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寄稿:台風第10号で発生した災害廃棄物処理への県の支援について

岩手県環境生活部資源循環推進課 主任 白藤裕久

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2017年7月

 2016年8月下旬、過去の台風に比べ異例のコースを辿りながら東北地方に上陸した台風第10号は、東北地方や北海道で大雨による甚大な被害を生じさせました。本災害における災害廃棄物処理での岩手県による岩泉町への支援の様子について、岩手県環境生活部資源循環推進課 主任 白藤様よりご寄稿いただきました。

目次

  1. はじめに
  2. 初期対応の支援
    (1)状況把握/(2)被害状況/(3)廃棄物の分別/(4)廃棄物量推計
  3. 処理計画案の策定
    (1)処理指針と処理計画/(2)排出量と今後の予測/(3)処理先/(4)運搬計画
  4. 処理体制の構築
    (1)処理主体/(2)計画と進行管理/(3)破砕・選別業者選定方法
  5. その他
    (1)現地以外での支援/(2)条例の制定/(3)事前準備
  6. まとめ
  7. 参考文献

1. はじめに

 台風第10号は、1951年に気象庁が統計を取り始めて以来、初めて東北地方の太平洋側に上陸した台風で、岩手県では、2016年8月29日から30日にかけて沿岸北部・沿岸南部を中心に雨が降り続いた。30日夕方から夜のはじめ頃にかけては局地的に猛烈な雨を観測し、総降水量が約300ミリの大雨となった。

 この大雨により、岩手県内では岩泉町を中心に甚大な被害を受け、20人の死亡が確認され、未だに3人が行方不明となっている。特に岩泉町では高齢者施設の近くを流れる小本川が氾濫し、養護施設内に水が流れ込んだため、入居者の男女9人が死亡するなどの被害があった。

 県では、被害状況を調査し、特に被害が大きかった久慈市、宮古市、岩泉町の災害廃棄物処理の支援を開始した。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災津波により、沿岸自治体は大きな被害を受け、復興途上での被災であり、中には施設が復旧したばかりのさけ養殖施設が、壊滅的な被害を受けた例もある。3市町のうち、東日本大震災の際、災害廃棄物処理を自ら行った市町は久慈市のみであり、宮古市と岩泉町は災害廃棄物処理の経験がなかった。特に岩泉町は被害が大きく、東日本大震災を上回る被害であることが、現場調査を通じて容易に感じられた。

 3市町の処理方針を確認したところ、岩泉町のみが県に災害廃棄物処理を委託したいとの意向があったが、まずは被害状況の把握や処理計画の策定を行うべく現地支援することとなった。

2. 初期対応の支援

(1)状況把握

 役場の状況は担当者が2名で、多忙で現場に行けないうえ、災害廃棄物処理の経験が少ないため、初期対応として、分別の徹底と廃棄物量推計の支援が必要と考えられた。

(2)被害状況

岩泉町の調査時点の仮置き場の状況を写真1から10までに示す。

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写真1 家屋の被害状況

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写真2 被災家屋から排出された災害ごみ

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写真3 初期の一時仮置き場

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写真4 写真3の2日後:分別は不徹底

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写真5 分別のための表示をしたが手遅れ

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写真6 別の一時仮置き場:分別指示の遅れのため混合状態

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写真7 未搬入の2次仮置き場を確保し分別表示してから搬入開始

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写真8 別の2次仮置き 見せごみも実施

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写真9 一番広い2次仮置き場、破砕分別施設設置を想定しコンクリート敷きの場所を確保

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写真10 写真9と同じ仮置き場、整地し分別表示を行ってから搬入を始めた。

(3)廃棄物の分別

 分別の程度が処理費用に大きく影響する。このことは、東日本大震災の際の仙台市の対応と、岩手県での対応の違いを経験し、分かっていた。津波と違って混合状態で分別不可能な廃棄物が少なかったことと、未搬入の仮置き場が確保できたため、分別指示が有効と思われたことから、分別指導を行った。

 熊本地震での環境省職員の初期対応を見習って、住民に負担がかからない程度の以下の10種類への分別を指示した。

(1)可燃物、(2)流木(木くず)、(3)家具(大型)、(4)ベッド・ソファー・マット、(5)たたみ、(6)不燃物、(7)金属、(8)家電、(9)土砂、(10)灯油等危険物

 そのうえで、仮置き場に10種類の表示板を設け、見せゴミを置いたうえで、仮置き場の管理者を確保し、混合状態となることを防いだ。

 当然ながら、住民への周知も重要であり、分別を徹底するよう指示し、図1に示す資料を全戸に配布した。その結果、仮置き場の廃棄物は写真11から14のように分別されて保管されるようになった。

分別表示後に搬入された仮置き場の可燃物図1 各戸配布資料

この画像はクリックで拡大することができます)

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写真11 分別表示後に搬入された仮置き場の可燃物

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写真12 木くず

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写真13 家電

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写真14 不燃:地元のボランティアが分別を指導

(4)廃棄物量推計

 発災初期の廃棄物量推計にあたっては、平成28年9月23日時点で公表されていた被災家屋数と各種原単位を用いた推計から、壊れた家財等の片付けと解体廃棄物の両者を合わせて約5万8千トンという推計値を得た。併せて、表1に示す16か所の仮置き場と3か所の2次仮置き場の実測による推計も行った。9月23日時点での実測値は6.5千トンほどであったことと、仮置き場への搬入車両の数等から進捗率を50%と推定し、発生量は1万3千トンと推計した(表2)。

 なお、水害で発生する土砂量については、既存データが見つけられなかったため、推計を行わず、実測の結果を待った。

表1 町内の仮置き場

町内の仮置き場

表2 廃棄物量の推計
廃棄物量の推計

3. 処理計画案の策定

(1)処理指針と処理計画

 本県では災害廃棄物の処理にあたっては、「岩手県災害廃棄物対応方針」1)に従うこととしており、今回の災害では「台風10号災害廃棄物処理指針」を策定して対応した。内容は(1)処理の考え方 (2)被害状況 (3)基本方針 (4)役割分担 (5)処理スケジュールが記載されており、処理期間を概ね2年以内とすることとされている。この指針に沿って岩泉町の処理計画を策定することとしたが、廃棄物量、処理先、運搬計画、スケジュールの設定が必須である。

(2)排出量と今後の予測

 片付けゴミについては、3月1日時点での仮置き場の廃棄物量は2万トンほどであったが今後25%程度増加すると見込んで2万5千トンと想定した(表2)。9月23日時点では進捗率を50%と見込んだが、25%ほどしか持ち込まれていなかったことになる。保管量は随時変化するので、聞き取り調査等を多く実施し、正確な進捗率の把握が必要である。

 解体ゴミについては、全壊した家屋は439戸であったが、既に修理して居住している住宅があることや、河川改修区域は別に補助制度が利用可能で、災害等廃棄物処理事業の対象にならないことなどを勘案して、解体される住宅を最大200戸と想定し、1万7千トンの発生を想定した。

 また、土砂は測量値の25%増しの3万3千トンとした。今回のデータが今後の処理計画作成に役立つことを期待する。

 これらを総合し、処理計画案策定時の廃棄物量は全量で7万5千トンと推計した。

(3)処理先

 県内を中心に大量の廃棄物が処理できる施設の受入れ条件とおおよその単価調査を行った。結果の一部を表3に示す。可燃物の処理費用は、岩泉町の一般廃棄物を処理している宮古広域行政組合が最も安価で、運搬費用も安いことが分かった。しかし、2炉ある焼却炉のうちの1炉は平成28年度末まで改修中で余力が無く、受入れは平成29年度からとなった。

表3 処理先の受入れ条件

処理先の受入れ条件

 また、廃棄物を分別した可燃物を含む不燃物については、最終処分場での受入れは不可能であることから、セメント会社での処理を想定した。また、柱材や住宅から排出された流木等は、周辺のバイオマス発電施設や木製品製造工場で処理することとし、処理費用を抑えて再利用することとした。

 なお、受入れ可能な大きさは処理先によって異なっており、破砕単価と処理単価によって調整する必要があった。

(4)運搬計画

 東日本大震災の際は、太平洋セメント(株)大船渡工場が処理施設の中心的な役割を担ったため、災害廃棄物の運搬は船舶で行い、ダンプトラックによる運搬が補助的に行われた。また、内陸市町村の一般廃棄物焼却炉では、ダンプトラックでの受入れが不可能な施設もあったためパッカー車を基本とした。

 今回は、宮古地区広域行政組合への運搬をパッカー車で行うこととし、セメント会社への運搬は岩泉町の小本港がガット船の停泊に不向きであることから、ダンプトラックで行う計画とした。

4. 処理体制の構築

(1)処理主体

 災害廃棄物は一般廃棄物に該当するため、処理主体は市町村となる。岩泉町は東日本大震災では県に処理を委託したが、今回の災害においては、岩泉町が主体となり、県が契約事務も含めて支援する方法で対応することとした。

(2)計画と進行管理

 国庫補助事業である災害等廃棄物処理事業は、処理計画の作成や、処理進捗状況の管理等を外部に委託することは原則補助の対象とならないが、市町村の規模や職員数によって補助が認められた例もあるため、計画作成と進行管理を業者委託し、町の負担軽減と確実な処理支援体制の構築を行った。

 指名競争入札の結果、東日本大震災の際、岩手県が進捗管理を委託した応用地質(株)に委託することが決まった。

(3)破砕・選別業者選定方法

 破砕選別業者の選定にあたっては、町内に廃棄物処理業者が無いことと、予定価格の設定が困難と想定されたことから、競争入札方式ではなく、提案公募(プロポーザル)方式で業者選定を行うこととした。公募要項等は平成28年12月26日に公告され、年度中に契約を締結し、4月から処理が順次行われている。

5. その他

(1)現地以外での支援

 被災した市町村から、災害等廃棄物処理事業の補助率や補助対象の範囲に関する問い合わせが相次いだことから、担当者は環境省東北地方環境事務所に頻繁に問い合わせる必要があった。

 東日本大震災の際は、前例がない災害であったことから、補助率、対象となる廃棄物や構造物が決定するまで時間を要したが、今回は補助率も早期に決定し、対象も災害関係業務事務処理マニュアルどおりであったため対応に困惑することは少なかった。

 ただし、道路・河川・農地の廃棄物の撤去については国土交通省や農林水産省の補助事業で行う必要があり、県庁内の他部局との調整や棲み分けを確認する必要があった。

 また、支援業務の中に破砕選別業者の選定が含まれていたため、積算が必要となり土木職員の確保が課題となった。復興期間中で他部門でも土木系職員は不足しており対応には苦慮した。

(2)条例の制定

 平成27年の廃棄物処理法の改定により、災害廃棄物を処理する施設については届出で対応することが可能となったが、生活環境影響調査の対象施設を市町村の条例で定めていない場合、届出では対応できないことが分かったため、岩泉町には条例制定も併せて助言した2)

 岩手県内にはこの規定のある条例を定めている自治体はなかったことから、今後の災害に備えて制定を促す必要がある。

(3)事前準備

 県では災害廃棄物対応方針を策定し、市町村に災害廃棄物処理計画を策定するよう助言している。今回の台風災害でも処理計画の策定と、災害廃棄物の仮置き場の確保が重要であることを再認識した。岩泉町は比較的広大な公有地が確保できたため、分別の徹底や集積が円滑に行われた。

 県の出先機関としても、災害への初期対応として消毒剤の手配や住民への周知、腐敗性廃棄物やし尿処理への支援、廃棄物量の実測等の支援を意識しておくことが重要である。

6. まとめ

 東日本大震災での経験を生かして、台風第10号により岩泉町で発生した災害廃棄物の処理計画の策定を支援した。東日本大震災では、津波で発生した廃棄物がほとんどで、人身被害が甚大だったため、初期対応としての廃棄物の分別徹底は困難であった。本災害では、初期に廃棄物の分別を周知することができたうえ、住宅地周辺の仮置き場の他に、空き地の2次仮置き場を確保できたことから、良好な状態で分別保管されることになった。

 今回の水害では進捗率の把握状況によっては推計量が過小となることも確認された。また、流木や土砂に関する文献は存在しないため、今回の災害廃棄物処理での実績値が後の廃棄物処理のデータとして利用されることを期待する。

7. 参考文献

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