災害時の対応を知るPost-disaster actions 災害時にどのような災害廃棄物対策を進めるべきかを知る

寄稿:災害廃棄物処理支援員派遣報告~災害廃棄物対応における支援の価値:熊本から能登へつなぐ実務知と現場力~

熊本県菊池市経済部農林整備課 参事 佐藤佳記

菊池市_1

2026年3月

目次

1.熊本地震における災害対応の経験
2.熊本地震の現場で直面した課題
3.平時からの備え(菊池市の取組)
4.令和6年能登半島地震における支援活動
5.1回目派遣(初動期)の支援内容
6.2回目派遣(復旧前半期)の支援内容
7.支援活動を通じて見えた課題
8.支援活動で意識した実務上のポイント
9.支援の成果と限界
10.まとめ(役割分担の重要性)

1.熊本地震における災害対応の経験

 私は平成12年に菊池市役所(人口約4.7万人)に入庁し、道路整備や災害復旧、スポーツイベント企画、農業振興などの業務を担当してまいりました。平成25年度から令和4年度までの10年間は環境課廃棄物対策係に所属し、一般廃棄物処理業の許認可、不法投棄対策、ごみ分別制度の見直しに伴う住民説明、収集体制の再編などに従事してきました。
 その中でも最も困難で、かつ大きな経験となったのが、平成28年の熊本地震における災害廃棄物処理業務です。
 本市では、災害ごみ約10.3万トン(年間処理量の約8年分)と、公費解体1,309棟の対応を約2年間かけて実施し、総事業費は約52億円となりました。
 この対応を通じて多くの困難やトラブルを経験しながら、災害廃棄物処理に関する知見や実務ノウハウを蓄積しました。これらの経験を被災自治体の支援に役立てたいと考え、令和2年に創設された環境省の災害廃棄物処理支援員制度(人材バンク)に登録しました。
 現在は農林整備課に所属しておりますが、令和6年能登半島地震では支援員として、令和6年2月と5月の2回、石川県能登町に派遣されました。

2.熊本地震の現場で直面した課題

 災害時には、平時と同様に生活ごみの処理を継続しながら、年間処理量の数年分に相当する災害廃棄物が一度に発生します。
 また、公費解体などで発生する解体廃棄物は性状が産業廃棄物に近く、自治体の一般廃棄物処理施設では処理が困難となるケースも多くあります。
 さらに、災害廃棄物処理業務では、次のような対応が必要となります。

  • 公費解体制度の構築
  • 仮置場の確保・運営
  • 解体工事や登記に関する知識
  • 住民からの苦情対応

 当時の環境課は事務系職員が多く、土木部門の経験があった私が中心となって対応を任されましたが、不慣れな業務で理解不足や情報不足もあり、多くの試行錯誤を繰り返しました。
仮置場に急激に積み上がる災害ごみの山を前に、

  • 仮置場の不足
  • 不透明な公費解体制度への対応
  • 一日中続く住民からの相談や苦情

などの課題が重なり、強い危機感を覚えたことを今でも鮮明に記憶しています。
こうした経験から、平時からの備え(準備)の重要性を強く認識しました。

菊池市_1

熊本地震の被災家屋

サンプル画像1

熊本地震時の災害ごみ仮置き場(菊池市)

3.平時からの備え(菊池市の取組)

 災害時に制度をゼロから構築することは非常に困難です。熊本地震後、本市では災害廃棄物処理体制の強化を図りました。
 主な取組は以下のとおりです。

(1)災害廃棄物処理計画の見直し

災害対応の経験を踏まえ、計画の抜本的な見直しを実施しました。

(2)仮置場候補地の事前選定

災害時に迅速に仮置場を設置できるよう、複数の候補地を事前に選定しています。

(3)住民への平時からの周知

全世帯に配布する家庭ごみ収集カレンダーやごみ分別冊子に「災害ごみの出し方」の特設ページや見出しを設けるなど、平時から周知を行っています。

(4)運営資材・広報資料の事前準備

  • 住民向け周知文書
  • 仮置場レイアウト(分別基準)や案内チラシ
  • 仮置場での掲示物

(5)公費解体実施要綱の事前整備

実施要綱を事前に策定しておくことで、災害直後の混乱期においても円滑に制度を運用できるようにしました。

(6)人員体制の事前調整

災害時には避難所運営や罹災調査など様々な業務が発生します。その中でも災害廃棄物処理は、特に長期間にわたり継続する業務です。持続可能な体制とするため、災害廃棄物業務に従事する職員については、防災部局と調整し、他の動員対象から除外するようにしています。
また、

  • 災害ごみ仮置場の管理運営
  • 交通誘導員、場内誘導員
  • 解体工事の監督業務

などについては外部委託を活用することで、職員の負担軽減を図ることが重要です。なお、災害廃棄物処理に要した経費の大部分は国の補助制度により支援されます。

4.令和6年能登半島地震における支援活動

 環境省の人材バンク制度により、石川県能登町(住民課)へ令和6年2月と5月の2回(約10日間/回)、災害廃棄物処理支援として派遣されました。
 能登町(人口約1.4万人)は菊池市と同様に中山間地域に位置する自治体ですが、今回の震災では

  • 公費解体予定棟数 4,516棟
  • 災害廃棄物量 31万2千トン(年間排出量の約46年分)
  • 直接死者数 78人

と、本市における熊本地震の被害と比較しても非常に大きな被害を受けていました。

また、半島地域特有の交通事情に道路被害が重なり、比較的被害の少なかった中核市である金沢市からの移動に片道4~5時間を要する状況となっており、支援活動や復旧作業の大きな障壁となっていました。

サンプル画像1

環境省との事前打ち合わせ

5.1回目派遣(初動期)の支援内容

 令和6年2月1日に能登町へ着任した際、公費解体の受付開始が2月13日と決定していたものの、職員は他の災害対応業務に追われ、受付体制の整備が思うように進んでいない状況でした。
 そのため、受付開始に向けて次の支援を行いました。

  • 公費解体実施要綱の作成
  • 受付体制の構築
  • 職員向けマニュアル作成
  • 住民向け広報チラシ作成
  • 災害廃棄物処理に関する疑義対応

 非常にタイトなスケジュールではありましたが、連日早朝から深夜まで作業を続け、関係機関とも連携しながら準備を進めました。
 その結果、能登町は石川県内で最も早い2月13日に公費解体受付を開始することができました。

サンプル画像1

能登町の公費解体受付

6.2回目派遣(復旧前半期)の支援内容

 5月に再度派遣された際には、生活ごみの処理体制はある程度回復していましたが、町内では全壊家屋が多数残っており、復旧はこれから本格化する段階で、災害対応は初動期から復旧前半期へ移行していました。
 この時期の主な課題は、

  • 公費解体で今後本格化する解体廃棄物への対応(受入・処理)
  • 所有者不明建物への対応

でした。

支援内容としては、

  • 中長期派遣職員への助言
  • 災害廃棄物処理対策の検討
  • 自費解体償還制度の整理
  • 所有者不明建物管理制度の活用検討

などを行いました。なお、近隣市町の宿泊施設がすべて閉鎖していたため、1回目と同様に庁舎会議室で寝泊まりしながら支援活動を行いました。

7.支援活動を通じて見えた課題

(1)マンパワー不足

 大規模災害時には、小規模自治体ほどマンパワー不足が顕著になります。災害廃棄物業務は、通常の一般廃棄物行政とは大きく異なります。処理量が圧倒的に増加し、実質的には産業廃棄物に近い性状であるためです。
 また、公費解体では土地や建物の所有権、登記などの問題も発生します。
 このように、災害廃棄物業務には産廃処理に関する知識のみならず、土木や登記事務など幅広い知識を必要としますが、これらに対応できる自治体職員は限られています。
 そのため、実務経験者で一定程度の知見を有する自治体職員で構成される人材バンク制度の活用は、非常に有効であると考えます。

(2)関係行政機関の連携

 環境省が活用した「LINE WORKS」により、国・県・自治体・支援員間の情報共有は比較的円滑に実施されたと感じています。
 一方で、自費解体が産業廃棄物として取り扱われるなど、関係行政機関との間で必ずしも認識や連携が十分に共有されていないと感じる場面もありました。今後の大規模災害時における行政間連携の在り方については、引き続き検討が必要であると考えます。

8.支援活動で意識した実務上のポイント

 支援を効果的にするため、次の点を重視しました。

(1)主体的な業務実施

 被災自治体の職員は非常に多忙であり、支援員に仕事を依頼する余裕がない場合も少なくありません。そのため、指示を待つだけでは十分な支援につながらないことがあります。
 このため、同じ執務室で一緒に業務に従事することで、業務の進捗状況を把握し、支援が必要と判断した業務については自ら申し出て積極的に引き受けるようにしました。

(2)信頼関係の構築

 電話対応や苦情対応にも積極的に関与し、職員が相談しやすい環境づくりを心掛けました。その結果、帰任後も約1年間にわたり、電話やメールによる後方支援(疑義照会への対応)を継続する関係を築くことができました。

9.支援の成果と限界

 短期間の派遣ではありましたが、

  • 公費解体受付開始の実現
  • 制度構築支援
  • 職員負担の軽減

 など、一定の成果を上げることができました。
 一方で、短期派遣であるため中長期的な業務推進には十分関与できないという限界も感じました。

10.まとめ(役割分担の重要性)

 災害廃棄物処理業務では、次のような役割分担が重要であると考えます。

  1. 自治体プロパー職員
    庁内調整、議会対応、最終意思決定
  2. 人材バンク支援員
    制度構築、専門的助言、計画策定、苦情対応等(職員のフォロー)
  3. 短期派遣職員等
    罹災調査、避難所運営、受付業務

 これらの立場が相互に連携することで、初めて円滑な災害対応が可能になると考えます。
 最後に、令和6年能登半島地震で被災され、これまで、そして現在も復旧・復興に尽力されている自治体職員の皆様に心より敬意を表するとともに、一日も早い復旧・復興を祈念いたします。
 また、今回の報告が今後の支援活動の一助となれば幸いです。

 

スマートフォン用ページで見る