埼玉県環境部資源循環推進課一般廃棄物・リサイクル担当 主任 黒岩 努
2017年3月
事務局からの取組み紹介
地震、水害などの大規模災害時に短期間に大量に発生する災害廃棄物の処理を疑似体験し、県、市町村、一部事務組合等が連携して迅速的確な処理方法を理解することを目的に、埼玉県では平成28年度、県内を4ブロックに分け災害廃棄物処理図上訓練を以下の要領で実施しました。
表 平成28年度埼玉県における災害廃棄物処理図上訓練の開催概要
※プログラムの詳細については埼玉県ホームページをご覧ください。
状況対応図上演習とは?
状況対応図上演習は、参加者が6~12名程度のグループに分かれ、仮想都市の廃棄物部局職員として、災害時に発生する様々な課題に対する対応策を一定の時間制限の中で考え、判断する演習です。付与される課題は「状況付与」と呼ばれ、演習中に付与される状況付与一式のことを、本文中では「状況付与シナリオ」と呼んでいます。 図上演習には、研修参加者(プレイヤーと呼びます)のグループのほか、プレイヤーに課題を付与したり、プレイヤーからの問い合わせに回答したりする、コントローラーと呼ばれるグループが必要となります。また、プレイヤーグループでの議論を支援する人のことをファシリテーターと呼びます。
この図上訓練の開催にあたり、県担当者は右図のようなスケジュールで準備・実施・取りまとめを行ったそうです。本稿では、訓練実施にこぎつけるまでの担当者のリアルな苦労話・裏話を時系列でご紹介したいと思います。
実施担当者からの苦労話とメッセージ
本県では、実効性のある災害廃棄物処理計画(本県での名称は「災害廃棄物処理指針」)を策定するにあたり、行動を通じて災害廃棄物対応に係る課題を発見し、計画策定過程に反映させる必要があると考え図上訓練を立案しました。また、図上訓練はまだ実施例が少ないため、アピールにもなると考えました。
予算措置(平成27年8月~平成28年3月)
平成28年度の新規事業として、災害廃棄物処理計画の策定と図上訓練を要求。(財政当局の理解があり)要求どおり認められた。
県幹部への説明(平成28年6月中旬~7月)
図上訓練の実施について知事に報告した。知事も災害廃棄物対策に関心を示し、「しっかりやるように」という発言まで出た。これを受けて部内でも訓練実施に向けた機運が急上昇した。
専門家への協力要請(平成28年7月~9月)
具体的な図上訓練の共通認識を図るため、課長を交えて担当スタッフ(以下、「事務局」)内で兵庫県や三重県の事例を参考に、訓練の目的、当日のプログラム等、粗々の企画案を作成し、訓練のアウトラインを議論した。
そのうえで議論をもとに仕様案を作成し、図上訓練受託実績のあるいくつかの業者に相談したが、どこも「手一杯」等々で断られてしまった。
関東ブロック協議会での縁を頼りに、最後の砦として廃棄物・3R研究財団(以下、「3R財団」)に相談したところ、ここも「リソースがない」との回答であった。最後の砦も期待できず、全部自作するしかないと半ば覚悟を決めた。
ところが3R財団は本県を完全に見捨ててはいなかった(と思う)。
3R財団から「国立環境研究所に相談してみては」との示唆をいただき、予め国立環境研究所へ図上訓練に対する本県の想いを伝えていただいたうえで、私から国立環境研究所へ相談した。そうしたところ、「相談には乗る」旨の返事をいただき、3R財団にも参加いただいて早速打合せをセットした。
打合せでは、「目的を明確にすべき」「十分なスタッフが必要」「中長期スパンでの目標設定」「事前学習が必要」など、アドバイスのようで実は「図上訓練の実施は簡単ではないぞ」と訓練を諦めさせる方向での問いかけが投げかけられた。
しかしそこで怯むことなく、当課として考える訓練目的、プログラム案、実施規模等を具体的に説明し、議論の末、3R財団から「兵庫での状況付与シナリオに準ずるのでよければ、状況付与シナリオの作成だけは引き受けてもいい」旨の発言をいただいた。この発言が大きな原動力となり、この後の訓練準備が本格化した。
日程・会場の確定、会場の下見(平成28年8月~)
主要な関係者への事前情報提供に留意しつつ、日程、開催場所を入念に検討し決定した。
資料作成(平成28年9月下旬~訓練当日)
状況付与シナリオの作成は3R財団に委託したが、状況付与シナリオ以外の各種ボリューミーな資料は、図上演習の実績がある兵庫県(8月にヒアリングに出向いた)、三重県の資料を参考にさせていただく形で事実上ほぼフルスクラッチで怒涛の勢いで作成した。グループリーダーや課長等の意見等も当然反映させた(PC操作は得意との自負があるが、これが実に○△※・・)。
一方で、仮想市町の名称や地図上の道路名、施設名を考える作業は思い切り遊んだ。その他、訓練各回の直前には、参加者名簿や会場配置図、班分け名簿等も作成した。臨場感を演出する小道具としては、テレビ画面のようなL字画面を自作した。
資料の一部。作成は大変でした
仮想時計付き 自作L字画面
関係者への協力依頼(平成28年9月~11月)
コントローラー、プレイヤーの議論を補助するファシリテーター、講演者、訓練目的説明者等々、多くの協力者が必要なため、課長の強い指示で訓練当日は留守番要員数名を職場に残し大部分の職員を訓練に充てるようにした。それでも到底足りず、ファシリテーターは竜巻災害等で災害ごみ処理の経験がある市町職員にお願いした。また、(本県訓練の特徴の一つ)埼玉県環境科学国際センターの廃棄物分野の研究員や産廃担当課職員、防災担当課職員、開催地を管轄する環境管理事務所職員にもお願いした。講演・目的説明・講評は、環境省関東地方環境事務所(第1,3,4回)、国立環境研究所(第1,4回)、3R財団(第1回)、そして大きな水害を経験した茨城県常総市(第2,3,4回)の職員にも御協力いただいた。一般廃棄物連合会、環境産業振興協会(産廃の協会)の民間事業者にもオブザーバー参加いただいた。
コントローラーだけでこれだけ必要
予習資料の作成委託・ロジ委託(平成28年10月~平成29年2月)
災害廃棄物分野の図上訓練は、本県では初めての試みであったため、参加者に訓練のイメージを事前にどのように伝えるのかが課題であった。当初は訓練前に全市町村・組合を集めて事前学習会を開催することも考えたが、訓練第1回目の日時が迫っており、それも困難であった。
予習用DVD
そこで、既存の訓練動画素材を加工し自作で予習用DVDを作り、参加者に事前送付して予習してもらおうと考えたが、「実際の訓練」を素材にして作ろうとの周囲の声に押され、10月31日の兵庫県訓練を撮影させてもらい、これを素材にDVDを作ることとした(撮影とDVD作成は業者委託)。
とはいえ、そう決めたのは10月第2週頃。兵庫県訓練が10月31日、本県第1回訓練が11月30日というスケジュールの中で、DVD作成とロジ(訓練に必要な資料の印刷、文房具(買取り)、訓練の手伝いスタッフ(2名))等々含めた委託の入札をかけて業者を決め、兵庫県等から撮影許諾を得、撮影を行い編集し、完成版を必要数プレスし参加者に事前に配るのは実に大変で、まるで綱渡りのような心地が続いた。
記者発表(平成28年10月下旬~11月中旬、平成29年1月)
記者発表は資料提供と記者へのレクチャーを行った。10月下旬から資料作成を始め、第1回訓練の10日前に発表した。
参加者の募集(各訓練日1か月前~各訓練日3日前に締切)
担当課あての通知と、首長、管理者への視察を呼び掛けるため首長・管理者あての通知を発送した(結局、首長等の視察はなかった)。参加を強く促す意味で、出欠の回答様式にはあえて「欠席」という選択肢は設けず、「参加者欄」に参加者の職位と氏名を書かせるだけとした。
事前説明会・直前打合せ(平成28年10月中旬・下旬)
コントローラーとファシリテーターで訓練の進行イメージを共有するため、第1回訓練の2週間前に状況付与シナリオ、状況付与の狙い、留意点などについて説明会を行った。
また、念押しのために課内協力者への最終的な説明を訓練2日前に行ったが、この期に及んで「うまく行くのか?」と言われた私は「うまく行くも行かないも、うまく行くようにやるしかない!」と思わず言い返す場面もあった。
訓練
<様子の概要は本県 ホームページ に掲載>
訓練当日は会場設営と撤収に十分な時間が取れないため、とにかく早い設営、撤収に気を遣った。机の配置、名簿にない参加者来場への対応などの様々な指示を求められ、大忙しだった。
実施結果の分析(平成29年2月)
図上訓練終了後、訓練中にやりとりした問合せ・対応票の整理にとりかかった。しかし、状況付与と対応が一対になっていると限らず、迷子の対応票や脈絡不明の対応票、書き方を間違えている対応票が意外と多く、その整理は手間だった。くどいくらいに問合せ・対応票の書き方を説明しておく必要があることを痛感した。
問合せ・対応票のやりとりをエクセルでまとめるため、延々黙々とPCに向き合いながら作業を進める一方、アンケートの集計も行わねばならず、訓練が終わった後も大変だった。ただ、アンケートの回答自体は信じられないくらい好意的な内容で、これには救われた。
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次回にむけて~実施担当者からのメッセージ~
県の幹部からは非常に好評価であったが、初めての実施ゆえに至らぬ点も多々あった。状況付与シナリオ作成やロジ委託をしてもなお、膨大な作業や調整を(図上訓練以外の通常業務も進めながら)ほんのわずかな事務局職員で担うのはさすがに手強いと感じた。
とはいえ、「予算がとれない、(本県同様に)人的リソースがないから難しい」という言い訳はせず、やり抜く意志を持って広く協力者を求めれば、訓練実施へのスタートラインには立てると思う。
訓練の結果として、市町村や一部事務組合、研究機関や民間事業者団体と県との絆が太くなったのも嬉しい効果だった。「やってよかった、内容を深化させ継続したい」と思っている。