栃木県環境森林部廃棄物対策課 災害等廃棄物対策チーム 加藤安秀
2018年10月
目次
1.はじめに
2.被災の経験から対応マニュアルの策定まで
3.研修・訓練パッケージによる市町等への支援
4.初動対応訓練
5.市町等担当者意見交換会
6.終わりに
1.はじめに
栃木県では、災害廃棄物の処理を担う市町・一部事務組合(以下、市町等)担当者を対象として、本県が策定した市町等担当者向けの対応マニュアルを活用して、ほぼ経費をかけず、県直営で研修パッケージを企画・運営し、対応力のステップアップ支援を行っていますので、その取組内容をご紹介します。
2.被災の経験から対応マニュアルの策定まで
栃木県においては、近年、東日本大震災、平成27年9月関東・東北豪雨など大規模な災害が発生し、被災した市町等では災害廃棄物の処理に大変な苦労を強いられました。
その経験を踏まえて、市町が、起こりうる災害に合わせて平時の備えを行い、スムーズに災害廃棄物の処理に取り組めるよう、栃木県では、平成29年3月に、平時と発災時に取り組むべき内容や手順を具体的に示した市町等担当者向けの「災害時の廃棄物処理対応マニュアル」を策定しました。
【策定のポイント】
このマニュアルは、平時・発災時において、市町の担当者が手にとって使いやすいものとするために、次のことを留意・工夫した内容としました
- 市町等の担当者との意見交換を重ねながら記載内容を検討し、自前(ゼロ予算)で策定
- 平時のうちに準備できることにも重点を置き、「0章」を設けて記載
- フェーズごとに何を行うかを明確にするため、各項の冒頭に対応の概要を簡潔に記載
- 実際の経験で得たノウハウを継承するため、優良・失敗事例などをコラムで掲載
↑市町等担当者向け「災害時の廃棄物処理対応マニュアル」
(この画像をクリックすると拡大したPDFファイルが開きます)
3.研修・訓練パッケージによる市町等への支援
過去の災害から時間が経過し、市町等において実際に対応した職員が異動していく中、業務に精通していない新任者をはじめとした担当者の育成と、組織内における平時の備えへの取組を促すため、前述の対応マニュアルを活用し、年間を通じて段階的に研修・訓練を実施することにより、市町等における対応力のステップアップ支援に取り組んでいます。
【研修・訓練パッケージ】
(1)市町廃棄物関係会議等を活用した啓発 | 5月 | ○市町等が参集する会議等の機会を活用して、新任者等を対象に、災害事例の紹介を通じて意識啓発を行うとともに、年間研修計画を提示し、市町等担当者の継続的な参加を促す |
(2)災害時の廃棄物処理対応研修会 | 6月 | ○対応マニュアルを基に、平時の備えと発災後の初動対応における基礎的事項を確認する |
(3)初動対応訓練 | 8月 | ○「仮置場」「住民周知」などのテーマで机上訓練(グループ討議)を行い、災害時の廃棄物処理業務への理解を深める |
(4)市町等担当者 意見交換会 |
1月 | ○市町等担当者が一堂に会し、平時の備えについて、各自治体の取組状況や課題について意見交換を行い、自らの取組の参考としてもらう |
以下では、(3)と(4)の取組についてご紹介します。
4.初動対応訓練
研修というと講義が中心となり受け身になりがちですが、個々の職員が対応力を高めていくためには、災害時を想定してシミュレーションを行う中で、担当者一人ひとりが課題解決に向けて考えるというプロセスが非常に重要となります。このため、環境省関東地方環境事務所・宇田巨大災害廃棄物対策専門官の御協力をいただき、初動対応訓練という名の「グループ討議型」の研修を実施しています。
【訓練プログラム】
- 前段に講義の時間(20分程度)を設け、専門官から最近の災害における対応事例を紹介いただき、平時の備えの重要性を説明します
- 訓練の部は、6名程度のグループに分かれ、架空の自治体が被災した想定に基づき、初動対応に関する設問に対してグループ討議を行います
- 1設問当たり概ね50~70分
(1)設問説明、(2)グループ討議(適宜、前段に個人ワークも含める)、(3)発表、(4)講評の流れで進行 - 設問のテーマは「住民等への周知」「仮置場の設置・運営」「収集運搬」など、全体で2~3問を設定します
- 1設問当たり概ね50~70分
↑被災想定を踏まえた設問
(この画像はクリックで拡大することができます)
【実施のポイント】
- 訓練を意義あるものとするため、参加者には、事前に対応マニュアルを配付し、当日までに通読するよう周知しました
- グループ編成に当たっては、災害時に支援・受援の関係となる可能性が高い近隣自治体同士をグルーピングし、災害対応の考え方を互いに発信・共有して、顔の見える関係性を構築する場としても活用してもらえるように考慮しました
- この訓練を通じて、参加者が平時の備えの重要性や対応時のポイントを再認識することをねらいとしていますので、グループ討議と講評における振り返りの時間を可能な限り確保するよう努めました
- グループによっては討議が進まない場合もあるので、専門官と県の職員でグループを巡回し、適宜、アドバイスや議論の交通整理などサポートを行いました
グループ討議
検討結果を発表
5.市町等担当者意見交換会
初動対応訓練では、災害時の廃棄物処理に関する意識啓発や、職場における平時の備えの促しに一定の成果がみられましたが、それでもなお、多くの市町等で、体制整備や仮置場・資機材の確保などに十分に取り組めていない状況があります。
そこで、取組を促進する一つの方法として、各市町等が個々の取組事例や課題を共有することが有効であると考え、市町等担当者における意見交換会を実施しています。
【意見交換のテーマ】
- 取組状況に関する事前アンケートの結果を踏まえ、次のテーマを設定しました
- 計画・マニュアルの策定、災害等の想定、仮置場の候補地選定、資機材の調達 等
- テーマごとに、既に取り組んでいる自治体から先進事例を発表し、取組に課題を抱える自治体が質問を行うなどして意見交換を進めます
意見交換内容の一例としては、- 仮置場の候補地選定において、どのように土地所有者や関係部局と調整したのか
- 被災の経験がないので、必要となる具体的な資機材が分からない など
【実施のポイント】
- 各市町等における取組状況や課題を事前に調査し、その結果を全市町・一部事務組合へ配付し、参加者とも共有しておきます
- 事前調査で各市町等から出された課題に対して、既に取り組んでいる市町等に、具体的取組事例や課題への対応方法について、事前に当日の発表を依頼しました
↑車座になって意見交換を行います
この取組により、先進している市町等が、悩みながら取り組んでいる他の市町等をサポートする形が生まれました。このような機会を継続的に設けることで、全県下の市町等の底上げにつながるよう努めたいと考えています。
6.おわりに
栃木県としては、今後、市町等への研修・訓練を継続しながら、市町等における災害廃棄物処理計画の策定へ支援を行うほか、民間連携を促進するために、県と災害廃棄物処理に関する協定を締結している民間団体と市町等との意見交換の機会を設け、災害時の具体的な協力事項等を確認する場を設けることを検討しています。
最後になりますが、栃木県で策定した市町等担当者向けの対応マニュアルや、研修・訓練の資料については、廃棄物対策課のホームページに掲載しています。訓練等の見学についても可能な範囲で受け付けています。皆様が対策を検討する際の参考となれば幸いです。