平時の対策を知る対策とは?Pre-disaster preparedness actions 平時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

「災害廃棄物への対応と廃棄物・リサイクル分野における気候変動適応策」

一般財団法人日本環境衛生センター、パシフィックコンサルタンツ株式会社

2021年2月

目次

  1. はじめに
  2. 気候変動適応策と緩和策
  3. 災害廃棄物分野における適応策の考え方
  4. 適応策の優先順位
  5. 気候変動対策の実行に向けて
    謝辞

1. はじめに

 現在、2021年1月に本稿を作成しておりますが、昨年末及び昨週末には日本海側を中心に大雪に見舞われ、関越自動車道や北陸自動車道が通行止めになるなどのニュースが駆け巡りました。このことは偶然の気象現象と考える方もおられるでしょうが、気候変動適応策の検討では豪雪についても扱っており、我々としては気候変動影響ではないかと感じる現象でした。以下、主観も含みますが、災害廃棄物への対応と廃棄物・リサイクル分野における気候変動適応策について考えてみたいと思います。

 まず、我々と廃棄物・リサイクル分野における気候変動適応策の関わりについてですが、一般財団法人日本環境衛生センター(以下「当センター」という。)は、平成29年度から令和元年度までの3年間、環境省から「廃棄物・リサイクル分野における気候変動影響の分析及び適応策の検討業務」を受託し、「廃棄物・リサイクル分野における気候変動適応策ガイドライン(以下「適応ガイドライン」という。)」を策定しました。実施体制は、当センターの廃棄物・リサイクル分野と衛生害虫(ハエ、蚊など)に関する担当部署及び、気候変動適応分野では欧州が先行しており、その知見が有用と考えらえることから欧州等の先進事例の知見を有するパシフィックコンサルタンツ株式会社にも加わっていただくものとしました。

2. 気候変動適応策と緩和策

 気候変動への「適応策」という言葉は聞き慣れない方もおられるかもしれません。よくニュースなどで耳にする温室効果ガスの排出削減に向けた取組は気候変動影響の「緩和策」といわれるものです。ただし、気温の上昇、大雨の頻度の増加、農作物の品質低下、動植物の分布域の変化、熱中症リスクの増加など、気候変動及びその影響が全国各地で現れており、今後、緩和策を最大限講じたとしても、これらの影響は長期にわたり拡大するおそれがあります。このような、既に起きつつある、あるいは将来起こり得る気候変動の影響に対処し、被害を回避・軽減する取組が必要不可欠となってきており、こうした取組は気候変動への「適応」と呼ばれています。気候変動に対応するためには、この「緩和」と「適応」を車の両輪として共に進めていくことが必要とされています。

緩和と適応

図1 緩和と適応
出典:環境省

3. 災害廃棄物分野における適応策の考え方

 我が国における気候変動影響のひとつとして、全国各地で毎年のように発生する大規模自然災害が挙げられ、近年、大雨や台風による廃棄物処理施設への被害も報告されています。令和2年12月に公表された政府の「気候変動影響評価報告書」では、将来、気候変動が進行すれば、施設の被害・損傷、適正処理の維持の困難等による社会・経済面への影響が大きくなることが予測されており、気候変動による廃棄物処理も含めたインフラ・ライフラインへの影響は重大であり、緊急性も高いと評価されています。

 大規模自然災害に対する廃棄物・リサイクル分野の気候変動適応策は、中間処理施設及び最終処分場の強靭化や災害廃棄物処理計画の策定などと重複します。そうであれば、わざわざ同じ対応を異なる視点で位置付ける必要はないのではないかとも考えられます。実際、適応ガイドラインでは、第三編において具体的に考えられる気候変動影響とその適応策について記載していますが、これらは廃棄物処理施設の強靭化などで整理されているものを参考に記載したものです。しかし、災害廃棄物への対応は「備え」の意識が強いように感じますが、廃棄物・リサイクル分野における気候変動適応策として検討する場合は、前述のとおり気候変動対策として講じるものであり、緩和策で温室効果ガスを削減して将来の地球環境をよりよくしようとするのと同じように、「未来をどう良くしていくか」という視点での対応と言えるのではないでしょうか。

自然災害による影響と適応策例-1

図2 自然災害による影響と適応策例-1
出典:適応ガイドライン(p89)(環境省)

自然災害による影響と適応策例-2

図3 自然災害による影響と適応策例-2
出典:適応ガイドライン(p90)(環境省)

 廃棄物・リサイクル分野における気候変動適応策を検討する3年間で、「適応を考えることは緩和の意識にもつながる」ように感じました。「今後○年で、△℃上昇するから温室効果ガス排出を抑制しなければならない。」と言われたとしても、それがどういうことなのか実感しにくいように感じます。適応策を検討すると、「どのような影響が生じるのか」、「そのためにどのような対策(適応策)を講じる必要が生ずるのか」を考えます。このことによって、気候変動を抑制するための「緩和」の必要性も身近に感じられます。

 例えば、「気候変動によって想定を上回るような大雨が発生し、ごみ処理施設が浸水するなどして処理の継続が脅かされるような影響が考えられ、電源設備の上層階設置などの対策が必要となるが、既存施設で大掛かりな工事を実施することは容易ではなく、土のうの準備などの応急措置によって対策を講じることとなる。」といった、具体的な検討を行うことで、気候変動影響が我々の日常生活を脅かすリスクに対し抜本的に対策を講じようとすると大きな負担が伴うことを実感し、気候変動影響を抑制するための緩和についても意識が高まるのではないかと考えます。

 緩和と適応は車の両輪に例えられ、ともに進めていくことが必要とされていますが、実務レベルで考えると、緩和と適応は別々に検討されているように感じます。主観ではありますが、最近では、両輪として進めるのであれば、適応をひとつ整理したら緩和もひとつ整理するくらいの意識があっても良いのではないかと感じるものです。

4. 適応策の優先順位

 実務的な視点で適応ガイドラインのポイントについて一点触れると、適応ガイドラインでは採用すべき適応策の優先順位について記述しました。これは、財政面も考慮しつつ、重要なポイントをおさえる考え方であると理解しています。最優先すべきは「(1)すでに起きている影響」であり、次に優先すべきは「(2)将来起こり得る影響(そのうち優先度の高いもの)」と順位付けを行いました。災害廃棄物への対応は、近年全国各地で毎年のように発生している大規模自然災害への対応と考えると「(1)すでに起きている影響」とも考えられますが、当該地域において実際に被害が生じていなければ「(2)将来起こり得る影響(そのうち優先度の高いもの)」とも考えられ、それらの中間に位置づけられるものかもしれません。

 昨今、災害廃棄物処理に関する議論が増えてきていますが、「いつ起こるかわからないものにどの程度本気で取り組んだらよいか」、「大規模自然災害は当該地域では起きにくいのではないか」、「優先すべき課題が他にもたくさんある」など、どの程度対応するかはジレンマを抱えた難しい問題であると思います。

 適応ガイドラインでは「2.9 適応策実施に当たって留意すべき事項」として、適応策にはただちに実施可能な適応策と、実施するまでに時間がかかる適応策があることについて言及しています。その中では、ただちに実行可能な適応策は、できるだけ早く実行し、適応策の効果をモニタリングすることにより検証することが重要、また、実施するまでに時間がかかる適応策は、計画から実施までのスケジュールを検討する必要があると整理しています。例えば、施設整備に関連する適応策であれば、施設整備計画に適応策を反映させると、実行までのプロセスがイメージしやすくなります。このように、ただちに実行可能なものと、将来実行すべきものを検討することから着手しても良いのかもしれません。

廃棄物・リサイクル分野における気候変動影響の優先順位確認フロー

図4 廃棄物・リサイクル分野における気候変動影響の優先順位確認フロー
出典:適応ガイドライン(環境省)

5. 気候変動対策の実行に向けて

 地球温暖化や気候変動への対策は、将来世代に対する責務の一つで、取り組まなければならない大きな課題と考え、是非とも、可能な範囲で検討を行っていただきたいと考えます。

 当センターとしても災害廃棄物処理計画、施設整備計画などで「気候変動適応策」や「気候変動緩和策」の検討を行うメニューを、「人」や「財源」の事情にも柔軟に対応できるものとして考えていきたいと考えています。

 廃棄物・リサイクル分野の気候変動適応策の検討は、災害時の対応で考えられているように必ずしも市区町村の廃棄物・リサイクルの担当者だけで取り組む内容ではないように感じます。これまで、いわゆる「縦割」という組織体制を取って業務範囲を整理することで効率化や責任範囲の明確化が図られてきましたが、複数分野の部署の協働や官民の連携など、横串の取組が必要な課題が多くでてきており、その対応を確立できる組織が今後発展していくように感じます。適応策への取組もそのひとつと考えられ、将来世代に向けての手腕の見せ所のように感じます。適応ガイドラインは環境省のウェブサイトから閲覧可能です。

https://www.env.go.jp/press/files/jp/112999.pdf

記載内容や考え方がみなさまの日常業務や取組に役立ちましたら幸いです。

謝辞

 適応ガイドラインの策定にあたっては、検討会(座長:大迫政浩国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター長)を立ち上げ、何度も御議論いただきました。また、多くの地方公共団体、(一社)日本環境衛生施設工業会などの関係団体の方にヒアリングをさせていただくと共に、全国の地方公共団体のアンケート調査で多大なる御協力をいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。

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