株式会社タクマ 国際本部 国際部 営業技術課 戸崎正裕副主幹
2021年7月
目次
(1)ごみ処理機能の維持
(2)市民が安心して避難できる避難所機能
(1)官民NPOの連携体制
(2)独自の事業継続計画(BCP)
(3)市民参加型訓練を毎年実施
1 はじめに
近年、我が国では大規模災害が頻発しており、全国で強靭化の取り組みが急速に進められています。また、気候変動に伴い頻発する豪雨災害への対応(適応)の必要性も高まっています。そのような状況の中、ごみ処理施設は、施設自体の強靭化に加え、停電してもごみによる発電が行えるため、住民が安心して生活できる避難所としての期待が高まっています。
今治市クリーンセンター(愛称:バリクリーン)は、ごみ処理施設でありながら、今治市の「指定避難所」となっている施設です。ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2019で最高賞となるグランプリにも輝いた、本施設の様々な防災の取り組み、そして本施設が取り入れた防災の新たな概念「フェーズフリー」についてご紹介します。
【写真1】今治市クリーンセンター 外観
2 平常時も災害時も役立つ「フェーズフリー」なごみ処理施設
本施設は「フェーズフリー」という新たな概念を全国のごみ処理施設で初めて取り入れた施設として、2018年3月に竣工しました。今治市民約16万人分のごみの安定的な処理に加え、平常時は「市民の憩いの場」、災害時は「防災拠点」として、”いつも”と”もしも”の両方=「フェーズフリー」で地域に貢献します。
【図1】今治市クリーンセンターの全体像
■フェーズフリーとは?
災害時にのみ役立つ従来の防災機能とは異なり、平常時と災害時の両方で差がなく利用でき、日常の価値と非常時の価値(QOL)の両方を高く維持できるよう、モノやサービスをデザインすることです。暮らしのすべてに広がる考えであり、現在、住宅建築やプロダクトデザインにおいて、フェーズフリーの概念をもとにした取組みが広がりつつあります。
(フェーズフリーの考え方についての詳細はこちらを参照下さい)
本施設でもこの考えを積極的に取り入れ、施設強靭化の機能を、平常時の「プラント稼働における費用削減・業務効率化」や、「地域住民が活動する機会・場の提供」に役立てることで、「防災”Cost”をいつもの”Value”に」する取り組みを行っています。
例えば図3のように、大研修室などの避難所として利用する部屋は、平常時にスポーツやイベント等で利用できるよう市民に開放することで、市民が集う場所としての付加価値を高めています。平時に施設を市民に利用してもらい、施設に親しみを持ってもらうことは避難所機能の周知にもつながっています。
【図3】今治市クリーンセンターのフェーズフリーの事例
3 施設強靭化を支える、ハード面の取り組み
(1)ごみ処理機能の維持
大地震などの緊急時に被害が拡大しないよう、安全に焼却炉を停止できるシステムを構築しています。また、商用電力が断絶した状態でも非常用発電機により再稼働し、再稼働後はごみを燃料にして発電することで自立運転が可能な施設となっています。
さらに、停電だけでなく東日本大震災時に発生したインフラ断絶、外部からユーティリティが得られない状況下でもごみ処理を1週間程度継続することができるよう対策を行っています(表1)。
項目 | 対策 |
---|---|
電気 | 停電時も焼却炉立上下げが可能な非常用発電機容量を確保 |
上水 | 井水処理設備により用水を確保 |
下水 | 排水クローズド運転(場外排出なし)に切替え可能なシステム |
燃料・薬品 | 施設内に備蓄(1週間分) |
(2)市民が安心して避難できる避難所機能
市の「指定避難所」として、最大320人の市民が1週間避難するために必要なスペースと食料品等を備蓄しています。ごみ発電および非常用発電機から電力を供給することにより、空調完備の居室、シャワー、風呂、IH調理設備等が利用できます。また、上下水道の断絶も想定した施設設計とするなど、過去の震災経験をもとに、様々な被害を想定した対策を行うことで、災害発生時に市民が安心して避難できるようにしています。
【写真2】 空調を完備した大研修室
【写真3】 災害時は市民も利用可能な浴室(電気給湯)
4 地域の安全・安心をまもる ソフト面の取組み
これまでのごみ処理施設は、災害時に避難者を受け入れる体制が整っていませんでした。また、避難者を受け入れた経験もないため、受け入れまでに多大な時間と労力がかかり、混乱も生じました。本施設では、官民NPOと市民による連携体制の構築や、独自の事業継続計画(BCP)の策定、毎年の訓練などを通じて、円滑な避難所運営を行うための取り組みを行っています。
(1)官民NPOの連携体制
今治市と、本施設を運営する今治ハイトラスト(SPC)、NPO今治センター(地元NPO)があらかじめ連携体制を構築することで、災害時に課題となる人員不足や経験不足をクリアし、安定したごみ処理、避難所運営を行う万全の体制を整えています。
さらに、フェーズフリーの概念のもと、平常時からイベント開催などを通じて協力し合うことで、非常時にもスムーズに連携がとれるよう工夫しています。
【図4】今治市クリーンセンターの連携体制
(2)独自の事業継続計画(BCP)
災害発生時、被害を最小限に抑え、早期に復旧させるため、独自の「事業継続計画(BCP)」を策定し、災害発生時の重要業務である「可燃ごみ処理」「避難所機能」の両方を継続できるようにしています。
本施設のBCP は、今治市のBCPを踏まえ、市とSPCが協議を行いながらともに作り上げたものであり、災害時に同調して行動できるようになっています。
(3)市民参加型訓練を毎年実施
避難所運営には、市民の協力も欠かせません。そこで、本施設では市とSPC、地元NPOに加え、地元住民も共同して、「避難所開設訓練」や「炊き出し訓練」など防災に関わる様々な訓練を毎年実施し、清掃工場を架け橋とした地域の防災の絆を築いています。さらに、毎年の訓練から改善を行うことで、個々の対応能力を向上するとともに、連携体制を強化しています。
【写真4】避難所開設訓練の様子
5 「地域に親しまれる施設」を目指した取り組み
防災拠点としての充実した機能もさることながら、平常時にも多くの方々に本施設の機能をご利用いただいています。
大研修室は、バドミントン、バレーボール、卓球などで利用され、その他諸室においても、地元NPOのイベントやダンスの練習などで、多くの市民が訪れています。
また写真5は、本施設で毎年開催されている「いまばり環境フェスティバル」の様子です。メイン会場となったプラットホームでは、砂絵ライブパフォーマンスをはじめ、リサイクルフェア、環境に関わる企業・団体のブース出展などがあり、さらに施設外周道路でも、自転車や、使用済み天ぷら油を燃料としたバイオカートなど、環境に配慮した乗り物の乗車体験が実施され、多くの子供や家族連れで賑わいます。
このように、平常時においても、地域交流の場として活用され、年間2万人以上が訪れる「市民の憩いの場」となっています。まさに「”いつも”と”もしも”の両方=「フェーズフリー」で地域に貢献する施設」となれたのではないかと感じています。
【写真5】いまばり環境フェスティバルの様子
6 さいごに
今回ご紹介した「ハード・ソフト両面での防災の取り組み」や「フェーズフリーの取り組み」が、今後日本全国において、強靭でかつ地域に新たな価値を創出するごみ処理施設を検討する上での一助となれば幸いです。また、本施設の取り組みにご興味・ご関心のある方は、是非見学にお越しください。皆様のお越しを心よりお待ちしております。