

東山第2運動場仮置場

【図6:東山第2運動場仮置場】

この画像はクリックで拡大することができます)

 10月14日(月/体育の日)8時30分、環境部内の打合せで、仮置場3か所と9分別が決定しました。長野市災害廃棄物処理計画では市内に36か所の仮置場候補地を設定していましたが、今回の災害では、浸水した候補地が7か所、当初予定していた候補地のうち接続道路の幅員が狭いなどの理由で他の近くの候補地に変更したことから設置に至らなかった候補地1か所がありました。また、急遽、フェンスの一部を撤去し、出入口を約15mに広げた市有施設の野球場がありました。長野市のように平坦地が少ないところでも、全長20m程度のフルトレーラーが出入りできる、100m四方の野球場や運動場などが一つの目安になると考えます。市民には9分別で持ち込んでいただきましたが、仮置場内では、18種類に分けて処理を行いました。

 仮置場の開設については、水が引いた市南部の篠ノ井運動場(野球場1面)を発災翌日の14日(月曜日)15時、続いて青垣公園運動場(野球場1面)を15日(火曜日)9時、堤防が決壊して被害が最も大きかった市北部の長沼・豊野地区に近い豊野東山運動場(野球場2面)を16日(水曜日)9時の順で行いました。最終的には市民搬入7か所、市民と委託運搬業者が共用で搬入1か所、自衛隊専用2か所、委託運搬業者専用5か所、合わせて15か所の仮置場を設置しました。

 仮置場の管理運営については、発災から約1か月間、市職員、自治体支援職員による直営及び産業廃棄物処理業者で組織される(一社)長野県資源循環保全協会へ委託により対応しました。その後は、処理が進むに従い、段階的に仮置場を集約して管理を専門業者へ委託し、令和2年度は豊野東山第2運動場とアクアパル千曲(千曲川流域下水道上流処理区終末処理場)の2か所、令和3年度はアクアパル千曲の1か所で対応しています。

 また、仮置場を設置する際の注意点として、作業に伴い発生する騒音、振動、臭気、粉じんなどによる周辺住民等への影響ができる限り少ない場所を選定する必要があります。加えて、夜間照明・作業員管理休憩コンテナ用電源、仮置場から出る車両のタイヤの泥落とし場の水道、トイレの確保が必要となります。今回の災害では、影響があると思われる地区の住民を対象に説明会を開き、了解をいただいた上で仮置場を設置しました。このほか、泥落とし場を確保できない仮置場では、市道路維持担当課に道路清掃車や除雪車の出動を依頼しました。

 このほか、土の野球場や運動場を仮置場とした場合、降雨によるぬかるみが生じたり、大型車両の出入りがあるため、砕石や鉄板の敷設が必須です。今回の大規模な水害では、建設関係の復旧工事でも相当数の鉄板が必要であったため、仮置場開設当初は鉄板の敷設が間に合いませんでした。その結果、被災地域から災害廃棄物を搬入した軽トラックがスタックすることがあり、鉄板を敷設するまでの間、持ち込まれた畳を敷いて対応しました。

 市が設置した仮置場は、夜間、作業員もいなくなるため、開設初日から、プラスチックチェーンで出入口を施錠し、鍵を仮置場管理運営委託者へ預けました。開放したままだと、災害廃棄物でない便乗ごみの持ち込みや、持ち込まれたごみの抜き取り行為などの恐れがあります。

被災住民が自主的に設置した災害廃棄物置場への対応

入居者のいない市営団地周辺の状況

【写真:入居者のいない市営団地周辺の状況】

 被害が最も大きかった長沼・豊野地区では、家屋1階の軒先ぐらいまで浸水し、水の引いた道路は、堆積した土砂のため、除去までの数日間、車が通行できない状態でした。また、仮置場の豊野東山運動場は、長沼地区から車で30分程度かかる場所にあり、開設直後は渋滞により2時間から3時間待ちとなり、被災者に大変迷惑をかけてしまいました。このような状況により、発災直後から被災者が自主的に災害廃棄物置場を設けるようになり、令和元年10月末時点で市が把握した置場は68か所に上りました。現場は分別されない混合ごみが山のように積み上げられた状態となり、早急に撤去して、処理する必要がありました。

 環境省災害廃棄物中部ブロック広域連携計画及び長野県市町村災害時相互応援協定に基づき、パッカー車等の車両支援と仮置場への人的支援について、発災から2日後の10月15日(火曜日)、長野県を通じて1回目の支援要請を行い、11月21日(木曜日)までの間に計13回の支援要請を行いました。支援いただいた多くの自治体におかれましては、支援期間を延長して対応いただきました。支援要請から2日後の10月17日(木曜日)から12月21日(土曜日)までの約2か月間に亘り、県内外の多くの自治体(県外15、県内7)から支援をいただきました。このほか、全国都市清掃会議による車両支援(関西1市)と個別の自治体間協定に基づく車両支援(関東1市)もいただきました。また、民間の廃棄物処理業者で構成される団体(県外2団体)からも多くの車両・重機支援をいただきました。

 支援自治体が現地で作業するに当たっては、前日に市役所で被害状況、災害廃棄物発生状況、支援依頼内容、滞在中の燃料給油などの説明と連絡先電話番号の確認を行いました。説明の際、災害廃棄物置場から運搬先までのルートがわかる地図が必要となり、急遽、観光担当課から観光客向け案内地図100部ほどを譲り受け、パッカー車が走行できる幅員のルートを蛍光ペンでトレースして支援いただく自治体職員へお渡ししました。支援いただいた車両の燃料代やパンク修繕費用等は市が負担しました。パッカー車などの洗車場・支援職員用休憩室の確保、清掃工場への搬入計量カードの手配も行いました。

市民等への広報

被災世帯への周知

【図7:被災世帯への周知】

 発災翌日、10月14日(月曜日)8時30分からの環境部内打合せで9分別と仮置場3か所が決定した後、直ちに被災世帯への災害ごみ処理の情報周知に取り掛かりました。即日、ホームページへの掲載、被災地区の支所・避難所への掲示、仮置場での搬入者への周知・協力依頼を行いました。その他、市社会福祉協議会を通じて被災地区内のボランティアセンターへも9分別と仮置場開設時間などの情報を提供し、ボランティアへの周知を依頼しました。

災害時の備えとして大切なこと

 備えあれば憂いなし、万が一の備えは、必要であると考えます。ただ、どこまで備えれば万全なのか。答えはありませんでした。初めて経験した今回の災害時では、平時と違い、臨機応変に柔軟な対応が求められる場面に何回も直面しました。現場へ足を運び、写真とメモを取り被害情報を収集し、その状況に合わせて災害廃棄物処理業務を進めました。また、平成30年4月に施行した長野市災害廃棄物処理計画は、業務を進める上での拠り所になりました。

 平時の備えとして必要なものは、各自治体が策定することとされている災害廃棄物処理計画です。長野市は平成25年3月に策定、平成30年4月に一部改定しました。想定した災害の種類や規模の違いにより廃棄物の種類と量を推計、組織体制と業務概要、発災時の業務手順、発災後の処理全体の流れ、仮置場候補地の選定、各種協定書の確認、補助金の活用、災害廃棄物処理実行計画の策定などを盛り込んでいます。策定されていない自治体におかれましては、環境省の計画策定モデル事業の活用や、国立環境研究所「災害廃棄物情報プラットフォーム」に掲載されている自治体が策定した災害廃棄物処理計画及び処理実行計画を参考にしていただければ、策定にかかる負担が軽くなると思いますので、早めに策定されることをお勧めします。

 長野市は災害廃棄物処理計画を策定した後に被災しました。私は、今回の災害が発生する平成31年度に災害廃棄物処理を担当することになりました。令和元年8月には計画で定めた仮置場候補地の現場確認を行ったところでした。そして同年10月13日以降の災害対応では、災害廃棄物処理計画と仮置場候補地の現場確認を終えていたことが仮置場設置のイメージづくりに大変役立ちました。

その他、自治体職員の皆様へおすすめ

 発災時、特に初動対応をスムースに進めるために、災害廃棄物処理担当者が準備しておいた方が良いと思うものがいくつかあります。

<電源なしでも記録できるノート>

 発災から約1か月間、私は、庁内のほか国・県との打合せ、支援自治体職員の方への説明に加えて、電話応対が平時の何倍もありましたので、専用のノートにメモをとることにしました。発災直後の現場では、小雨の中、傘をささずに屋外でメモをとりながら打合せをしていました。雨の中でも記録できるノートは、使い勝手が良いです。ノートに記録することで、全ての業務が時系列で並び、後になって読み返した時に処理経過を確認することができました。

 現在普及しているスマートフォン用アプリケーションには便利なSNSやメモアプリがありますが、災害時は、電源を確保できない可能性もあります。その点、原始的かもしれませんが、ノートは電源なしで記録できます。

 発災から約2年経ちますが、今でもノートを使い続けています。

<相手方の連絡先を共有する名刺入れ>

 発災直後から、国、県、支援自治体職員のほか、廃棄物処理業者など多い日は20名を超える初対面の人と名刺交換しました。いただいた名刺を課内で共用するためA4冊子の名刺入れを備えました。

<仮置場の管理を適切に行うための施錠>

 仮置場の管理及び案内版を設置するため、工事用のコーンとバーがあると便利です。また、出入り口を施錠するためのプラスチックチェーン20m数本と南京錠があると良いです。

<自分の身を守るための安全確保>

 事故やケガ防止のため職員装着用として、ヘルメット、反射材付きのベストと雨具は常時支給貸与されており、発災後に踏み抜き防止インソール、厚手の安全手袋が支給貸与されました。

 道路清掃前の被災地域内は、道路上に危険物が散乱していることが考えられるため、事故対応を想定し、2人以上での行動が基本であると感じました。

結び

 この度の寄稿では、災害廃棄物処理で経験した初動対応を、ありのままできるだけ具体的に伝えさせていただきました。

 災害廃棄物処理を担当されている自治体関係者様の参考にしていただければ幸いです。

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