奈良県
2017年5月
目次
はじめに
1 スケジュールとねらい
2 事業内容
(1)災害廃棄物対策連絡会/(2)第1回教育・訓練/(3)第2回教育・訓練/(4)奈良県災害廃棄物対策評価・研究会
3 実施における成果と課題
4 今後の取組
はじめに
奈良県では、平成23年9月に県南部を中心に大きな被害をもたらした紀伊半島大水害において、県内市町村・関係団体等から協力を得て、災害廃棄物処理の広域的支援を行ったことを教訓に、県・全市町村との間で「災害廃棄物等の処理に係る相互支援に関する協定書(平成24年8月)」を締結し、災害発生時相互支援スキームを構築しました。
さらに、平成27年度には、奈良県で発生が想定される大規模災害時における災害廃棄物を、迅速・円滑かつ計画的に処理するための基本的な方針を示した、「奈良県災害廃棄物処理計画(平成28年3月)」(以下「県計画」とする。)を策定しました。
この計画を策定する中で、県においても、「奈良盆地東縁断層帯地震」や「南海トラフ地震」等の大規模災害時に大量の災害廃棄物の発生が見込まれることや、歴史的建造物等が多く、仮置場の確保が困難となることが予想されるなど、数多くの検討すべき課題が見つかりました。
そこで、平成28年度は、この県計画に基づき、平常時からの備えの一つとして、県・市町村合同による「教育・訓練」を行いましたので、その紹介をさせていただきます。
1 スケジュールとねらい
平成28年度は、下表のとおり複数回の教育・訓練を県・市町村合同で実施しました。
災害廃棄物分野における教育・訓練は本県で初めての取組であり、また全国的にも発展途上の分野であることから、災害廃棄物処理に精通された専門家の方々、被災自治体職員、国、廃棄物コンサルタント会社等の協力を得ながら企画・実施しました。
実施にあたっては、(1)各主体の対応能力の向上、(2)広域的な相互支援体制の整備、(3)市町村における災害廃棄物処理計画の策定促進を図ること等を目的にカリキュラムを編成しました。
〇スケジュール概要
2 事業内容
(1)災害廃棄物対策連絡会
本連絡会は、県・市町村の災害廃棄物担当部課長を構成員として、市町村災害廃棄物処理計画の策定促進を図るとともに、県・市町村合同の「教育・訓練」の計画・実施や広域的な相互支援体制の整備等を進めるため設置しました。
平成28年度は、県計画の周知及び県の取組について情報共有を図るとともに、平成28年4月に発生した熊本地震への対応状況や国の取組について、環境省近畿地方環境事務所災害廃棄物専門官の若林様に説明いただきました。
全体風景
(2)第1回教育・訓練
午前・午後の2部構成で、県・市町村職員合同で実施しました。
午前の部では、県から県計画を活用して今後の取組について説明するとともに、国立環境研究所客員研究員の高田光康様を講師に迎え、過去の大規模災害事例から、災害廃棄物処理の基礎や事前の備えの重要性等について、座学形式にて理解を深めていただきました。
午後の部は、茨城県常総市市民生活部生活環境課課長補佐の渡邊高之様を講師に迎え、平成27年9月に発生した関東・東北豪雨における災害廃棄物処理の教訓をもとに、たくさんの写真により災害廃棄物処理の過酷さと事前の備えの大切さ等について伝えていただくとともに、【ミニ演習】として、「災害等廃棄物処理事業費補助金」に関する問題を2問提供いただき、グループワーク形式で検討を行いました。
高田氏による講義
渡邊氏による説明
グループによる回答
(3)第2回教育・訓練
地勢条件等が異なる県の北部と中南部を2つのエリアに分けて、名古屋大学准教授の平山修久様を講師に迎え、災害廃棄物処理計画の策定・見直しを行ううえで検討すべき事項をそれぞれの市町村で考えていただくため、初動対応と仮置場の確保・運営等について、グループワーク形式にて状況付与型演習を行いました。
状況付与型演習では、発災時に災害廃棄物処理担当部局が直面する具体的な場面を3つ想定し、参加者それぞれが回答を選択した後、グループでなぜその回答を選んだのか、またその場合のメリット、デメリットについて議論しました。
【状況付与型演習の内容】
(1)防災部局から、避難所支援を行って欲しいとの打診があった。
(A)避難所支援に職員を派遣する
(B)避難所支援に職員を派遣しない
(2)災害対策本部長から災害廃棄物の分別についてどうするのか求められた。
(A)災害時の特例とする
(B)通常通りの分別とする
(3)災害対策本部長から、災害がれきを市街地から早急に撤去するよう指摘された。
(A)時間がかかっても分別を徹底
(B)リサイクルは考えず業者に委託
回答について議論(A・Bの札を選択)
また、グループワークでは、以下の手順により、災害廃棄物処理担当部局が発災後72時間以内と、72時間以降にすべきことの二つの時間軸に分けて検討・整理し、整理した内容から災害廃棄物処理計画を策定・見直しする中で検討すべき事項について抽出し、計画の目次を作成していただきました。
【グループワークの手順】
(1) 発災後72時間以内にすべきことを各自検討し、項目ごとにグループで整理
(2) 「仮置場に片付けごみが次々と搬入され一杯になりそう」という状況を付与し、今後すべきことについて各自検討・整理
(3) (1)(2)で抽出された項目について、時間軸・機能軸(ひと、資源管理、情報、広報、調整、庶務財務)で整理
(4) 整理された内容から計画に記入すべき重点事項を抽出・整理
(5) 各グループから発表
模造紙へのとりまとめ成果
〇市町村グループによる計画目次(全グループのとりまとめ)
(4)奈良県災害廃棄物対策評価・研究会
教育・訓練に参加した県・市町村職員及び講師として実施に携わっていただいた国や専門家の方々とともに、それぞれの取組について情報共有を図るとともに、平成28年度の実施内容を総括するための意見交換ワークショップを開催しました。
意見交換ワークショップでは、教育・訓練を受けたことにより得られた成果や今後の課題、課題に取り組むにあたって支障となること、また支障を取り除くための解決策等を各グループで検討・発表することにより、これからの災害廃棄物対策への取組課題について共有しました。
発表では、「事前の準備の大切さや、やるべき事が見えてきた」、「防災部局と検討を行った」、「仮置場の事前の検討、発災時の迅速な設置の重要性を把握した」、「これから災害廃棄物処理計画の策定に着手していく」といった成果とともに、「防災部局を巻き込んだ教育・訓練が必要である」、「同一人物が教育・訓練に参加できる体制を作る」、「災害発生前後での住民へのごみの排出(分別)方法の啓発・広報について考えなければならない」といった課題についても多く抽出されました。
グループ検討
グループ発表
3 実施における成果と課題
参加した市町村から、教育・訓練を履修した後、「災害廃棄物処理計画の策定を行っていく」、「防災部局と話し合った」、「地域防災計画の災害廃棄物の部分について検討した」、「災害時の広報について検討を進めていく」といった声があり、災害廃棄物対策の重要性が深く理解され、意識の向上につながっていると感じます。
その他に、全ての日程で、ワークショップ形式を取り入れたことにより、参加者が積極的に発言し、かつ、他の人の多様な意見を聞く機会とすることができたと思います。
ワークショップに関する参加者からの意見・感想
- ワークショップ方式により、他市町村及び県の多様な意見、自分と違う意見を聞くことができて参考になった。
- 多数で議論することにより、すぐれたアイデアが出てくる。
- 具体的に何をするかなどを参加者同士で討論できた。問題点などが抽出できた。
- 同じ課題に対して、異なる意見・考え方があることが確認できた。様々な意見があり参考となった。
- しっかり議論することの大切さがわかった。
- ワークショップは、災害廃棄物の処理までの流れを整理するうえで大変有効な方法であると感じた。
- 限られた時間内であったが、ワークショップを通じて初動についてイメージが持てた。
- 時系列や見る角度によって判断に違いが出るということがわかった。
- 臨機応変な対応が常に必要と思った。
一方、抽出された課題のうち、災害廃棄物対策を行う人材の不足問題について多く意見が挙げられました。複数の業務を掛け持ちしていることにより、継続的に同一の職員が教育・訓練に参加できないことや、参加して災害廃棄物対策の重要性に気付いたものの、他業務に忙殺され集中して対策を進められないということが多く挙げられました。
この対策として、専門家からは、各首長に災害廃棄物対策の重要性を認識してもらい、人員や予算を確保できるよう働きかけを行っていくことが重要であるとの意見が得られました。
また、教育・訓練内容については、基礎的な知識の習得や事前の備えの重要性については十分に理解できたが、推計方法や実効性の高い計画策定のためのスキルや知識を身に付けたいといった意見もあり、教材とワークショップ手法のさらなる充実が必要であると感じました。
4 今後の取組
県では、平成28年度に実施した教育・訓練等を通して得られた課題等を総括し、より効果的な災害廃棄物対策の推進を図って参りたいと考えております。
平成29年度は、前年度に受講できなかった職員や新たに担当となった職員を対象として、引き続き、基礎編を実施するとともに、受講済の職員を対象にした実践的な訓練について計画しています。
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