高知県林業振興・環境部 環境対策課 中平直樹主査
2018年3月
目次
1. はじめに
2. マニュアル作成のきっかけ
3. 作成作業
4. マニュアルの完成と図上訓練の実施
5. 今後の取り組み
6. 終わりに
1. はじめに
高知県では、平成26年9月に南海トラフ巨大地震の発生に伴う災害廃棄物処理対策の第1歩として「高知県災害廃棄物処理計画Ver.1」(以下「県計画Ver.1」という。)を策定した。この計画では、災害廃棄物の基本的な処理方針や手順を示しているが、具体的な対応策の明示に至らなかった課題が残されていた。
そこで、平成27年度に学識経験者、東日本大震災において現地で災害廃棄物処理に関わったコンサルタント、市町村職員で構成する「南海トラフ巨大地震の発生に伴う災害廃棄物処理検討会」(以下「検討会」という。)を設置し、課題への対応策について検討を行ってきた。
2. マニュアル作成のきっかけ
設置当初の検討会において、様々な課題を認識するなかで、委員から「東日本大震災の被災市町村は、何をすべきか誰も分からない状態となり、大混乱に陥っていた。これを防がなくてはいけない。」との意見があり、災害廃棄物の処理対応として市町村職員が初動期等にどう動くか定める「アクションカード」を作成してはどうかと提案がなされ、全員が賛同した。しかしながら、「アクションカード」は、災害医療の現場等でよく利用されているものの、当時調べた限りでは災害廃棄物処理に関して作成している自治体はなかった。どのように作成するか議論していた中で、まずはマニュアルを作り、その内容をもとに「アクションカード」を作成する手順とすることで全体が一致した。
こうしたことから、「市町村行動マニュアル~アクションカード付き~」(以下「マニュアル」という。)の作成に取り組むこととなった。
3. 作成作業
作成にあたっては、一定の時間を要することが想定されたため、平成27年度に県計画Ver.1や被災自治体の対応記録等をもとに、マニュアルの概要や骨子案を作成し、本格的な作成作業は平成28年度に行うこととした。
平成28年度は、マニュアルの概要や骨子案をベースとし、業務委託したコンサルタントの経験をもとに検討作業を進め、また市町村職員の目線を強化するため、さらに代表3市町村の職員をオブザーバーとして迎え、委員とともに審議を重ねていった。
作成作業の当初は、まず「誰が」を定めるため、「○○担当」と整理しようとしていたが、各市町村の職員数に差があることから、一人が複数の対応を行うことを想定し、「役割」として、次のとおり「(1)総括責任者、(2)企画、(3)総務、(4)経理、(5)住民窓口、(6)ごみ・し尿対応、(7)仮置場、(8)解体撤去、(9)処理」の9つに分類した。
【災害廃棄物処理対策における役割と業務内容】
1 災害廃棄物処理実行計画の策定、見直し
2 仮設トイレの設置、維持管理、撤去
3 ごみ(避難所・一般家庭)収集・処理
4 し尿(避難所・一般家庭)収集・処理
5 住民用仮置場(廃家具・廃家電等の受入)の設置、運営管理
6 一次仮置場(可燃・不燃物等への分別)の設置、運営管理(モニタリング等含む)
7 がれき・倒壊家屋の解体撤去
さらに、役割ごとのタイムスケジュールを整理し、「業務フロー」を作成した。
参考として「6 一次仮置場(可燃・不燃物等への分別)の設置、運営管理」の「業務フロー」を次に示す。
全体の構成ができていくなかで、仕様をシンプルにすべきか、それとも情報量を多くするべきか悩んだ。また、「この場合はどうするのか、さらにこうなった場合はどうするのか」と様々な対応パターンが想定され、どこまでマニュアルに記載するべきか終着点が見えなくなっていた。
結論としては、災害時は様々なトラブルが発生するため、全てのパターンに対応できるマニュアルを作成することは困難であると考え、次のとおり基本的な対応事項を「業務アクション」として整理することとした。
【業務アクション】
また、「アクションカード」については、「業務フロー」をもとに「役割」ごとに作成し、前後の繋がりも意識するため、前アクションと後アクションを記載することとした。
【アクションカード】
ようやく終着点が見えてきたところで、1~7の業務内容について、その基本的な対応事項を「業務フロー、業務アクション、アクションカード」に整理した。
4.マニュアルの完成と図上訓練の実施
こうした作業を経て、平成29年3月にマニュアルは完成したが、作成者である県は、大規模災害の対応を経験しておらず、また日頃からごみ処理等の業務も実施していないため、各市町村の職員が使いやすい仕様となっているか検証する必要があった。
そのため、このマニュアルを実際に使ってもらい、その実効性を検証するため、平成29年度において、市町村の職員を一同に集め図上訓練を実施することとした。
なお、本県は図上訓練の実施の経験もないため、災害廃棄物処理に関する研修に精通した国の研究機関の職員、そして東日本大震災の被災対応を経験した自治体職員をアドバイザーとして招へいした。
訓練は2回実施し、全34市町村を1回目と2回目の訓練に振り分け、それぞれの訓練において、市町村職員を1チーム9名の4チームに分け、それぞれ「(1)総括責任者~(9)処理」までのどの役割を担うか決めてもらった。
また、訓練のテーマとしては、市町村職員が比較的対応をイメージしやすく、各役割の対応頻度に差が少ない「6 一次仮置場の設置・運営管理」の業務を選定した。
手順としては、県側がコントローラーとなり、仮想市において大規模災害が発生し、災対本部から倒壊家屋等の被害状況を伝えるところからスタートした。基本的には各役割が業務フローに示した対応をこなしていく要領としたが、時折アクシデントの状況を付与し、その場合の対応を検討してもらった。
訓練は一日かけて実施し、特に午前中は各チームに混乱が生じ、アドバイザーからは「実際の被災対応を想像してもう少しリアリティを持つこと、総括責任者を中心に情報共有に努め、チーム全体で検討して対応することが重要である」等の助言をいただいた。
さすがに午後になるとほとんどのチームが訓練に慣れ、情報共有や対応もスムーズに行われていた。
訓練後、アドバイザーからは「訓練でもこれだけ混乱する。実際はさらに大混乱に陥り、それが何日も続く。でも応援職員はすぐには来ない。それまではここにいる皆さんが対応するしかない。だからこのような訓練を継続し、災害対応力を向上しておくことが重要である。」といった話があり、皆頷いていた。
初めて実施した訓練ではあったが、受講者からは「非常に勉強になった、これからも継続してもらいたい」といった声が聞かれ、大規模災害発生時の災害廃棄物処理対応をイメージするきっかけになったのではないかと感じた。
マニュアルについてはいくつかの改善点を指摘され、追って県から修正版を示すこととしているが、今後は各市町村において災対本部を中心とした全体の訓練で使用してもらい、さらにカスタマイズしてもらうことを期待している。
5. 今後の取り組み
これまでは、検討会による課題検討やマニュアルの作成等、県が主体となって災害廃棄物処理対策に取り組んできたが、災害廃棄物処理対応の主体はあくまで市町村であり、今後は市町村間で連携して課題検討等を実施してもらいたいと考えている。
そのため、今後の取り組みとして、まずは県内の市町村を6つの広域ブロックに分け、そのブロックごとに協議会を設置・運営し、またブロックの代表自治体が出席する幹事会を開催して県全体の情報共有や課題検討を実施していくことを検討している。
6. 終わりに
災害廃棄物処理計画を策定した自治体においては、次のステップとしてマニュアルの作成や各種訓練の実施を検討している話を多く聞く。
ここで紹介した検討会、マニュアル及び図上訓練の資料については、環境対策課のホームページに掲載しており、他の自治体の災害廃棄物処理対策の参考としていただければ幸いである。
<高知県林業振興・環境部 環境対策課のページ>
高知県災害廃棄物処理計画Ver.1 / 市町村行動マニュアル~アクションカード付き
<災害廃棄物情報プラットフォームでもご覧頂くことができます>
処理計画に取組んでいる自治体(高知県)