いわき市 地域住民による災害用地域臨時集積所設置の仕組みの創設
インタビュー応対者:
いわき市生活環境部 資源循環推進課・資源化推進係 係長 本田 洋平氏 主査 西山 諒 氏
いわき市生活排水対策室下水道事業課 係長 佐藤 仁昭 氏

2025年12月
目次
はじめに
1.制度創設の背景
1-1.いわき市の概要と近年の災害
1-2.564か所の「勝手仮置場」が発生
1-3.検証から生まれた「災害用地域臨時集積所」
2.災害用地域臨時集積所の仕組みと運用方法
3.住民との合意形成と説明会での工夫
4.住民との机上訓練・実地訓練の取組
5.現状の課題と今後の取組
編集後記
はじめに
福島県いわき市では、令和5年台風13号の災害対応をきっかけに、地域住民による臨時集積所の仕組みを新たに創設しました。本稿では、その背景と制度の内容、住民との合意形成や訓練の取組、今後の課題について、担当職員へインタビューを行い、とりまとめました。
1.制度創設の背景
1-1.いわき市の概要と近年の災害
いわき市は、面積1,232.51km²、人口約30万人、高齢化率は3割を超える中核市です。近年、大きな水害を2度経験しています。
- 令和元年東日本台風:災害廃棄物 97,928トン
- 令和5年台風13号:災害廃棄物 9,918トン
令和5年の台風では、9月8日(金曜日)夜の大雨の後、週末に天気が回復したため、被災家屋の片付けが一気に進みました。一方で、市は発災前から仮置場開設に係る業者と連絡を取り合い、発災翌日から開設準備を開始、計画どおり発災3日目から片づけごみの受け入れを開始しました。しかし、それまでの間に住民の片付けごみの排出が先行し、公園や空き地に多量のごみが持ち込まれる事態となりました。
1-2.564か所の「勝手仮置場」が発生
令和5年台風災害では、結果として47か所もの「勝手仮置場」(市が設置していない集積場所)が発生してしまい、中には誤った情報をもとに看板が設置された大規模な勝手仮置場もありました。被災していない地区からも退蔵ごみ(濡れていない家電やブラウン管テレビなど)を持ち込む人がいたそうです。
住民の過去の経験から、近くの公園に出してよいと勘違いしている人が多く、被災していない地区からも退蔵ごみ(濡れていない家電やブラウン管テレビなど)を持ち込む人がいたそうです。報道にセンセーショナルに取り上げられて問題となり、出されている場所が報道で知られると、さらにごみが増える事態となりました。
市は勝手仮置場発生の要因として、
- 住民の「とにかく早く片付けたい」という強い思い
- 「仮置場が開設されるまでごみを出さないでほしい」という市のメッセージが十分に伝わっていなかったこと
- 「災害時は前に出した場所に出せばよい」という“災害慣れ”による誤った認識などが重なった結果であると分析しています。
令和5年台風災害の集積状況 出典:いわき市災害廃棄物処理計画webサイト
1-3.検証から生まれた「災害用地域臨時集積所」
令和5年台風災害の検証を行った外部検証チームから、「初動期に地域の自治会と協力し合うことはできないか」との提案がありました。水害時は、被災エリアがどこかを職員だけでは把握するのは難しく、どうしても対応が後手に回りがちです。そのため、
- 住民自身が「ごみをどこに・どのようなルールで出すか」を理解して行動できること
- それを市の側が制度として支え、補完すること
を目指し、住民主体で初動期を担う「災害用地域臨時集積所」の仕組みが検討・創設されました。全国的にも先進的な取組として注目されています。この制度のポイントは、「臨時集積所を設置するかどうか」を地域が自ら選択することにあります。つまり、市民の意思で片付けごみの対応を選択するのです。同時に、「公園等の空き地に勝手に出してはいけない」という基本ルールを市民と共有することが、制度運用の前提となっています。
2.災害用地域臨時集積所の仕組みと運用方法
【平時】
(1)候補地の検討
・「全地区必ず設置」ではなく、各種自然災害で被災する可能性や土地条件を踏まえ、必要かどうかを判断
・候補地の検討:地域の使いやすさ、アクセス、周辺環境などを踏まえて候補地を選定。
(2)届出書(選出)の提出
・地域から市に対し臨時集積所の届出書を提出
・公用地の場合:市が所管部署と調整
・民地の場合:災害時に一時的に使うことについて、土地の実質的管理者・所有者の了解を得たうえで届出
(3)市からの支援資材の配布
・分別区分表示、臨時集積所表示、注意書き等を一式にしたラミネート看板セットを配布
【発災時】開設の連絡と開設届
・開設について地域から市に開設届を提出。これにより、市はどこで臨時集積所を使われ始めるか把握できる。
・書面提出が難しい場合は、まず電話連絡で開設を一報し、書面は後日の提出でも可能。
【開設後】市による回収・パトロール
・地域からの回収希望の連絡や、職員によるパトロールの状況を踏まえ、委託業者を手配して順次回収
・細かい路地や狭小地に設置された臨時集積所については、職員が現場を確認しつつ廃棄物の回収方法を検討する。
【閉鎖】
・地域内の排出が一巡した段階で、地域が閉鎖時期を判断。
・ロープ等で閉鎖を示し、住民に周知
【原状復旧】
・利用終了後は、市が土地の原状復旧をして返還。
・事前届出をされ、災害廃棄物処理計画に位置付けられた集積所であれば、市が管理・把握する集積所扱いとなり、国庫補助の対象にな
り得る。
・これにより、民有地であっても「使った後はきれいにして返してもらえる」という安心感が得られ、事前申請のインセンティブになっ
ている。
臨時集積所の届出書記入例
(いわき市のHPに掲載してあるPDFファイルにアクセスします。)
3.住民との合意形成と説明会での工夫
市内には 656 の行政区があり、市は次のような段階的な説明会を重ねて制度の浸透を図っています。
(1)支所職員向け説明会
市内12カ所にある各支所の職員を対象に説明会を実施。これは、支所の職員が地域との連携窓口としての役割を果たす上で、制度の重要性を認識してもらうため。
(2)代表区長向け説明会
各支所の職員を通じて、それぞれの所管地区の代表区長を集めた市民向けの説明会を実施。
(3)区長・その他代表者への説明会
代表区長がカバーするエリアの各区長や、さらに下部の代表者などに細分化して説明。
(4)一般住民向け説明会
区長からの要望があれば、随時、一般住民を対象とした説明会も実施。
令和7年10月時点で、市民向けに23回実施し、その後も、要望に応じて実施しています。
説明会の内容と住民の意見等については以下のとおりです。
説明会の主な内容
- 「地域臨時集積所パンフレット」を使用
臨時集積所の事前申請のメリット、災害ごみの分別区分や排出ルール、臨時集積所のレイアウト例などを掲載したパンフレットを用いて説明(地域臨時集積所パンフレット) - 届出は義務ではなく、地域の選択肢であることを説明
- 臨時集積所を設置しない場合のルール
仮置場が開設される発災3日目まで片付けごみを自宅で保管し、公園などへ出さないよう依頼。 - 狭い場所での運用例を紹介
臨時集積所が狭い場合は、腐敗性や臭気が問題になるものを先に排出し、その後可燃物、家電類などを時間差で排出する方法を提案。
主な市民の意見と市の対応
「なぜ災害用地域臨時集積所を市が決めないのか」
・過去に市が指定した場所が地域ニーズに合わずにすぐに閉鎖した事例があった。
・その反省から、地域ごとに自分たちで使いやすい場所を選ぶ方式とした。
・自分ら選ぶことで、災害時の対応が“自分事”になり、排出場所がわからず混乱することを防げる。
「管理を住民にやらせるとは何事か」「被災しているのにそこまでできない」
・常時監視を求めるものではなく、看板設置や初動の簡易分別など、あくまで“できる範囲での協力”をお願いしている。
「仮置場設置に3日間もかかるわけがない」
・仮置場には敷鉄板の敷設、重機搬入、作業員確保、動線整備など多くの準備が必要で、一定の時間を要する。
・アスファルト敷きの広い場所は郊外に偏りがちになり、運搬距離が長くなることもある。
「災害時になぜ分別しないといけないか」「分別の判断は難しい」
・臨時集積所での分別は6区分(可燃ごみ/不燃ごみ/廃家電/金属類/畳・マットレス/その他)にとどめ、市民負担を最小限にしてい
る。
・分別は完璧でなくてよく、とにかくやって欲しい。誰かが始めれば他の人も続き、混合廃棄物の発生を防げる。
・初動の簡易分別・混合廃棄物の発生抑止で、後工程の大幅な省力化と時間・費用の削減につながる。
こうした粘り強い説明により、2025年11月時点の届出数は 87か所(民地32、公用地55) となりました。庁内でも制度の理解が進み、公用地の活用が条件付きで認められるなど、調整が進展しています。
4.住民との机上訓練・実地訓練の取組
いわき市では、災害時地域臨時集積所が災害時に速やかに開設できるよう、住民との机上訓練と現地確認を2地区で行いました。集会所と地域臨時集積所となる公園に、住民が1回目13人、2回目8人集まりました。
机上訓練
まず、職員が災害時のごみの出し方や勝手仮置場が生じるリスクについて説明しました。その後、災害時の状況が時系列で書かれたワークシートを使い、「その時、自分はどう行動するか」を参加者が書き込む訓練を行いました。
次に地図を用いて、地域臨時集積所での分別ルール(6分別)を確認し、片付けごみをどこに置くかを具体的にイメージしました。さらに、「見かけない人がごみ出しをしていたらどうするか」、「集積所が満杯になったら場合の対処」など想定されるトラブルへの対応策を考えました。
いわき市職員の説明資料(抜粋)
現地確認
机上訓練の後、実際に地域臨時集積所となる公園の現地確認を実施しました。
現地では、地図上で見えてこなかった、公園内の敷設物やごみの搬入出の際の車両の搬入経路などを確認しました。
これらの訓練を通じて、住民からは「災害時の具体的なイメージが持てた」「自分たちの役割を考えるきっかけとなった」といった気づきや意見が得られています。

集会所での研修

臨時集積所の現地確認

臨時集積所利用のイメージづくり
5.現状の課題と今後の取組
いわき市では、令和7年8月末から、全地区を対象に災害時臨時集積所に関するアンケート調査を開始しました。調査をきっかけに新たに届出が10件増え、さらに「作るつもりだが運用面に不安があり、訓練を希望する地区」、「適地がなく、どうしてよいか分からない地区」、「水害の想定が低く、臨時集積所は不要と判断する地区」など、それぞれの地区の事情が見えてきました。市は、訓練希望のある地区には机上訓練・実地訓練を行い、「適地がない」と悩む地区には職員が一緒に候補地を探すなど、個別のサポートを進めていく予定です。また、「うちは要らない」とする地域についても、水害リスクの有無をマップで照らし合わせ、発災時のパトロールに活かそうとしています。災害時には、今後も一定数の勝手仮置場が発生してしまう可能性は否定できません。しかし、地域臨時集積所の届出を少しずつ増やし、訓練などを通じて制度の実行性を高めていくことで、混乱や負担を着実に減らしていくことを目指しています。
編集後記
いわき市の職員の方々は、住民の「早く片付けたい」という気持ちや被災時の不安・負担を真正面から受け止めたうえで、「なぜ勝手仮置場が発生してしまうのか」を丁寧に分析していました。その結果として生まれたのが、住民とともに初動期を支える「災害用地域臨時集積所」という仕組みです。災害廃棄物対応を自分事として捉えてもらいたいという強い思いと、災害時に勝手仮置場が発生しないよう、住民とともに熱心に真摯に取り組んでいる様子がとても印象的でした。