埼玉県環境部資源循環推進課
2021年3月
目次
1.はじめに
2.災害時対応に向けた基本的な方向性
3.平時の取組その1
(1)市町村災害廃棄物処理計画の策定及び支援
(2)風水害対策タイムラインの策定及び共有
(3)緊急連絡体制
(4)仮置場・トイレの確保
(5)協定の締結
4.平時の取組その2 図上訓練
(1)訓練の実施
(2)図上訓練(検討会方式)
(3)図上訓練(ロールプレイング方式・劇場型)
(4)伝達訓練+図上訓練(ロールプレイング方式)
5.発災時の基本的な方針
6.発災時の対応 台風19号の例を踏まえて
(1)直前準備
(2)初動業務(発災直後)
(3)現地支援
(4)技術支援
(5)課題
7.まとめ
1. はじめに
近年の自然災害の増加に対して、各自治体同様、本県においても災害廃棄物等の災害時における一般廃棄物の処理について平時からの取組を進めてきました。令和元年には、令和元年台風第19号(以下、「台風19号」という。)の被害を受け、県内外からの支援のもと対応にあたりました。これまでの平時の取組と発災時の経験を経て、平時の準備の重要性をより一層認識し、これからの体制整備に繋げていきたいと考えています。
本稿では、災害廃棄物対策において広域的調整機能を担う都道府県の立場から、これまでの取組等を紹介します。関係者間の問題意識の共有等を通じて、災害時における廃棄物部門の対応力向上の一助になれば幸いです。
2.災害時対応に向けた基本的な方向性
災害を含めた非常時の業務の遂行のため、平時の準備が必要です。
廃棄物部門における災害時の対応は、市町村が廃棄物等の直接的な処理を担い、都道府県が域内における広域的な処理の調整機能を果たすこととなっています。より具体的な内容は、各都道府県災害廃棄物処理計画に位置付けています。この計画を実行的なものにするには、関係者が計画の内容を理解した上で、各自の役割分担に基づき連動して行動していくことが必要になります。
3.平時の取組その1
(1)市町村災害廃棄物処理計画の策定及び支援
- 埼玉県災害廃棄物処理指針を平成28年度に策定し、県の業務等を定めるとともに市町村の計画策定の参考となる内容にしています。
- 市町村向け災害廃棄物処理計画(初期対応版)を作成し、仮置場候補地のリスト化等事前準備の必要最小限の項目を抽出し、作成例を添付しています。これは、担当者の少ない団体においても最低限の計画を策定できるよう作成したものです。
- さらに、市町村計画策定個別相談会を開催しています。市町村担当者の作成ノウハウの不足を補完し、負担軽減を図っています。
- 本県の市町村計画策定率は、平成30年度約30%、令和元年度約80%、令和2年度(中間11月末)86%です。同年度中に98%の市町村が策定見込みと回答しています。
図1・2 市町村向け災害廃棄物処理計画(初期対応版)(抜粋)
(これらの図は「市町村向け災害廃棄物処理対応マニュアル」よりご覧いただけます)
(2)風水害対策タイムラインの策定及び共有
- 台風19号への対応を受け、県及び市町村等が発災時前後に行う業務及び行動を時系列に整理し、共有しています。タイムラインとは、災害の発生を前提に、関係者が災害時に行う防災行動を時系列にまとめ、「いつ」、「何を」、「誰が」を明確にした、災害対応のスケジュール表のことをいいます。
- タイムラインの作成によって次の効果を意図しています。
- 実務担当者は「先を見越した早めの行動」、意思決定者は「不測の事態の対応に専念」を可能とする。
- 「関係機関の責任の明確化」、「行動の抜け、漏れ、落ちの防止」を図る。
- 作成過程やその後の訓練、検証を通じて関係機関間で「顔の見える関係」を構築する。
- 発災後「災害対応のふりかえり(検証)、改善」の実施を容易とする。
図3・4 埼玉県風水害対策タイムライン(本体) 行動リスト(部分)
(この画像はクリックで拡大することができます)
(3)緊急連絡体制
- 非常時は、様々な要因によって連絡を取ることが制約されることがあるので、各市町村等の緊急連絡先リストを常備し、また、県の緊急連絡先を定めています。
また、発災時等の定時連絡送受信のため専用メールアドレスを県は用意し、国通達等のその他の連絡への埋没を避けるようにしています。 - 4(3)の伝達訓練において上記アドレス等を使用し、非常時における状況報告や連絡先の確認等を行っています。
(4)仮置場・トイレの確保
- 発災初期に緊急に必要となるものは、あらかじめ確保の目途を有していることが必要です。そこで、仮置場及びトイレについて、県内の確保状況を毎年度集計し、県及び市町村等において共有しています。
- 例えば、仮置場は、令和2年度においては40市町村(63%)・4組合で候補地を確保しています。このほか県では、仮置場候補地の確保が十分ではない各市町村等に域内のオープンスペースのリスト化を研修等において勧めています。
(5)協定の締結
- 県及び県内市町村及び清掃関係一部事務組合間において相互支援協定を締結し、県内での広域支援を実施可能なように規定しています。
- 災害廃棄物等の処理に関する災害支援協定を関係団体と締結しています。埼玉県一般廃棄物連合会、(一社)埼玉県環境産業振興協会に加え、令和2年度から埼玉県再生資源事業協働組合、埼玉県解体業協会と締結しています。
- 協定を締結した市、組合、民間事業者と共同で災害廃棄物対策図上訓練を実施し、災害時の課題の共有等を図っています。
- 県は、これらの協定に基づき、廃棄物処理を単独では対応できない市町村等に人員の派遣や重機、トラック等の機材等の有する事業者の現地協力要請、稼働不能又は処理能力の不足する施設の代替先の確保等を行います。
4.平時の取組その2 図上訓練
(1)訓練の実施
災害時における対応力の向上を図るために、計画・マニュアル等に基づき、訓練を実施することが必要です。
訓練は、実施の目的や訓練参加者の練度等を考慮して必要な組立てを行います。近年は、現場で指揮を執る役付き市町村等職員向けの訓練を重視しています。
以下、本県において近年実施した訓練のうちいくつかについて紹介します。
(2)図上訓練(検討会方式)
ア 概要:
個別の論点、例えば、「仮置場の設置・運営」を実施する上での実務上必要な事項をグループ単位で検討し、発表する方法。市町村計画の策定率等災害廃棄物対応の総合的な理解度を考慮してグループごとに助言者を配置して進行の補助をしました。
図6 検討会方式アンケート結果概要 N=62(設問7番目のみN=59)
イ 訓練の狙い:
- 計画等で想定する「災害時の状況」を共有すること
- 自治体計画の重要事項の理解を深め、手順・段取り等を確認すること
- 事前に準備すべき事項の水準への理解を深めること
ウ 課題:
- グループ発表の前段階の討論時に具体的に意見が交わされるので、他の討論グループのそのやり取りを共有した方がよいこと。
- 迅速さが求められる災害時の対応速度の時間感覚が身に付きにくいこと。
(3)図上訓練(ロールプレイング方式・劇場型)
ア 概要:
災害時の対応事項を時系列に疑似的に体験するため、実災害の時系列から特定の時間帯を3時間単位で切り取り、訓練時間上30分に置き換えて再現しました(時間設定比1:6)。
プレイヤーをグループごとに交替して務め、コントローラー以外の参加者は、訓練進行シナリオ及び資料を見ながら、プレイヤーの対応を「観劇」しました。コントローラーは、当日の交替はしませんでした。
※時間設定比1:6の実例:
訓練では、実災害と比較して指示を受けてからの行動が、滞りなく実施できることや重要な行動以外の対応(例えば、電話の取次時間や依頼先からの依頼内容の再確認等)は進行の都合上、再現していないため、時間の進行を調整しています。例えば、(プレイヤーが)職員1名を公用車1台に乗せて30分先の現場に状況確認に向かわせる(と指示する)と、往復30分×2+現場30分、訓練時間では15分間、職員1名と公用車1台を別の業務に使えません。
図7 ロールプレイング方式・劇場型図上訓練進行概要
イ 訓練の狙い:
- 各種事象に対して、計画等にある事項を実行する上で必要な手順や段取りを疑似的に体験し、計画等に対する理解を深めること。
- 実行すべき事項の時間感覚を体験し、業務の優先付け等の非常時の業務遂行における考え方等への理解を含めること。
- 交替でプレイヤーを演じることで他参加者と自分の行動を比較して、行為の客観化を図ること。
図12 ロールプレイング方式・劇場型アンケート図上訓練結果概要2 N=40
ウ 課題:
- 前のグループのロールプレイが次以降グループに影響するので、各場面(各幕)の振り返り時間を十分にとり、設定状況の共有やプレイヤーの行動の修正を図る必要があります。
- 振り返りや全体の統制を行う統制役の役割が大きいので、練習等を積んでおく必要があります。
(4)伝達訓練+図上訓練(ロールプレイング方式)
ア 概要:
総合防災訓練の一環として、環境対策部門の情報伝達の手順を確認(伝達訓練)し、大量の情報を県において集約化・可視化を行います(図上訓練)。
図13 伝達訓練+図上訓練の概要
イ 訓練の狙い:
- 発災時の状況報告の手順の確認及び状況確認及び報告の意識づけ。
- 情報の集約・可視化の手順の確認と共有。
- 応援職員への作業指示方法等の確認。
ウ 課題
- 作業スタッフを指揮できる者を拡充すること。
- 他部門との連携を深めること。
5.発災時の基本的な方針
災害を含めた非常時の業務の遂行は、優先順位を決めて行う必要があります。具体的には計画等に定めていることが基本になります。時系列においての整理のためタイムラインを定めておくと便利です。現場指揮を執る者は、進行の遅れやイレギュラーに対してタイムライン等を修正しながら実際の行動を決めていきます。
実災害後には、それまでの計画等を修正していきます。現在のタイムラインは、令和元年台風第19号の内容を組み込んでいます。
県は、自団体の被害のほかに、広域調整の立場から、支援が必要な団体や支援すべき内容を確認し、適宜対処をしていくことになります。
6.発災時の対応 台風19号の例を踏まえて
(1)直前準備
気象情報等を確認し、市町村や協定先等へ直前の準備を要請します。また、発災後に備え、勤務体制の変更、執務室をオペレーション用に準備をしています。落ち着いて準備ができる最後の機会ですので、準備できるものはすべて準備しておくことが必要です。このときもタイムラインを定めておくと円滑に進めることができます。
(2)初動業務(発災直後)
発災当日の早い段階から、情報の収集にあたります。事前準備の段階で各団体に報告を求めていますが、被災が予想される団体で報告がない団体は、能動的に情報収集をします。
情報は一覧表、地図等に落とし込みます。地図は、市町村地図(1万5千分の1)及び全県地図(5万分の1)を用意しています。また、小道具として、パッカー車やトラックの消しゴム等のマーカーを用意しています。
情報整理の上、災害対策本部において報告し、現状の共有を図ります。
情報収集以外では、稼働不能施設の代替先調整や仮置場設置等の次の日以降に本格化するごみの排出に備えた行動が主になります。
(3)現地支援
被害が大きい団体では、現有の人的・物的資源では物理的に対応が困難になりますので、応が決定的に困難になる前に支援の準備を開始します。
発災初期において、各団体から自発的に要請がないことが多いので、調整側から情報を総合的に判断して、支援要請を働きかけることも必要になります。
本県の場合は、支援の供給元が、協定等に基づき、県内市町村等、県内民間事業者、関東ブロック管内の団体とありますので、各方面に対して働きかけをします。
また、処理施設の処理能力が一時的に飽和するので、近隣施設での一部代替処理を働きかけます。
さらに、これらの支援が現地に到達するまでのカバーとして県職員による現地支援を実施しています。特に廃棄物の排出圧力の高まる週末前や天候の悪化による2次被害等の可能性がある場合は、対処が必要になります。
自衛隊の派遣要請にあたっては、事前に被災現地において自衛隊と地元市との調整を行います。
支援は、廃棄物の排出圧力が緩和されるまで又は被災団体の体制が対応できるよう整うまで一定数の人員と資材を供給する必要があります。そのため、場合によっては、県から被災自治体に対して庁内横断的な体制構築を働きかける必要がある場合があります。
図14・15 台風19号支援概要
(4)技術支援
市町村の災害廃棄物業務が迅速に行われるように広域行政を担う県は個別の問題について助言等を行いますが、類似の問題については、説明会等を開催します。補助金申請は、被害が著しい自治体には、現地に出向いて開催しています。また、報告書作成については、説明会後に個別相談会を開催しています。
加えて、被災の少ない市町村等は、実情等に関する情報を求めていたことから、発災前から予定していた災害廃棄物対策研修会及び図上訓練を開催し、状況の報告や実際の状況を元にしたシナリオでの演習を上記の支援等と並行して開催しました。被災市町村に対しては各種照会の要請があることから、情報発信の代替は一定度必要と考えます。
(5)課題
災害対応の振り返りを被災市町村等に照会したところ、次のような課題があると考えています。
- 災害対策補助金の事前研修の強化。発災直後の仮置場管理等の委託発注のほか、仮置場の車路等の確保など補助金の充当される範囲を知らないために、対応が遅れる場面がありました。定期的な研修が必要と考えます。
- 業務継続の拡充。発災初期には、被災地周辺地域での移動に制約がかかり、職員の参集等が予定通り行われないことがありました。また、予定していた仮置場の浸水等予定していた場所や機材が使えないなどの報告がありました。業務継続のための基本的なルール等を周知する必要があります。
- 収集体制の強化。被災地では、仮置場への搬入手段を持たない住民が多数いました。地域(集落やブロック)単位での収集を行い、無秩序な廃棄物の排出による衛生環境の悪化や通行の支障を抑止する必要があります。
- 災害時のイメージ及び時系列での行動の共有。発災後に発生する状況のイメージの差から過度な楽観や不安感を有するなど見通しの立たないままに指揮をとらざるを得ない方が見受けられました。タイムラインの内容等をもとに時系列での整理を訓練等で行う必要があります。
7.まとめ
災害廃棄物対策は、多くの関係者の協力なくしては成り立ちません。発災時に迅速に行動するためには、平時から準備を関係者と一緒になって推し進めていく必要があります。
しかし、公務員は人事異動により数年サイクルで入れ替わりますので、他の関係機関との繋がりや実災害や訓練等で得た知識を組織的に保持できるような工夫が必要です。
協定の締結や研修・訓練の定期的な実施等を通じて、次の担当者へと引き継いでいく努力が必要となります。
本稿では、この数年の体験等のあらましをまとめています。これを参考に貴団体の訓練や対応等に役立てていただければ幸いです。